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第十一話 他国の王子を救いに行きます

「どう?セティルドの様子は〜」

「順調に記憶を失っていますよ」

「そっかぁ〜。なら問題ないね。感情も抵抗も、もう少しで綺麗に削ぎ落とせるからぁ〜。でもさぁ〜。いいの〜?記憶を消せば、セティルドがここにいる理由もなくなるように思えるんだけどぉ〜」

「心配はいらない。消しているのは大切な記憶だけ。ヴァニタスの記憶は消えないさ」

「……選別してるってこと〜?」

「そうだ。恐怖、後悔、執着、個人的な愛情。それらは影を鈍らせる。不要だ」

「じゃあさ」

「ヴァニタスの記憶は消えないんだね〜?」

「ああ」

「……じゃあ、空っぽになっても動くんだ?」

「正確には、空っぽになるからこそ動かせる」

「あはっ!……ほ〜んと、性格悪いこと考えるよね〜。人ってさ、自分の記憶じゃないものだけで生きられると思うの?」

「試しているところだよ」


◇◆◇


どこからか声が聞こえる。

誰の声……?


――リディール様、リディール様


私を呼ぶのは誰?


――リディール様。お願い、助けて


この声……。


「セティルド様?」


問いかけた瞬間、空気が一段と冷える。

返事はない。

けれど、否定もない。


――助けて、リディール様


「どこにいるの?ねぇ、助けたいの!お願いだから返事して!」


――会いたいよ。家族に会いたいよ


「会わせてあげるから!お願い!帰ってきて!」


◇◆◇


「セティルド様!!」


私は手を宙に伸ばした状態で目を覚ました。

王宮のいつもの朝前の静けさ。


「……っ」


心臓がやけに早い。

喉が痛い。

声を出しすぎたあとみたいに。

私はゆっくりと手を下ろす。

そこには、何もない。

……夢。

そう思いたかったけど、できなかった。

指先がまだ冷たい。


「…………」


私はシーツを握りしめた。

呼ばれた。

私の頬に涙が伝う。


――会いたいよ。家族に会いたい


「会わせてあげるよ……。何度だって……。だから、それまで待っててね……」


私はベッドから降りて、窓辺に立った。

まだ夜明け前で、空は暗い。

でも、遠くの空が少しずつ明るくなり始めている。


「セティルド様……」


私は窓ガラスに手を当てた。

冷たい……。

でも、セティルド様はもっと冷たい場所にいるんだろう。

ヴァニタスに捕らわれて、記憶を失うかも知れないことまでやらされて……。


「許さない……」


私は拳を握りしめた。

ヴァニタスを。

セティルド様を苦しめる全てのものを。


『リディール、起きてたの?』


リュミエールが心配そうに声をかけてきた。


「うん。あのね、夢を見たの」

『夢?』

「セティルド様の声が聞こえた。助けてって……」


私はリュミエールに夢の内容を話した。

リュミエールは少し考えてから口を開いた。


『それは、もしかしたら夢じゃないかもしれないわ』

「え?」

『精霊の力を持つあなたなら、強い想いを持つ相手の声を感じ取ることができるかもしれない』


リュミエールの言葉に私は息を呑んだ。

強い感情を持つ……。


「じゃあ、本当にセティルド様が助けを求めているってこと?」

『可能性はあるわ。でも、確実ではない』

「…………」


それでも、私はあの声が本物だと信じたい。

セティルド様はまだ諦めていない。

家族に会いたいと思っている。


「リュミエール」

『何?』

「私、絶対にセティルド様を救う。殺せって言われても殺さない」


私ははっきりと言った。


『……分かった。あなたがそう決めたなら、私も全力で協力するわ』


リュミエールは優しく微笑んだ。

私は窓の外を見つめた。

絶対に助け出すから、それまで耐えててね。


◇◆◇

――数日後


私は流石にイラついてお父様の執務室の机を叩いた。


「どういうことですか!?セティルド様のために兵は出せないって!」


私の怒声が静かな執務室に響き渡った。

叩いた机の上の書類が私の魔力で少しだけ浮き上がる。

お父様は私をじっと見つめていた。


「……リディール。落ち着きなさい。感情に任せて動くのは、王族のすることではない」

「落ち着いてなんていられません!セティルド様は今、ヴァニタスに囚われて、記憶まで消されようとしているんですよ!?一刻を争う事態なのに……!」

「……だからこそだ」


お父様の声はどこまでも冷徹だった。


「シシュナ王国はセティルド王子を『国家反逆者』として公式に認定した。……我が国が彼を救うために兵を動かせば、それは他国の内政干渉であり、最悪の場合シシュナとの全面戦争に発展する」

「そんなの言い訳です!お父様だってセティルド様が家族を守るために動いていたこと、分かっているはずでしょう!?」

「分かっている。……だが、王とは一人の少年の命よりも、数百万の国民の平和を優先しなければならない存在なのだ」

「しかし――」


私が言い返そうとすると、執務室の扉がノックもなしに叩かれた。


「陛下!」


扉を開けたのは、いつもは冷静で、焦ったりノックの返事を待たずに扉を開けたりしないお父様の補佐官だった。

何かあったのか?


「こちらを至急ご覧いただきたく……」


補佐官は父様に一枚の手紙を渡した。

お父様はそれを呼んで、すごく渋い顔をした。


「リディール、お前はああ言ったが、これが現実だ」


手紙を私に差し出した。

これは……。


「現在の城下の状態だ。ヴァニタスが、セティルド王子が国民を虐殺している。国民は今、彼を自分達の生活を脅かす『恐怖の対象』として見ている」

「でも、それはヴァニタスが仕組んだことで……!」

「理由はどうあれ、結果がすべてだ。……今の状況でセティルド王子を守るような兵を出せば、国民の支持を失い、国が内側から崩壊する」


お父様は国王の象徴である大きなマントを羽織って、私を冷たい目で見た。


「……リディール、お前を王太女に据えたのは、お前にその冷徹な判断ができると信じたからだ」

「……冷徹な判断?」


私は拳を握りしめた。

確かに多少の残酷な選択は覚悟していた。


――助けて


でも、助けを求める人に救いの手を差し伸べられないの?

それなら……。


「……大切な人を切り捨てることが王の仕事なら、私はそんなものになりたくありません」

「リディール!」


お父様の叱咤を無視して、私は踵を返した。


「……お父様が動かないなら、私は勝手にします」

「何をするつもりだ!」

「決まってます。……私は私の信じる正義を貫くだけです」


執務室の重い扉を、叩きつけるように閉めた。

廊下には心配そうに待っていたアルデーヌとリュミエールがいた。


「……リディール様」

「アルデーヌ。……お父様は兵を出さないって」

「……そうですか。実に陛下らしい賢明で残酷なご判断ですね」


アルデーヌは静かに目を伏せた。

私は足を止めずに、王宮の門へと歩き始めた。

ここ数日でヴァニタスは罪のない人をたくさん殺している。

すぐにでも止めれて、セティルドを救える方法はこれしかないのに……。

どうしてお父様はあんなに残酷なことを言えるの?


「……私は諦めない。……国が動かないなら、私個人で動く。……アルデーヌ、あなたはどうする?」


私はアルデーヌの瞳を真っ直ぐに見つめた。

アルデーヌもその視線を逸らすことなく、強い意志を含んだ瞳で私を見返した。


「……愚問です。俺はあなたの騎士。あなたが地獄へ行くと言うのなら、私はその門を切り開く剣となるだけです」


私はアルデーヌの言葉に少し安心しながら、城下を見下ろした。

……お父様の言うことは正しいのかもしれない。

でも、正しさが人を救えないのなら、そんな正しさは私が壊してやる。


「セティルド様……国があなたを見捨てても、私だけは……。私達だけは絶対に見捨てないから」


私とアルデーヌとリュミエールは城下に降りるために、王宮の門をくぐろうとした。

その時、異変を感じた。

門番が止めない……。

私があたりを見ると、門番は壁にもたれかかっていた。

もしかして、もうヴァニタスが王宮に……?

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