第十二話 他国の王子を救いたいのに邪魔が強いです
「全く、国王陛下の命令を無視するとか、本当にとんでもないことをするわね」
「国家反逆をするなら、三人じゃ不安だろ。俺達もついて行ってやるよ」
「私達のことを頼ってくださいよ」
「あたし達はあんたに何度も助けられた。その罪、一緒に背負わせてよ」
「……っ!セレーネ、フォーカス、ペルセポネ!」
私は立ち止まり、そこに並ぶ顔ぶれを一人ずつ見つめた。
シシュナ王国の王女であり、誰よりもセティルド様の身を案じているセレーネ。
冷静沈着だが内に熱い正義感を秘めたフォーカス。
いつもは私が何しようと知らんぷりなのに、いざという時は私を手伝ってくれる律。
そして、私の「半身」とも言える大切な友人、ペルセポネ。
「……いいの?お父様の命令に背くことになるんだよ。最悪、爵位剥奪や国外追放になるかもしれない」
「俺は正しいと思ったことをやるだけだ。王族の理屈よりも、目の前で泣いている奴を救うのが騎士の道だろ?」
私の目をまっすぐに見て言うフォーカスは、七年前に不貞で婚約破棄した人と同一人物だなんて思えない。
セレーネは一歩前に出て、私に向き合った。
「リディール。兄様が街を壊しているんだよね」
「……うん」
「妹の私がここで黙って見ているなんてできない。お願いします。私を……私達を兄様の元へ連れて行ってください!」
彼女の瞳には、涙を堪えながらも消えることのない強い意志が宿っていた。
気づかなかったけど、少し離れたところにルナリア様もいる。
「……ルナリア様」
私がその名を呼ぶとルナリア様はゆっくりと私達に近づいてきた。
彼女はいつもの穏やかな微笑みを消し、一国の王女としての顔をしていた。
「リディール様。……我が兄が、そして我が国が、あなた方に多大なるご迷惑をおかけしていること、心よりお詫び申し上げます」
ルナリア様は深く頭を下げた。
「ルナリア様、頭を上げてください!あなたのせいじゃありません!」
「いいえ。兄が何に悩んでいるかも考えずに、一方的に嫌っていた私の不徳です。でも……私は今度こそ私は逃げません」
「……ルナリア様も、一緒に来てくれるんですね」
私の問いにルナリア様は決然とした瞳で応えた。
「ええ。私はお兄様と話がしたいです」
「……分かりました」
私は集まった仲間達の顔をもう一度見渡した。
フォーカス、律、セレーネ、ペルセポネ、リリアーナ、そしてルナリア様。
かつては敵対していた者、自分を見失っていた者、そして守られるだけだった者。
みんなが一つの意志として繋がっている。
「行こう!セティルド様を助けに!」
一人じゃない。
それがどれだけ心強いか……。
お父様が言う「王としての正しさ」には、彼らのこの温かさは含まれていないのかもしれない。
でも、私はこの温かさこそが世界を変える力になると信じている。
「お前の正しさがこの国を、セティルドを救うことを祈ってるよ……。リディール」
◇◆◇
城下町へと続く大階段を駆け下りると、そこはもはや私の知っている平和な街ではなかった。
黒い煙が視界を遮り、建物の残骸が道を塞いでいる。
逃げ惑う人々をアルデーヌやフォーカスが素早く誘導し、安全な場所へと逃がしていく。
こんなになってるだなんて……。
「避難できてない人が多すぎる!」
『どうするの?リディール。この人数を王宮が受け入れるとは思えないけど……』
リュミエールの懸念はもっともだ。
王宮の門はいつも通り閉じられ、王宮側は会議で結論が出るまで動けない。
数千、数万という避難民を収容する場所なんて、この街のどこにもない。
「……あるよ。一つだけ、絶対に安全な場所が」
「リディール様、まさか……!」
アルデーヌが目を見開く。
「精霊界だよ。リュミエール、リュメルトには私が後で土下座する!道を作って!一時的にこの街の人々を精霊界の広場へ避難させる!」
『……分かったわ』
リュミエールは宙に手をかざし、精霊界への門を開いた。
その向こう側には美しい緑と清らかな水が流れる、幻想的な精霊界の光景が広がっている。
「あの中へ!そこは絶対に安全です!走って!」
私の叫びに、呆然としていた人々が次々と門の中へ吸い込まれていく。
『リディール、ここは任せて先に行って。私がここを離れると門が壊れるからね』
「うん。任せたよ」
私達はリュミエールを置いて走り出した。
しかし、すぐにセティルド様を連れ去った少女が現れた。
「あはっ!ホントに邪魔してきた〜。私、ユースティティア!毒を操るのが大好きなんだ〜!ほら、みんなで遊ぼうよ〜!」
そう言うと、ユースティティアは試験管のようなものを懐から出して、地面に叩きつけた。
その衝撃で地面が割れ、紫色の煙が噴き出してきた。
「毒ガス!?息を止めて!」
私が叫ぶと同時に、フォーカスが風魔法で煙を吹き飛ばした。
さすが上級生。
詠唱が早い。
「も〜、邪魔しないでよ〜!」
ユースティティアは不満げに唇を尖らせる。
しかし、次の瞬間、彼女の周囲に無数の毒針が浮かび上がった。
「じゃあ、これで遊ぼうか〜!」
毒針が雨のように私達に向かって飛んでくる。
「展開!」
ペルセポネが急いで結界を張る。
「あはははっ!そんな結界、毒で溶かせるよ〜!」
彼女の鎌の刃先から滴る液体が結界に触れた瞬間、結界が溶けるように崩壊した。
「くっ……!」
ペルセポネが後退する。
ユースティティアは楽しげに私達を眺めている。
「みんな強いね〜!でも、私もっと強いよ〜!」
ユースティティアの体から紫色の瘴気が溢れ出し、私達を包み込もうとする。
「我が契約精霊よ、我に力を貸したまえ!クリーン・ヒーリング・マジック!」
私は急いで空気の浄化魔法を使う。
まずい。
毒は魔法で防ぎきれない。
このままじゃ消耗戦になる。
ユースティティアはまだ余裕の笑顔だ。
「もっと遊ぼうよ〜!私、まだ本気出してないんだから〜!」
これはやばい。
ユースティティアの強さは予想以上だった。
このままでは、全員がやられてしまう。
どうすれば……。
その時、ユースティティアの後ろに人影が現れた。
「ユースティティア、遊びはそこまでだ」




