第六話 夏休み中に衝撃的な再会がありました
オスカーは体を硬直させて、地面に倒れ込んだ。
煙が立ち上り、オスカーの髪がチリチリになっている。
「オ、オスカー!!」
メルリが慌てて駆け寄る。
「大丈夫!?生きてる!?」
オスカーはピクピクと体を痙攣させながら、弱々しく親指を立てた。
しかし、すぐに死んだかのように脱力した。
「バカオスカー!ユリィ様に失礼なこと言うからよ!」
メルリはオスカーの頭を叩く。
私とセレーネとアルデーヌは、この光景を呆然と見ていた。
「ユ、ユリィ様……あんな魔法をいきなり……?」
セレーネが驚いたように訊く。
ユリィは優しく微笑んだ。
「この国では、失礼なことを言ったら雷を落とすのが挨拶みたいなものよ。冗談だけど」
「冗談!?」
アルデーヌが声を上げた。
ユリィはクスクス笑う。
「ところでオスカーくん。反省した?」
「し、しました……。本当にすみませんでした」
オスカーは地面に正座して頭を下げた。
「じゃあ、そろそろ城下を案内するよ」
◇◆◇
それから、私達はユリィに案内されて城下を回った。
カフェ、服屋、魔法道具店などなど。
アスクレイン王国は不老不死の国だからか、服や道具が長持ちするようにできているらしい。
市場でユリィが奢りで何かを買ってくれることになり、私達は市場を歩いていた。
「あ、この髪飾り可愛い」
「ん?どれ?」
「あー、それは千年前からあるデザインのものね。私、同じやつ持ってるよ」
千年前のデザイン?
そんな前のものがまだ売ってるなんてすごいなぁ……。
「ユリィとお揃いならこれにしようかな……」
「絶対リディールに似合う!」
メルリが串焼きを食べながら言った。
他の二人も頷いている。
じゃあ、これにしようかな。
私は髪飾りに手を伸ばした。
すると、近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お兄様!このお店ですよ!」
「おい、そんなに走ると危ないぞ」
声の主は私の隣に来て、ネックレスを指さした。
「これこれ!お兄様、買って――」
その人は私の顔を見るなり固まった。
可愛い感じだけど、どこか清楚さのある顔。
それに、鈴を転がしたようなきれいな声。
「リディール王女殿下!?」
「エステリーゼ様!?」
エステリーゼ・コア・カエルコワイ。
彼女は私を毒殺しようとしたり、魔物がよってくるようになる呪いをかけたり、王宮に竜を召喚したりした大罪人である。
そんな彼女がなぜこの国にいるのか。
それは、私が彼女の兄に免じて彼女を逃がしたからだ。
「リーゼ、どうしたんだ?って、リディール王女殿下じゃありませんか」
「スパール様、お久しぶりですね」
「え、ええ……」
スパール・ラナ・カエルコワイ。
彼は私にエステリーゼ様を助けてほしいと懇願してきた、彼女の兄だ。
スパール様はかなり驚いた顔をしている。
「お二人共、こんなところで会えるとは思いませんでした」
「私も驚きました……」
エステリーゼ様は少し緊張した顔をしている。
そりゃそうだろう。
彼女は私を何度も殺そうとした大罪人だ。
でも、私は彼女を許したのだから、気にしなくてもいいのに。
「お元気そうで何よりです。幸せに暮らしていますか?」
「はい、お兄様と一緒にこの国で平和に暮らしています」
「よかった」
私は心から言った。
「リディール、この人達、知り合いなの?」
「うん」
私はエステリーゼ様とスパール様を紹介した。
「こちらは、エステリーゼ・コア・カエルコワイ元侯爵令嬢とスパール・ラナ・カエルコワイ元侯爵令息」
「えぇ!?この人達がメッチャツオイ王国の駆け落ちを代表するお二人!?」
エステリーゼ様とスパール様が固まる。
あ、そう言えばそうだったな……。
エステリーゼ様の罪を隠蔽するのは流石に許されなかったから、私とお父様で色々な言い訳を考えたんだよね。
二人は禁断の恋に落ちていて、兄をたぶらかしているように見えた私を、妹が殺害しようとした。
その結果、妹は投獄されてしまったが、兄は妹が殺されるのは耐えられず、指名手配されることも覚悟で二人で国外に逃亡した。
その勇気ある行動に胸を打たれたお父様は、メッチャツオイ王国に足を踏み入れることを禁じ、二人の恋の逃避行を許した。
ちなみに二人は死ぬほど嫌がっていた。
――私と兄様がそんな……。おえっ、想像しただけで吐き気がします……。
心の底から嫌がっていたなぁ……。
「い、いえ。違い――だっ!」
否定しようとしているスパール様の足を、エステリーゼ様が踏みつけた。
「そうなんです。私とお兄様は相思相愛なんです」
「きゃー!やっぱりぃ!!握手してください!」
「はい」
そう言えばメルリは恋愛小説とかが大好きだったな。
メルリは目を輝かせて、エステリーゼ様の手に飛びついた。
「本物だぁ〜!伝説の駆け落ち兄妹!!私、貴族の禁断の恋に憧れてたんです!どうやって国外に逃げたんですか?スパール様はエステリーゼ様を馬でさらったんですか!?それとも魔法で瞬間移動!?」
エステリーゼ様は少し引きつった笑顔でメルリの勢いに押されながら、手を握り返した。
「え、ええ……。お兄様が私を連れて逃げてくれたんです」
スパール様は妹の足踏みに耐えながら、苦笑いを浮かべている。
私も内心で笑いを堪えていた。
七年前の事件をこんなロマンチックな駆け落ち物語に仕立て上げたのは、私とお父様の苦肉の策だったけど、予想以上に広まってるみたいだ。
しばらく話していると、時計塔の鐘が鳴った。
「あ、もうこんな時間」
「では、俺達はこれで」
このあと用事でもあるのかな。
「メッチャツオイ王国に祝福があらんことを」
二人はどこかへ歩いていった。
幸せそうで良かった。
その後、城下を一通り巡った私達は、グリーファ公爵邸に泊めてもらうことになった。




