転生先の差別が酷すぎた
「リディール王女がうちの穀潰しと?やめておけ。殺されるぞ」
公爵の言葉に、私は思わず声が出そうになった。
殺される?
穀潰し?
いや、ちょっと待って。
いくら妻を殺されたからって、実の息子にそんなこと言うの?
「穀潰し?殺される?ちょっと、言い方キツすぎません?アルデーヌ様は確かに異端児かもしれませんが、そんな風に言うのはちょっと……」
公爵は私の言葉に一瞬目を細めたけど、すぐにニヤリと笑った。
まるで「生意気な王女だな」って言いたげな顔。
愛人五人がクスクス笑いながら公爵の肩に手を置いている。
「リディール王女は口が達者だな。うちの息子は危険だ。異端児の魔力は制御が難しい。妻を失った私の気持ちも察してくれないか?」
公爵の声は低く、どこか悲しげだったけど、私はなんかモヤモヤする。
本当はこんなに常識のない人じゃないんだろう。
妻を愛していたって話だし、きっとこれは現実逃避。
これは彼が被っている仮面にすぎない。
「それは分かりますけど、アルデーヌ様だってわざとじゃないんですよね?彼の気持ちも――」
「お前は……何も知らんのだな、リディール王女」
公爵の声が、急に低く、冷たく響いた。
愛人達の笑いがピタッと止まり、部屋に重い沈黙が落ちる。
うわ、なんかヤバい雰囲気だ。
公爵家はため息をついて立ち上がった。
「まあいい。ご自身の目で、あいつの危険性を確かめてみるがいい。だが、警告したぞ。何かあっても、私は知らんぞ。執事、リディール王女をお連れしろ」
「かしこまりました。いきましょう」
私は執事について行った。
執事はなぜか外に向かった。
帰れってことかな?
そう思ったけど、庭園の方へ向かって行ったから、離れにいるのだろう。
「リディール王女殿下」
「なんでしょうか」
「ぼっちゃまのことを気にかけてくださり、ありがとうございます」
執事は間違いなく私に頭を下げた。
何が起こってるの?
アルデーヌは公爵夫人を殺して……。
だから周りから嫌われている。
そう噂で聞いたのに、今目の前にいるこの人は、アルデーヌを気にかけたことに感謝した。
執事は再び歩き始めた。
「あの、なぜ私にお礼を……?」
「あなた様は誰も庇おうとしなかった、庇えなかったぼっちゃまを庇ってくださったからです」
「……あなたはアルデーヌ様を卑下していないんですか?」
「ええ、大切な奥様のお子様ですから」
リディールの記憶に、コロスーゾ公爵夫人と会った記憶がある。
彼女は優しく穏やかな雰囲気をまとっていた。
さぞ人から好かれただろう。
「着きました。ここです」
アルデーヌがいるとされる場所は、離れでもなく、草木に覆われた塔だった。
マジのガチの幽閉じゃねぇか。
「私がお供できるのはここまでです。ぼっちゃまがあなた様に心を開くことを願っております」
そう言って執事は本邸に帰って行った。
いや、申し訳ないんだけどさ。
ボロすぎない?
ここに入るの?
まず出入り口はどこ?
私はなんとなく塔の周りをぐるりと一周まわった。
入口がない。
そして気になるのは、悪魔みたいな石像。
なんだこの趣味の悪い石像は。
塔から目を逸らすような首の角度に違和感を覚えて、私は首を触った。
「ま、回ったぁぁあああ!!」
首が少し回った。
そういう仕掛けね?
私は首を塔に向けた。
石像の顔の向いた方向から、扉のようなものが現れた。
よし、入るか。
「お、お邪魔しまーす……」
中は少し埃っぽく、薄暗い。
そして、上へと続く螺旋階段のような階段がある。
この先にアルデーヌがいるのかな。
私は螺旋階段を登った。
◇◆◇
つ、疲れたぁああああ。
頂上までずーっと階段を登ってきたからキツい。
かなり高かったようで、おかげでへとへとだ。
でも、目の前にはアルデーヌがいるはずの部屋の扉がある。
これは行くっきゃない。
私は思い切ってドアを開けた。
「こんにちは!アルデーヌ様!いらっしゃいますか?」
返事はないと。
そして人もいないと。
「アルデーヌ様ー?」
いないはずないよね?
幽閉されてる人が抜け出すなんてないと思うし。
「うーん、いらっしゃらないなら仕方ない。ここに住ませてもらおうかな」
「なんでそうなる」
あ、やっぱりいた。
透明化の魔法を使っていたのかな。
アルデーヌはソファーに座っていた。
住まれるのは嫌なのか。
「誰だお前は。服装からして使用人ではないな。俺になんのようだ」
「私はメッチャツオイ王国の第一王女、リディール・セア・メッチャツオイです」
私がそう言うと、アルデーヌは眉をひそめた。
王族が急に自分に会いに来たんだもんね。
びっくりするのは無理もない。
「王族が俺に何の用だ?」
「んー?話してみたいなーって思っただけですよ?」
「嘘をつくな。ただの暇つぶしだろ?でなきゃ、王族が俺に構うなんてあり得ない」
あー、執事が言ってたのはこれか。
確かに手強そうだ。
「はあ、人を信じないのは悪い癖だよ」
「……お前はなぜ異端児の俺に構おうとする?なぜ俺と話したがる?母親殺しの俺と……」
「え?それ、関係あるの?」
「……は?」
「母親殺しって言っても、幼いあなたは意図的に殺したわけじゃない。殺しちゃったのは良くないけど、どうにかできたわけでもない」
「…………」
「異端児って何が悪いんだろう。私にはそれがよくわからない。だって、普通よりも早く魔法を使えるようになるのってすごくない?」
アルデーヌは目を見開いて驚いている。
異端児だって人間だ。
卑下されるとこが当たり前なんて、絶対におかしい。
アルデーヌ、私は君も知りたいんだよ。
「異端児なんて関係ない。私はあなたと話して、それを伝えたかったんです
「……っ」
「いつか……。いつか異端児差別を無くすから、それまで待っててください」
私はアルデーヌに微笑みかけた。
彼は今にも泣きそうな顔で俯いて、服の裾を握りしめた。
「あなたはお父様に伝えたいことがありますか?お伝えしますよ」
「……特にない。あの人は自分の妻を殺した俺を恨んでいるだろうし。逆上させるだけだ」
「…………そういうのは」
私は入ってきたところの入り口を開けた。
そこにはロープでぐるぐる巻きにされている伯爵の姿があった。
「一回本人に訊くのはどうでしょうか?」