第八話 王宮大舞踏会②
返事をしてくれたのはフォーカスだった。
フォーカスはあのあと、必要な時にはオレサイキョー公爵家の息子として、オレサイキョー公爵と行動することが許可された。
今回の舞踏会はそれを周りに知らせるために参加したのだろう。
「王女殿下、フォーカスの不始末、改めてお詫び申し上げます」
「構いません。フォーカスは私の大切な友達ですから。公爵、領地の改革の件は本当にありがとうございます。平民の声が届く国に少しずつ近づいてます」
公爵の肩がわずかに緩む。
「王女殿下のおかげです。息子も、フォーカスも感謝しております」
よし、挨拶周りはこれで大体終わり。
でも、過激派の視線が背中にチクチク刺さる。
特に伯爵家のグループ。
彼らは隅でグラスを傾け、嘲るような笑いを浮かべている。
「王女殿下のエスコートが異端児とは……血統の乱れだな」
「平民教育など、笑止千万。伝統をぶち壊す気か」
聞こえてくる囁き。
アルデーヌの手がわずかに強張る。
「リディール王女殿下、無理に近づかなくていいですよ。あいつら今日は機嫌が悪いです」
「いいの。今日の目的は態度で示すことだよ。行こう」
私はアルデーヌと一緒に悪口で盛り上がっている伯爵達の元へ行った。
伯爵たちは酔っているようだ。
だけど、さっきのやつが酔った勢いとは思えない。
「ごきげんよう」
私が挨拶をすると、伯爵達はかなり驚いた。
伯爵の妻達は、私達が話しかける前に気づいていたが、誰も夫にそれを知らせなかった。
「ご、ごきげんよう。王女殿下」
「伯爵夫人、ごきげんよう。今日もお美しいですね。領地の花畑の話、また聞かせてください」
妻の目が少し柔らかくなる。
伯爵はグラスを置いて立ち上がる。
顔はにこやかだが、目は冷たい。
「王女殿下、アルデーヌ様。今宵は星が綺麗ですな。王女殿下のドレスもお綺麗です」
「ありがとうございます」
「……ですが、異端児が王家の隣に立つとは……伝統を重んじる私共には、少々心許ない」
周りの取り巻きがクスクス笑う。
まだ異端児差別の話をしているのか。
でも、私は微笑む。
「伯爵、伝統とは血統だけじゃありません。心と才能で、国を守るのが本当の伝統です」
伯爵が目を細めて、冷たい目つきで私を見る。
学校で何度も向けられたことのある、氷のような目。
でも、負けない。
会議に参加していた伯爵は……。
いるな。
「ごきげんよう、フクツウイタイ伯爵。最高指導者会議以来ですね」
「そうですね」
「ところで、あなたのお孫さん、平民の先生に教わって魔法の才能を開花させたそうですね?」
フクツウイタイ伯爵の顔がピクリと引きつる。
「それは……王女殿下、どうしてご存知なのだ?」
「噂で聞きました。無理に平民と引き離さなかったみたいですね」
「…………」
「会議の後だったから、認識が変わっていたのですか?」
「…………そうかもしれません。なぜか引き離す気にはなれなかった」
「会議でも言いましたが、私は血統ではなく、才能を認め会える国を作りたい。そんな国を作るには、あなた達貴族の存在が必要不可欠なのです」
私は他の伯爵の目も見ながら言った。
彼らは少し困ったような顔をした。
フクツウイタイ伯爵は、グラスをテーブルに置き、深く息を吐く。
「王女殿下のおっしゃる通りかもしれません。我が領地も、平民の教育を検討いたします」
よし!
堅物伯爵を手懐けた!
これで周りの人達も考え方を改めるだろう。
「それでは私はこれで」
「リッディールーッ!!」
私がアルデーヌと立ち去ろうとしたら、誰かが私に抱きついてきた。
あっぶねっ!
危うく舌打ちするところだった。
「あの、もう少し大人しくできないんですか?お兄様」
アルカの腕が私の腰にがっちり回され、広間の視線が一気に集中する。
周りの貴族達が笑いを堪えている。
アルデーヌは慌ててアルカを剥がそうとするけど、シスコンの力は本気モードでびくともしない。
「いいじゃないか!視察で随分と会えてなかったんだから!それよりリディ!さっきの伯爵達の説得、聞いたぞ!しかも、最高指導者会議で平民差別をなんとかしようとしたって!?すげぇよ、お前!俺の妹は最高だ!愛してる!!」
「はぁ、ありがとうございます。離してください殴りますよ」
私は必死にアルカの胸を押し返すけど、無駄。
この人、普段は立派な王子なのに私の前だとドシスコンになるんだよな。
前世の私からしたら、こんな過保護な兄は羨ましい限りだけど、今はマジでめんどくさい。
前世のヒキニートだった私からしたら、こんな過保護な兄貴、羨ましい限りだけど……今はマジでめんどくさい。
広間の空気が和やかな笑いに包まれる。
伯爵達も、苦笑しながらグラスを傾ける。
「王族の兄妹愛、微笑ましいですな」
「憧れますわ」
「殿下は王女殿下を溺愛しておいでですからな」
私はようやくアルカの腕から抜け出し、息を整える。
「お兄様、次からは普通に挨拶してください。抱きつくのは家の中だけでいいんですよ?」
「えー、ダメなのか?リディの成長を見守る兄の特権だろ?」
私は思わず笑ってしまった。
これで、平民差別問題はある程度解決。
異端児差別も大体解決かな。
よーし、大体のことが終わった今、新しい人生を謳歌する権利が私に下ったぞー!
私が書いた物語を、私の手でハッピーエンドで終わらせる。
それがに私できることで、この世界に私が転生した意味だ。
「頑張らないとね」
私は小声で呟いた。
「リディ!早く来いよー!」
アルカが振り向いて、私を呼ぶ。
私は笑顔でアルカとアルデーヌの方へ走った。
幸せだ。
これからもきっと、幸せに過ごせるだろう。
◇◆◇
そう思っていた。
その日までは。
「リディール王女殿下に、呪いがかかっています……」




