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第五話  転生先にも幽霊がいました

部屋の扉が「バァン!」と大きな音を立てて開いた。

そこにはボコボコにされた愛人五人と、アルカがいた。


「話は終わったかー?」

「お兄様、もう少し静かに入ってきてください」

「悪い悪い」


ヘラヘラ笑うアルカのかたわらには、顔が腫れ上がった女達がいるのが怖すぎる。

こいつらは公爵の刺客だ。

公爵はかなり地位があり、恨まれやすい。

その上、コロス―ゾ公爵は革命派に所属していないため、革命派からすると邪魔なのだ。

まあ、色仕掛けでなんとか取り入ったものの、隙がなさすぎて殺せなかったみたいだけど。


「公爵、良かったですね。あなたがあまり隙を見せない人で。隙なんかあったら、絶対に瞬殺されてましたよ」


私は愛人達の服に手を突っ込み、暗殺用具を取り出した。

それを公爵に笑顔で見せつける。


「ほら」


公爵は頬をひきつらせて、ドン引きしている。


「色仕掛けに動じるのはもうやめてくださいね。和解もできたんですし。ね?」

「アルデーヌと公爵、和解できたのか」

「はい、私のおかげです!」

「おいアルデーヌ、この王女さっき『私はただエゴのために動いたに過ぎません』みたいなこと言って謙遜してたよな?」

「してました」


おいそこー。

うるさいぞー。


「でも、本当にありがとうございます。私と息子を繋げてくれた上に、刺客をボコしてくださって……」

「ですから、構いませんよ。やりたくてやったことですし」


私はふと誰もいない方を見た。

特に意味はない。

なぜか、首が動いたとも言えるだろう。

そこには半透明で、うっすらと光る女性が立っている。

その人は優しくアルデーヌと公爵の方を見ている。


「……きっと、公爵夫人も……。アルフィーア様もこの結果を望んでいるでしょうね」

「どこを見て……」


公爵が誰もいない方向を見る私にそう言いながら、私の見ている方向を見た。

そして、大きく目を見開いた。

アルデーヌもつられるようにその方向を見た。


「アルフィーア・サナ・コロスーゾ……」


アルカが言った。

彼女は死んだはずの公爵夫人だ。

リディールの記憶の女性と同じ顔。

私は静かに息を整え、目の前に浮かぶ半透明のアルフィーア様を見つめた。

彼女の穏やかな微笑みは、リディールの記憶にある優しく温かな公爵夫人の姿そのものだ。

アルデーヌと公爵をじっと見つめるその目は、まるで「やっとこの親子が分かり合えた」と心から喜んでいるよう。

私の勝手な解釈かもしれないけど、そうとしか思えない。


「リディール王女……。あれは、本当に……。本当にアルフィーアなのか?」


公爵が低く、震える声で呟く。

彼の視線は、はっきりとアルフィーア様の姿を捉えている。

アルデーヌもまた、目を大きく見開いて、アルフィーア様の方をガン見してる。


「あれ、アルフィーア様……ですよね?見えてるんですか?」


私は静かに、でもはっきりと確認する。

幽霊だろうがなんだろうが、リディールの体に染みついた貴族の礼儀作法に従って、丁寧に対応するのが王女の務めだ。

前世のヒキニートオタクの私でも、こういう場面では冷静に振る舞いたい。


「見えている。あれは、紛れもなくアルフィーアだ……」


アルフィーア様が私に視線を向け、柔らかく微笑む。

なんて美しい……。

死後もこの気品、さすが公爵夫人だ。

彼女はゆっくりとアルデーヌの方へ向かい、優しい手つきでアルデ―ヌを抱きしめた。

実態がないから、触られているという感覚はないだろう。

アルデーヌはアルフィーアを抱きしめ返そうとしたけど、その手はアルフィーアの体をすり抜けてしまう。


「……母上!母上!!」


アルデーヌが震える声で叫ぶ。

死んだはずの母親が目の前に現れたら、誰だってこうなるよね。

それも、自分が殺してしまった相手ならなおさらだ。

異世界で幽霊が現れるなんて、そんな夢みたいなことが起こるなんて思ってなかった。


「母上......。俺、ずっと謝りたかった.......。本当にごめんなさい……!殺してしまってごめんなさい!!」


アルデーヌが声を詰まらせ、涙がポロポロと頬を伝う。

公爵はアルデーヌの肩に手を置いた。


「アルフィーア、すまない。お前の気持ちを見ず、ただ自分の悲しみに囚われていた......。お前がここにいるなら、きっと......お前はアルデーヌを許しているんだな」


アルフィーア様がもう一度微笑んだ。

そして、ゆっくりと頷く。

まるで「もちろん」と答えているみたいだ。

公爵とアルデーヌが同時に息を呑み、互いに顔を見合わせる。

アルデーヌの目には涙が溢れ、公爵の表情もどこか柔らかくなっている。

私は静かにその光景を見つめた。

アルフィーアの微笑みには、深い愛情と安堵が込められているように感じる。

リディールの記憶にある穏やかで優しい公爵夫人の姿が、今、こうして目の前にある。

私の勝手な解釈かもしれないけど、彼女はずっと二人を見守っていたのだろう。


「俺……やっと、母上と父上に許された気がする。前に進めるよ」


アルデーヌがぽつりと言った。

アルフィーアは優しく微笑んだ。

すると、アルフィーア様の姿がゆっくりと薄れていく。

彼女は最後に全員に優しく微笑みかけ、まるで別れを告げるように軽く会釈して、眩い光を放って消えていった。


◇◆◇

――数日後


「お兄様、こう思ったことありませんか?名前がダサい」

「……ないが?」


どうも、メッチャツオイ王国の第一王女、リディール・セア・メッチャツオイに転生した前世クソヒキニート日本人です。

どうやら、この世界の人間は名前がダサい意識がないらしい。

名前がおかしいのが常識すぎて、脳が麻痺してるのかな?


「リディは名前が気に入らないのか?俺はいい名だと思うが……」

「ファミリーネームの方ですよ」

「メッチャツオイとか、カエルコワイとか、コロスーゾのことだよな。それのどこがダサい?」


あー、ダメだ。

名前に対する嫌悪感がないんだこの国。

ファーストネームはいいんだよ。

正直、リディールっていう名前好きだし。

ファミリーネームがダメなんだよ。


「あ、そうだリディ。父上がアルデーヌの件で話をしたいって」

「嫌です」

「早っ。な、なんで?」

「メンドクサイ」

「コイツ……」


◇◆◇


「いやぁぁあああ!!嫌です!絶対に行きません!!」

「我儘を言うな!王女として国王に異端児差別をなくしたいと打診くらいしろ!!」

「やだぁぁああああ!!」


こうして私は、裏切り者のアルカによって、国王夫妻の元へと引きずられていった。

リディールの父母に会ったらバレるかもしれないじゃん!

私はなんとか逃げ出せないかとジタバタするけど、アルカは手を離してくれない。


「嫌なんですー!離してくださいー!」

「お前は父上と母上のこと嫌いではなかっただろ」


嫌いじゃなかった記憶はあるが、今や二人の人間の記憶や性格が混合しているリディールとしては、あんまり会いたくない。

ていうか、リディールはなんで全く自分に会いに来ない親を嫌いにならなかったんだろう。

わんちゃんバレないかもしれないけど、微妙なところだ。


「ほら、謁見の間に着いたぞ」


アルカは門番みたいな人とアイコンタクトをした。


「アルカ殿下、リディール王女殿下がご到着されました」


門番はそう言って、クソでかい扉をゆっくりと開けた。

とてつもなく広い謁見の間の奥の方に、国王夫妻がいる。

二人は優しそうな目で私とアルカを迎えた。

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