第九話 律とこの世界について考え直します
お父様は紙を見ながら言い始めた。
「王位継承権第一位、リディール・セア・メッチャツオイ。王位継承権第二位、アルカ・ミヤ・メッチャツオイ。王位継承権第三位、セラフィー・ゼア・メッチャツオイ。王位継承権第四位、エルディー・ルザ・メッチャツオイ。以上だ」
大まか予想通りだったな。
しかし、エルディーお兄様が王位継承権第四位とは……。
これは意外すぎる。
エルディーお兄様は机を叩いて立ち上がった。
「父上!どういうことですか!?なぜ俺が王位継承権第四位なんですか!?なぜ出来損ない達よりも下だと言うんですか!!」
「分からぬか?」
「分かりません!なぜですか!?俺はこんなにも努力をしたのに!!」
声を荒げるエルディーお兄様は王族とは思えない。
妹や弟の前でよくもまあそんな姿を晒せるわ。
◇◆◇
ここで、唐突のリディールとりりあのマナー講座〜!
「エルディーお兄様のあの行動、一貴族だったら不敬罪で捕まってたわね」
「え?なんで?上の人にも意見する権利くらいはあるでしょ?」
「りりあのいた世界ではね。メッチャツオイ王国では上下関係がシビアだと言うことはりりあも分かってるよね?」
「うん。でも、家族なのにダメなの?」
「それがダメなのよ。家族と言えど、所詮は血の繋がっただけの他人。国王は国を統べる人間よ?お父様が優しいだけで、普通は『父上』ではなく『陛下』って呼ばないといけないの」
「うわぁ、やっぱり貴族はめんどくさい……」
リディールとりりあのマナー講座!
END!
◇◆◇
「努力すればいいと言う問題ではない。俺は生活態度、他者への気配り、民を考える心、そして家族を大切にする意識を見て王位継承権の格付けをしている」
おっと、壊滅的じゃないか。
生活態度も悪いし、他者への気遣いもミリ単位でもできてない。
その上家族に向かって「出来損ない」って言うような人間だもんね。
「それに、どれだけ頑張ってもお前が王位継承権第一位になることはないと、お前が一番分かっているだろう」
「……っ!」
え?
どういうこと?
どれだけ頑張っても王太子にはなれない?
もし仮にさっきお父様が挙げた評価基準を全て満たしていたとしても、エルディーお兄様は王太子になれないって。
そう言ってるの?
「父上、それを言うのは……」
「セラフィー、お前はコイツに甘すぎる。これだけしっかり言わねば、この愚か者には理解できぬのだ」
「しかし……」
セラフィーお兄様が何か言いかけたけど、お父様の鋭い視線を向けられたことによって、セラフィーお兄様が言葉を続けることはなかった。
◇◆◇
――数日後
「ってことで律、これについてどう思う?」
「それについて、よりも僕はお前がようやく前触れを出したことについて驚きを隠しきれない」
そう、私は今回初めてアタマカユイ男爵家に前触れを出したのだ。
「お父様が卒倒したから二度とやらないでくれ」
「どっちだよ」
思わずツッコミを入れてしまった。
この間まで前触れ出せって言ってきてたくせに。
「で、王位継承順位の話は後回しでいいんだけど、りりあの記憶とリディールの感情を無事に取り戻したんだな」
「うん。トラウマ克服もしたし、魂の融合もした。完全に記憶が戻った今、この世界の名前についての記憶がある」
私が言うと、律は興味深いそうに「ほう?」と言った。
律も気になってたんだよね?
教えてあげよう。
「実はね、この世界の人達のファミリーネームは私考えてないの」
「は?」
「律も小説読んだんでしょ?ファミリーネームまでは書いてなかったはずだよ」
「言われてみれば、この世界に来てから初めてファミリーネームを知ったんだった」
そう、私はファミリーネームまでは考えてなかった。
そして、小説の登場人物であるリディールやリリアーナの名前も変化している。
「私が書いた小説の登場人物の名前もよく思い出してみて欲しいの。リディールなんて名前の人がいた?リリアーナなんて名前の人がいた?」
私が言うと、律はハッとした顔をした。
そんなおしゃれな名前をした人を私は書いてない。
私が作った物語と同じ設定だったから、律も気づかなかった。
でも、「ミラクルハッピー物語」を作った私の記憶が全てを証明している。
昔の私のネーミングセンスってば壊滅的だったもんね。
――りーあ、この子に名前つけるとしたらどんな名前をつける?
――鉄銅キメラ
「ミラクルハッピー物語」の登場人物には、こんな感じの名前がついてる。
だからありえないんだ。
「覚えてない?私の小説の登場人物の名前は『リサイクル・リズム』『エスディー・ジズー』『エコバッグ・エコロジー』とかだったじゃん」
「そうだった……。なんかエコな名前がいっぱいなんだった……」
名前が違うだけで、この世界は私が作った世界そのものだ。
私が物語を変えているから確証はないけど、名前が修正されただけの世界の可能性もある。
「それについても考えていかないとだな。ただ、一つ気になることがある」
「何?」
「僕がこの世界で初めてお前と会った時、なぜ自分が主人公だと言ったのか。なぜリディールを悪役だと言ったのか」
その言葉に私はハッとした。
私の物語、「ミラクルハッピー物語」に悪役はいなかった。
みんなが自分を愛せる世界、どんな違いがあっても愛で繋がれる世界。
そんな理想の世界を作りたくて、私は「ミラクルハッピー物語」を作った。
確かに恋愛要素もあった。
でも、悪役なんて登場しない。
「悪役なんていなかった……」




