第五話 私達に会いに来た人はなかなかすごい身分でした
フォーカスは顔も見たことない男から私を守るように、私の前に立った。
「貴様、リディールが誰か分かっていてそんな態度を取っているのか?」
「もちろん知っているとも。だから私はこうしてリディール様に挨拶をしに来ているのだよ」
「マナーがなっていないのではないか?国の王太女であるリディール王女殿下に許可なく話しかけていいと思っているのか?」
◇◆◇
ここで、リディールとりりあのマナー講座〜!
「リディール、フォーカスが言っている許可?ってなんの話なの?」
「りりあも知っての通り、貴族には爵位が存在するでしょう?例えば男爵令嬢が公爵令嬢に『ごきげんよう』と声をかけたとするわ。その場合、男爵令嬢はマナーがなっていないと思われてしまうの」
「えぇ!?挨拶したのにマナーがなっていない判定になるの!?」
「そうよ。これは貴族の常識中の常識。爵位が低い者は爵位が高い者に話しかけてはいけないの」
「じゃあ会話できないじゃん」
「そんなことはないわ。爵位が高い者が爵位が低い者に話しかけるのは大丈夫なの。さっきの例で説明すると、男爵令嬢ではなく公爵令嬢が『ごきげんよう』と話しかければ何の問題もないの。親しい間柄なら、爵位の低い者から話しかけるのはギリセーフだから、それは覚えておいてね」
「はーい!!勉強になりました!!」
リディールとりりあのマナー講座ー!!
END!
◇◆◇
なるほどね。
王族は国の頂点だから、この人は絶対に私よりも位が低いわけだ。
「俺達は彼女に自ら話しかけに行く権利を持っている」
「は?」
男はフォーカスを押しのけ、私の前にきた。
そして、胸に手を当てて自己紹介を始めた。
「メチャヘイト王国第一王子のアカルス・ギルモノ・メチャヘイトです。以後お見知り置きを」
非常にお見知り置きしたくない名前なんだけど。
いや、他の国は大丈夫だと思っていた甘い自分がいたことは認める。
にしてもダサすぎるよね。
この人本当にいいの?
フルネームで「・」付けずに読んだら「明るすぎるものめちゃヘイト」になるけど。
まだメッチャツオイ王国のほうがマシだった。
リディールとか、アルデーヌとか、がファーストネームだもんね。
ファーストネームもファミリーネームもダサいとか終わってるじゃん。
もはや可哀想のレベルなんだけど。
ゴキブリと一緒にいた男性も前に出てきて、同じように自己紹介してくれた。
「お初にお目にかかります。シシュナ王国第二王子、セティルド・エル・シシュナと申します。リディール王女におかれましては始めまして」
普通の名前のやついたー!!
ファミリーネームもファーストネームも完璧だー!!
初めてのまともな名前に私は心から感激する。
あれ?
今さ、セティルド様「王女殿下におかれましては始めまして」って言ったよね?
じゃあフォーカスは知り合いなんじゃないの?
私はフォーカスの方を見た。
うわぁ、心の底から嫌そうな顔してるぅ……。
「お前……セティルドか……」
「酷いですね。三年ぶりの親友にその態度は流石に傷つきますよ?」
「誰がお前と親友になるか。お前、僕に身分を偽って会っていたな?」
「別に構わないでしょう?私としてはあなたは非常にからかいがいがありましたし、あなたも楽しんでいたではありませんか」
「アレのどこに楽しむ要素がある」
フォーカスの顔はレモンを丸かじりしたときのように歪んでいる。
「あなたの惨めな姿は傑作でしたね」
セティルド様の言葉に、フォーカスは赤面する。
何この顔。
めっちゃ気になる!!
私はフォーカスの手を掴んだ。
「フォーカス!何があったのか詳しく教えて!」
「……面白がってるよな?」
「全然。むしろ心配してるよ」
「その顔でそのセリフは合ってないと思う」
「これ?心配してる顔だよ?」
「下品」
酷いなぁ、フォーカスは。
心配してくれてる人の顔に向かって「下品」だってぇ。
めっちゃ心配してる顔してるのにぃ。
否、満面の笑みである。
「絶対に言わないからな」
「へぇ、じゃあ取引しよう。さっき言ってた好きな人を私に教えるか、セティルド様との出来事を私に話すか」
「どっちも嫌なんですけど」
「拒否権ないよ?王太女命令!」
私がウインクしながら言うと。フォーカスは呆れたようにため息をついた。
そして優しく微笑んだ。
「仰せのままに」
しかし、その顔はすぐに消え去った。
「コイツは僕に正体隠して、旅行中にいつも宿に来たんだよ!!しかも変身魔法で僕になりすまして、両親に体調が悪いと嘘をついて、僕だけ留守番にさせられるし!!」
「それは君が私にチェスで勝つからですよ」
「急にカフェでチェスに誘ってきたのはお前だろうが!!」
「チェスをした人達はみな親友です。だからあなたも親友ですよ?フォーカス」
「お断りだよアホが」
仲がいいんだか悪いんだか。
私は微笑ましいなと思いながら二人の様子を見ていた。
「ところで、セティルド様とアカルス様はどうして我が国に?」
「ああ、実は言うとメチャヘイト王国やシシュナ王国では、魔法の知識が足りなくてな。魔法学園に留学しに来たんだ」
あ、そっか。
この世界の国は能力が大きく分かれている。
シシュナ王国は錬金術、メチャヘイト王国は武術に長けている。
だから生まれる者もその特性にあった体質で生まれてくる。
シシュナ王国では知性に長けた者、メチャヘイト王国では武術に長けた者が多く生まれる。
しかし、その中にも魔法に長けた者もいる。
ただ、魔法の知識が足りなければいつか力を暴発しかねない。
だから、魔法の知識に長けているメッチャツオイ王国の魔法学園には多くの留学生がやってくる。
「ついでに花嫁探しもかねてますよ?リディール王女も私を候補にしてくださってもいいんですよ?」
「あはは、ご冗談を」
「リディールは『こっちから願い下げじゃボケェ』って言っている。近づくな」
「フォーカス、言ってもいないことを代弁するのはやめてくれないかな?」
フォーカスは非常にやる気なさそうに「へーい」と返事するだけだ。
分かってねぇな。
まあ、イケメンだけどタイプではないんだよね。
「ところで、私をお探しのようでしたが、何か要件がありましたか?」
「いえ、他国の王族たるもの、留学先の王族にも挨拶するのは礼儀なので」
「律儀ですね」
私は苦笑した。
すると、またまたバルコニーに誰かが来た。
「あ、アルデーヌとリリアーナじゃん。おかえりー」
来たのは先ほどダンスに向かった二人だった。
なんか……。
アルデーヌやつれてない?
「ただいま戻りました……。リディール王女殿下……」
「どうしたのアルデーヌ。非常に老いぼれてるけど……」
私は律に視線を送った。
律はやりすぎたと言わんばかりの顔をしている。
一体何があったのやら……。




