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第十話  呪われた私は過去にトラウマがあります

――アタマカユイ男爵家


「さて!呪い!どうしよ!!」

「お前さぁぁああ!!何回事前に来ることを言えって言えばやってくれるかな!?お父様が意識保出るようになってきたんだけど!?」

「それはいいことだ」

「よかねぇよ!!」


私は諸々の事情をリリアーナこと律に話に来た。

律は私の義兄に当たる人だ。


「……にしても、リディールは一度瀕死になったのか……」

「みたいだね。でも、それだけじゃリディールの感情を思い出せない理由は分からないよね」

「そうだな……。お前の前世が曖昧な理由は、もしかしたら病気のせいかもしれないけど」

「……え?」


今サラッと重要なこと言わなかった?


「私の前世の記憶がないのって、病気のせいなの?」

「おそらくな」


そういえば、私の死因は確か病気だったね。

少しずつ記憶を失っていって、すべての記憶が消えたときに命を失う病気。


「でも、印象的な出来事は覚えてるよ?お祭り行った記憶とかいじめられた記憶とか……」

「お前が死んだ後、その病気について解明されたことがあるんだ。……心に深く刻まれた記憶は残るって」

「心に深く刻まれた記憶は残る……?じゃあ、私の前世で忘れちゃった部分は浅いものだったってこと?お母さんとの幸せな日々や、引きこもりの日々とかも……全部薄い記憶だったってこと?」


律は紅茶のカップをテーブルに置き、珍しく優しい目をする。


「いや、そうじゃねえよ。心に刻まれた記憶には特徴があって、絶対に一生忘れたくないと願った出来事、その病気を発症した原因となる辛い記憶などだ」


確かに、思い出すのは悲痛なお母さんの声や、本当に楽しかった記憶、そしていじめの記憶だ。

その他は思い出せない。


「記憶は戻らないのかな……」

「……あの病気は自殺願望と、心の傷により発症する。自殺願望によって体が衰弱していき、心の傷で記憶が消えていく」

「本当によく分からない病気だね」

「精神的な病気だから、治療薬とかも作れないんだよ」


あー、精神病ってなんか割と手遅れになってから見つかるってイメージがある。

精神安定剤とかを飲んだとしても、重度だったら効かないかもしれないしね。

私は引きこもってたし、お母さんと顔を合わせたりもしなかったから発見が遅れたんだろうな。


「お前、まだ心の傷を克服できてないだろ」


急な問いかけに、私は戸惑った。


「急にどうしたの?心の傷を克服って……。もうとっくに克服してるし、前を向いてるよ?」

「嘘だな。……確かに母さんの件については克服できてるかもしれない。でも、他にもあるだろ」


――違う!!私がやったんじゃない!

――だっ、だって死にかけるなんて思ってなかったんだもん!!


ああ、あれのことか……。

私のせいでいじめられて転校した親友。

律が言ってるトラウマはこれか……。


「……そうだね、確かに克服できてないかもね……。でも、これを克服したら駄目なんだ」

「……お前は抱え込みすぎな気がするけどな」


律は少し気まずそうに笑った。


「リディールの件、もう少し調べてみる。お前の口が勝手に動いたことと、リディールの記憶の一部に感情が戻ったこと。もしかしたら見落としていることもあるかもしれないからな」

「うん、お願い」


私は調査を再び律に頼んで、王宮に帰ることにした。

玄関ホールに行くと、そこにいたアタマカユイ男爵が頭を掻きながら言った。

名前にちなんでそういうことするのやめてくれないかな。


「王女殿下……。僭越ながらお訊きしますが、フォーカス様と浮気をしたリリアーナと頻繁に会う理由を教えていただいても……?」

「私はフォーカスとの浮気に関しては、フラフラしていたフォーカスのせいでもあります。それに、終わったことをぐだぐだ言い続けるのは嫌いなんですよ」

「…………」

「リリアーナは私の友達です。それ以外に合う理由が必要ですか?」

「いえ、ありません」


アタマカユイ男爵は急に私に頭を下げた。

それには私も律も戸惑った。


「孤立していたリリアーナと仲良くしてくださり、ありがとうございます」

「……顔を上げてください、アタマカユイ男爵。これからもリリアーナと仲良くさせてくださいね」

「はい!」


嬉しそうに返事をする男爵を、律は少し笑って見ていた。

私は外に出て、馬車に乗ろうとした。

馬車の扉を開けると、中にはアルカがいた。


「やあ、リ――」


私は勢いよく扉を閉めた。

バァン!という音が響き、見送りに来ていたアタマカユイ男爵と律がピクリと反応する。


「…………王女殿下?」

「……フゥゥウウウ……。幻覚…ですかね」

「いや、ガッツリアルカ殿下がいたような……」

「気のせいです」

「え?でも――」

「気のせいです!!」


私は扉をマジマジと見た。

いや、いるはずないよね。

幻覚だよね。

扉が勝手に開いた。


「酷いな、リディ。愛しのお兄様が来てあげ――」


私は扉を閉めて、開かないように押さえつけた。

アルカがいる……。

まずい。

お父様とお母さんにはコロスーゾ公爵家に行くと嘘を伝えてある。

だって王女が自ら男爵家に行くなんてありえないじゃん。


「リディー、そろそろお兄様も傷つくぞー」

「私は意図的に扉を閉めているのではなく、本能的なものなので傷つかないでください」

「フォローできてないぞー」


私は仕方なく扉を開けた。


「なぜここにいらっしゃるのか教えていただいても?」

「ん?お前がコロスーゾ公爵家に行ったと聞いたから、コロスーゾ公爵邸に行ったのに、アルデーヌと魔法の特訓をしていると嘘をつかれてね。ちょーっとおどっ……お願いしたらアタマカユイ男爵家にいるって教えてくれてね」

「今脅すって……」

「気のせいだよ」


うわぁ、コロスーゾ公爵には悪いことしちゃったなー。

リリアーナと友達になったけど、お父様達に知られるとめんどくさいんですって相談したら口裏を合わせてくれるって言ってくれたんだよね。

アルカにバレるってわかってたら無駄な抵抗しなかったのにー。


「どうせバレるんだから嘘つく必要ないのに」

「どうせバレる……?」

「知らないのか?俺達には影という護衛が一応ついていて、そいつらが俺達の行動を父上に報告してるんだよ」


え?

嘘だろ?

え?

影のことは知ってたけど、お父様に行動を報告してるなんて知らないぞ?

ていうか、私の影って首になってなかったっけ?

あれ?

いや、そんなことより……。


「……毎日?」

「毎日」


なーんてこった。

バレてしもてますやん。


「リリアーナ嬢、アタマカユイ男爵、リディールを回収させてもらうね」


おい言い方。

まあ、用事は終わったんだけどさ。

このまま帰ったらお説教ルートじゃん?

律!

少しは止めてくれるよね?

私は律を見た。

律は遠い目で明後日の方向を見ている。


「この野郎ぉぉぉおおおお!!」


王太子には敵わないと!?

だから私を見捨てるのか!?

そんな権力に屈する男に育てた覚えはないぞ!!

私はアルカに手を引かれて、無理やり馬車に入れられた。

横暴だ。

アルカの指示で馬車が動き出す。


「リディ、命懸けでお前を守ったお兄様を差し置いて、リリアーナに会いに行った言い訳を聞いてあげよう」

「……昨日会ったからいいじゃないですか」

「夜だけだろ!お前がエステリーゼを逃がせたのは俺のおかげでもあるじゃん!上目遣いで『お兄ちゃん大好き』とか言ってくれてもいいじゃん!!」

「言うわけないでしょ恥ずかしい」


アルカはことごとく私に好きやら愛してるやら言わせたいらしい。

絶対言ってやるか。

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