第七話 夏休みは他国の魔法学園を見学します
「メルリちゃんも、オスカーくんも、アルデーヌくんも元気だったね〜」
みんなが寝たあと、ユリィが少し笑いながら言った。
チェスやポーカーなどで、みんなはかなりはしゃいでいた。
「お昼にユリィの魔法を見て思ったけど、この国には精霊はいないの?」
「あー、見たことないね」
「アスクレイン王国の国民は魔力が他の国の人とは比較にならないくらい高い。だから、精霊に頼らなくても魔法が使えるんだ」
イアンは一口飲んで言った。
「この国は不老の呪いの影響で魔力が自然と増幅されるのよ。エルフも精霊もめちゃくちゃ魔力が多いじゃない?あれは長く生きた分だけ魔力が体内で増え続けるからなの。だから、精霊の力は必要ないの。むしろ、私達の場合は精霊が近づくと魔力が乱れることさえあるわ」
「へぇ、そうなんだ。面白いね」
私は窓の外を見た。
夜の城下は灯りがきれいで、どこか幻想的だ。
「ユリィ、今日はありがとう。みんな喜んでたよ」
「いいよ。リディールが楽しんでくれたなら、それで十分」
ユリィは優しく微笑んだ。
みんなはもう寝室に行って、疲れて寝てるだろう。
「……ねぇ、リディール。何か悩んでることある?」
ユリィが突然訊いてきた。
「え?どうして?」
「噂で聞いたの。……シシュナ王国の第一王子がメッチャツオイ王国でヴァニタスによって殺されたって」
私は少し黙ってから頷いた。
ユリィとイアンは顔を見合わせて、優しく微笑んだ。
「大変だったね」
「……うん」
「ヴァニタス……目的のためなら手段を選ばないような集団なのだろうな」
「リディール、もしかしたら今後、本当に大きな事件が起きるかもしれない。それも、もっと早く動いていればと思うような」
二人の瞳は真っ直ぐで真剣だった。
大きな事件……。
断定しないのは、ただの予想でしかないから。
二人は私の倍以上生きている。
長年の勘とも言えるだろう。
ユリィは近くに置いてある引き出しの中から、小さな箱を取り出した。
そして、それを私に手渡した。
「もし、そんな事件が起きて、あなたが悲しみに暮れることがあったら、これを握りしめて助けを求めて。きっと、あなたの思うようになるから」
どういうことだろう。
小さな箱を開けると、それは時計の形をした小さなペンダントだった。
数字が書いてあるところには小さな白色の宝石が埋め込まれている。
「時計……?」
「アスクレイン王国は不老不死で無限の命を持つ。だから、この国の象徴は時計なの」
「そうなんだ……。ありがとう、ユリィ。大切にするね!」
「ええ」
ユリィは優しく微笑んだ。
正直、ユリィの勘が当たらないことを祈るけど。
◇◆◇
――翌日
私達は夏休みで誰もいない、アスクレイン王国の魔法学校を見学していた。
「流石メッチャツオイ王国よりもすごいと言われる魔法大国。設備が素晴らしいね」
私は訓練場を見に行った。
かなり精密に張られている結界に私は感動した。
ここがユリィ達の学舎かぁ……。
「リディール、試しに全力で魔法を打ってみてよ」
「え?やだよ、粉々になるよ?」
「平気だよ。世界一魔法に強いアスクレイン王国を信じて」
ユリィは可愛らしい顔でウインクをした。
仕方ない……。
私は的に手をかざした。
「我が契約精霊よ、我に力を貸したまえ。インテンス・ストーム・ウインド!」
全力で魔法を放つと、なんと、的は壊れることなく、壁も貫通することなくそのままだったのだ。
「すっげぇ!リディールの魔法を食らってもピンピンしてる!」
「結界の賢者様の結界すら破壊したリディールの魔法に耐えるなんて!」
「興味深いですね」
みんながワクワクしたように言う。
確かにすごい。
「ね、大丈夫だったでしょ?」
「すごいね!」
ユリィがちょっと誇らしげに胸を張る。
私はまだ的を見つめていた。
「……本当に、傷ひとつないね」
近づいて触れてみても、跡すらない。
魔力の残滓もほとんど感じない。
「吸収されたって感じじゃないですね」
アルデーヌが的に手を当てて呟く。
ユリィは楽しそうに笑った。
「アスクレインの結界は受け止めるんじゃないの。だから結界が壊れることはなかなかないの」
「どういうこと?」
「他の国の結界は魔力を吸収して、人を守る。魔力を吸収しすぎると結界が限界を迎えて割れてしまう。アスクレイン王国では吸収するんじゃなくて、魔力を拡散しているの。だから壊れにくい」
へー、勉強になるなぁ。
「拡散した魔力ってどこに行くの?」
メルリが静かに問いかける。
ユリィは少しだけ空を見上げた。
「空間そのものに、かな。魔力はこの国では満ちているものだから、波紋みたいに広がって、やがて馴染むの」
「じゃあ、魔力が濃い国ってこと?」
「そう。だから精霊が寄りつきにくいの。魔力が濃すぎて逆に居心地が悪いから」
なるほど。
メッチャツオイ王国は精霊との共存型。
アスクレインは魔力内包型。
体系が根本から違う。
アルデーヌが感心したように結界の縁を撫でる。
「理論上、無限に近い攻撃にも耐えられる構造ですね」
アルデーヌが真面目な顔で言うと、ユリィはあっさり肩をすくめた。
「理論上はね。でも実際は、そこまで撃つ人がいないから検証のしようがないわ」
「じゃあ今やればよかったのに」
オスカーがさらっと言う。
「これ以上やったら本当に怒られるよ?」
私が即答すると、みんなは笑った。
結界の縁に手を当てると、ほんのり温かい。
硬いというより、柔らかく弾く感触。
「なんか、クッションみたい」
メルリがぺたぺた叩いている。
「それ、あんまり叩くと監視魔法に引っかかるよ」
「やめます!」
即座に手を引っ込めるメルリ。
素直だな。
私達はそのまま訓練場をぐるっと見て回った。
的の自動修復機能、詠唱補助用の魔法陣、属性別の演習区画。
「うちの国にも欲しいね、これ」
「予算が足りませんね」
「現実的なこと言わないでよ!アルデーヌ!」
ユリィは私達を見ながら、ずっと微笑んでいた。
その後も学園のいろいろな場所を見て回り、私達の旅行は幕を閉じた。




