第一話 リディールの感情を思い出したいです
――数日後
私は晩餐後、またお父様の執務室に呼び出された。
問題児だと思われそうでいやだな。
「リディール、全国で精霊界への出入りが再び許可された」
「あ、そうですか。じゃっ」
「待て待てコラ!他国で精霊界への出入り許可の演説?的なことをしている中、我が国はまだしてない。そこで、お前にやってほしい」
「帰りますね」
「おいっ!お前がやったことだろ!演説くらいしろ!」
お父様が若干キレ気味で言ってくる。
ワタシガヤッタコト?
「いや、お父様。それは違いますよ。私は命の宿木の葉を取りに行っただけですよ?」
「ほう?」
おっと、現在のお父様の地雷を踏んだようだ。
お父様は低音ボイスで私に詰め寄るように身を乗り出してくる。
「その葉を取りに行って、面倒ごとに巻き込まれた上に、使い魔を暴走させたのはどこの誰だったかな?えぇ?」
「いやぁ、それはぁ……」
両手を上げて、めちゃめちゃ目を逸らして言い訳を探す。
あれは不可抗力だよぉ。
リュミエールがもっと早く言えばよかったのに。
私は後ろに控えているリュミエールを睨む。
私の視線に気づいたリュミエールは苦い顔をした。
『あれに関しては申し訳ないと思ってるけど、ことの発端はあなたでしょ?』
いや、私じゃなくてリディールなんだけどな。
ていうか、リディールよりエステリーゼをそそのかした魔女だよね。
「あ!お父様!あのババアどうなりました?」
「え?あのメイドの話か?」
「そのババアじゃなくて、エステリーゼ様に呪いの知識を教えた魔女ですよ!」
私が言うと、お父様は渋い顔をして、乗り出していた体を引っ込めた。
なんだか微妙な反応だな。
「……エステリーゼ達が逃亡した後、魔女の元へ騎士団を派遣したが、そこに魔女はいなかったんだ」
「つまり、逃げられたと」
「うっ……」
「エステリーゼ様にも、魔女にも逃げられたと?」
「エステリーゼに関してはお前が自分を盾に逃したんだろうが」
私はすごい勢いで顔を横に向けた。
あ、やらかした。
「リュミエール、回復魔法かけて」
『なんで?』
「今ので首やった」
死ぬほど冷めた目で見ながらも、リディールは回復魔法をかけてくれた。
優しい。
「じゃ、帰ろうか」
「話を逸らして逃げるな」
「えぇー。だって私これ以上国民に英雄扱いされるの嫌なんですけど」
「ああ、言い忘れていたな。これからお前は英雄ではなく王太女となる」
「は?」
聞き間違い?
王太女ってあれだよね?
王太子の女版見たいな?
あれに?
私が?
「絶対嫌です!それに、女王なんて前代未聞でしょう!?」
メッチャツオイ王国では代々男性が王になっている。
女王なんて聞いたことがない。
「安心しろ、お前のやってきたことによって文句を言う奴はいないだろう」
「私そんなに何かしましたっけ?」
「異端児保護法を作り、平民差別を緩和、精霊界との断絶を終わらせる。お前は今まで誰もやらなかったことをやってのけた。だからだ」
そういえば、異端児保護法を作ったのは私だったな。
でも、私一人じゃできなかったはずだ。
平民差別だってそう。
平民の税制改革案を考えたのはアズルクだし……。
「辞退します」
「なぜ?国の頂点に立てるんだぞ?」
「地位は別にいらないんですよ。私は私がやるべきことをやってるだけですし、私だけでやったことではありません」
私が言うと、お父様は不敵に微笑んだ。
まるで、私がそう言うことを予想していたかのような顔だ。
「お前は謙遜しすぎだ。俺も一人で公務をしているわけじゃない。国の頂点に立つものはそれなりに重責を負う。しかし、それを一人で背負う必要はない」
「…………」
「周りの人に手伝って成し遂げたことでも、提案したお前は立派だ」
本当にそうなんだろうか。
私が異端児差別や平民差別について声を上げたのは、責任を感じたから。
私が物語を中途半端に終わらせたから、批難されなくてもいい人が批難され、不幸にならなくてもいい人が不幸になった。
それは私は見過ごせなかっただけ。
「お父様、私のやってることはただのエゴなんです。エゴに評価なんかつけちゃダメですよ」
「お前のそのエゴが一体何人を救った?一体何人を幸せにした?」
「…………演説の話も、王太女の話も考えさせてください」
私はお辞儀をして、お父様の執務室から出た。
リュミエールはなにも言わずに私についてきた。
私に王太女なんて務まらない。
「王女殿下?」
うつむいて歩いていたら、すれ違った人が足を止めて私を見ていた。
振り向くと、それはアズルクだった。
アズルクは私の顔を見るなり、パァっと笑顔になった。
「久しぶりだな!」
「ええ、久しぶり。元気だった?」
無理矢理笑顔を作って言うと、アズルクは私の眉間にデコピンをした。
「あだっ」
「まぁた沈んでんな。なんかあったか?」
「…………不敬罪で訴えてやる」
「心配したのに!?」
◇◆◇
――リディールの部屋
「……つまり、自分が王太女になるべきではないと思ってるってことか?」
「うん。今まで成し遂げてきた業績はリディールの意思でやったものではなく、私の意思でやったこと。それに、私の中にリディールは存在してる。もし今後リディールが戻ってきたらきっと戸惑ってしまう。なら、今のままがいいと思うの」
私はベッドに腰を下ろした。
前世のりりあの記憶が蘇った今、すべてが鮮やかすぎる。
これまで私がやってきたこと。
それらは、私のエゴから生まれたものだ。
リディールの体を借りて、物語の続きを書いただけ。
「……りりあの記憶は戻ったけどリディールの記憶の感情を思い出せないの」
「感情?」
「うん。人は記憶と共に感情を記憶する。記憶はあるのに感情がないの」
アズルクは少し考え込んだ。
まあ、こんなこと急に言われても困るよね。
「俺にはなんとも言えないな。俺が下手なこと言うのもアレだし……」
「いいよ、気にしないで。ところで、今日は何をしに王宮に来たの?」
「実は俺、王宮薬師になったんだ。今日はその証明書を取りに来た」
王宮薬師?
それって国内指折りの薬師のことだよね?
アズルクがそれに?
「すごいね!おめでとう!」
「ありがとう」
「でも、なんで薬師に?」
私が訊くと、アズルクは優しく微笑んだ。




