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第一話  婚約者が最低なことをしました

こうして、異端児差別は瞬く間に緩和していった。

そして私は最大のピンチに陥っていた。


「リディール・セア・メッチャツオイ王女殿下!!大変!!申し訳ございませんでしたぁぁああ!!」


謁見の間で床にヒビが入りそうなほど勢いよく、リディールと同い年ぐらいの子の頭を叩きつけて、二人仲良く土下座をしているのは誰か。

リディールの婚約者であるフォーカス・メア・オレサイキョーと、その父である。

私は目の前で土下座する二人を呆然と見つめた。

国王と王妃もアルカもいるのにすごい勢いだったな。

フォーカスはリディール、つまり私の婚約者で名前こそ「オレサイキョー」と自信満々だが、ナルシストで礼儀やマナーがなってなく、頭が弱く、喧嘩も弱い。

その彼が、父親と一緒に床に頭を叩きつけて謝っているなんて何事?


「えっと、何があったんですか?」

「うちの愚息が!浮気しました!!」


フォーカスの父親の「浮気しました!」という叫び声が、広々とした間に響き渡った。

あらなんてこと。

フォーカスは床に額を擦りつけながら、震える声で叫んだ。


「リ、リディール殿下!ち、違います!誤解です!僕、絶対そんなつもりじゃなかったんです!」


フォーカスの父親が、顔を真っ赤にして補足した。


「王女殿下、誠に申し訳ございません!男爵令嬢ごときにほだされて、しまったようで……。本当に、本当に申し訳ありません!!」


そういいながら何度も何度も床にフォーカスの顔面を叩きつける公爵は、マジでヤバイと思っているようだ。


「リ、リディール殿下!違います!僕、ただ、建国祭の宴で男爵令嬢に『殿下の美しさは月より輝いてる!』って話してたら、彼女が『じゃあ、私とどっちが輝いてる?』って訊いてきて、僕つい『君もなかなかキラキラしてるよ!』って言っちゃっただけで……!」

「嘘を言うなぁ!!お前は以前からあの男爵令嬢と浮気関係にあっただろ!!証拠は揃っている!!殴り殺すぞ!!」


おー、怖っ。

まるで世界の終わりかのようにフォーカスは頭を床に叩きつけられている。

なんであれで生きてるの?

国王は腕を組んで眉をひそめ、王妃の小百合さんは呆れたような微笑みを浮かべ、アルカは明らかにブチ切れている。


「フォーカス、顔上げてください。ちゃんと説明してくれませんか?」


私は慌てて手を振って止めようとしたけど、フォーカスは床に額を擦りつけ、泣きそうな声で叫んだ。


「リディール殿下!ほ、本当に誤解です!僕、男爵令嬢と浮気なんてしてません!ただ、宴でちょっと話しただけで……!」


オレサイキョー公爵はまだ顔を真っ赤にして、フォーカスの襟首を掴みながら叫んだ。


「王女殿下、この愚息が男爵令嬢とこそこそ手紙を交わしていた証拠が上がってるんです!婚約者である殿下を裏切る不届き者!私がこの場で始末します!」


手紙って何?

証拠って?

あるなら言い逃れできなくない?

公爵が懐から一束の手紙を取り出し、ドンと床に叩きつけた。

あ、あったぁ……。


「これです!男爵令嬢がフォーカスに送ったラブレターと、こやつの返信!『君の笑顔は星のようだ』だの、『また話したい』だの、ふざけた文面が並んでおります!」


フォーカスが慌てて首を振った。


「ち、違います!父上!あの手紙は、ただの礼儀として返しただけで……!信じてください、リディール殿下!」


私は頭を抱えた。

私は一番上にある手紙を手に取った。

手紙を広げ、ざっと目を通した。

確かに、男爵令嬢からの手紙には「フォーカス様の気品ある立ち振る舞いに心を奪われました」だの「またお会いしたいです」だの、かなり熱のこもった文面が並んでいる。

フォーカスの返信も、「君の笑顔は星のようだ」とか「また話したいね」とか、確かにちょっと軽い感じはあるけど……。

最後にしっかり「リディール王女と婚約破棄することがあれば、君に求婚する」と書いてある。

私は手紙を読み終えて、思わず「これはアウトじゃん」と心の中で叫んだ。

フォーカスの返信、最後の「リディール王女と婚約破棄することがあれば、君に求婚する」って部分、完全に黒だよ。

リディールの記憶をたどっても、フォーカスはチャラいけど誠実な一面もあるって思ってたのに、この一文で台無しだ。

私は手紙をパタンと閉じて、フォーカスをガン見した。

よく恋仲じゃないと言えたもんだ。


「リディ、こいつマジで許す気?」


アルカがドン引きしながら訊いてきた。

ほんと、修羅場すぎる。


「フォーカス、この手紙のこと説明してください。『婚約破棄したら求婚する』って、なんですか?私、婚約破棄する気はありませんでしたけど?」


私はフォーカスを睨んだ。

こういうのは徹底的に追求しないと。

フォーカスは顔を真っ青にして、ガタガタ震えながら必死に弁解した。


「違います! これは、ほ、ほんとに軽い気持ちで書いただけで……!男爵令嬢がしつこく手紙送ってくるから、適当にあしらおうと思って!僕の心は殿下だけで、婚約破棄なんて絶対考えていません!誓います!」


信用ならないんだけど。

砂糖を吐きそうな甘い言葉がありえないくらい書かれた手紙が目の前にあるのよ。

言い逃れできないのよ。


「軽い気持ち?フォーカスは求婚って言葉を軽々しく使うんですか?王族の婚約者がそんなこと書いたら、誤解どころか大問題だと分からなかったのですか?」

「うっ、滅相もありません……」

「あなたが男爵令嬢と恋仲だという噂は広がっていますか?」

「広がっております。王女殿下、愚息との婚約は破棄していただいて構いません」

「リディール王女殿下、どうか……。どうかお許しを……」


フォーカスが震える声で懇願するけど、手紙の「婚約破棄したら君に求婚する」って一文が頭から離れない。

あれは軽い気持ちで書ける言葉じゃない。

ましてや王族の婚約者がそんなこと書くなんて、頭悪すぎる。

オレサイキョー公爵が顔を上げ、必死の形相で私に訴える。


「王女殿下、この愚息の愚行は私の監督不行き届きによるものです。どうかオレサイキョー家への処罰はお控えいただき、フォーカスを勘当することで許していただけませんか?」


私は腕を組んで、ちょっと考える。

リディールの記憶をたどると、フォーカスは確かにチャラくてマナーも微妙だけど、根っからの悪人って感じでもなかった。

でも、この手紙はアウトすぎる。

乙女ゲームのヒロインならここで「許すけど二度としないでね!」って優しく微笑むのかもしれないけど、残念ながら私はそんな甘い性格じゃない。

リディールを甘く見たことや、元ヒキニートのプライドにかけて、こんなチャラ男に舐められたくない。

全力で潰しに行くからね。

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