第十話 転生先の差別をなくします
――建国祭当日
「リディール、準備はいいか?」
「はい」
私は力強くうなずいた。
今私は、豪華なドレスを身にまとい、城のバルコニーに立っている。
小百合さんに背中を押され、私は演説をすることを決意した。
国王は私の背中を軽く叩き、バルコニーへ押し出した。
「よし、じゃあ伝えたいこと伝えてこい」
私は勇気を出して、バルコニーに立った。
そこには、たくさんの人がいる。
少し呼吸が荒くなった。
緊張でもあるし、前世のトラウマでもある。
詳しいことは思い出せないけど、知らない人が少し怖い。
でも、逃げちゃダメだ。
向き合うって決めたんだから。
「みなさん、ごきげんよう。私はメッチャツオイ王国第一王女が一人、リディール・セア・メッチャツオイです」
あ、アルデーヌだ。
私は大人数の中から、アルデーヌを発見した。
不思議だな。
さっきまでの恐怖が嘘みたいに消えていく。
代わりに伝えたい言葉が溢れてくる。
「まず、建国記念日を無事に迎えられたこと、王家一同嬉しく思っています。そして、私はこの建国記念日を機に、国を変えたいとも思っています」
言え。
言うんだ。
前世何もできなかった私が、この世界で最大限にできることをするんだ。
「私は、この国の異端児差別をなくしたいと考えています」
私が言うと、国民がざわめきだした。
よし、予想の範囲だ。
「私は、早くに魔法の才を開花してしまった者が差別される意味が分からないのです。異端児は無意識とはいえ人を殺す場合があります。しかし、彼らも私達と同じく人間です。人を殺したことを悔やみ、差別されることを悲しみます。そんなことがあっていいのでしょうか」
納得がいかないと言う顔をする人や、不機嫌さをあらわにする人もいる。
絶対に引かない。
私はアルデーヌに言ったんだ。
――いつか異端児差別を無くすから
私、約束は守るタイプだから。
「異端児は制御を覚えれば、あなた達と変わらぬ人間です。私は異端児にある特別な魔力量を呪いのようには思ってほしくありません。なので、異端児は王宮魔術師団で引き取ってもらい、制御を覚えるまでは結界付きの寮で過ごしてもらいます」
安心してください。
ちゃんと王宮魔法師団には許可をとり、寮の建設も進めている。
「差別は恐れから、自分とは別と思うから起きるものだと思います。ならば、それを取り除くのが王家の役目です。今こそ、長年にわたる差別を終わらせましょう!」
私の声が広場に響き渡ると、拍手がポツポツと起こり始めた。
最初はまばらだったが、徐々に大きくなっていった。
アルカが後ろで「リディ、すげぇよ!」と叫び、国王は静かに頷いてくれる。
小百合さんは涙を浮かべながら、優しく微笑んでいた。
私はアルデーヌの方を見た。
彼は小さく微笑み、そっと手を振ってくれた。
私は私を愛せない。
母を困らせて、自分の趣味に逃げた私を、私は愛せなかった。
他人もどうでもよくて、ただ昔と同じ思いをしないために、あの頃の私は誰とも向き合わず、ただ自分の殻に閉じこもっていた。
それなのに、今、こうして国の第一王女として、りりあさんの願いを胸に演説しているなんて。
私が私じゃなくなったみたい。
誰かの幸せや願いを守りたいと思えるなんてね。
リディールの気持ちが混ざっているのかもしれない。
だけど、これだけは言える。
この世界に転生できてよかった。
お母さん。
私、今この世界でちゃんと生きてるよ。
みなさんこんにちは春咲菜花です!「メッチャツオイ王国の第一王女ですが、名前のせいで威厳ゼロです」の国の差別編が、今回にて終了いたしました!次はどんな展開になっていくんでしょうか?ぜひお楽しみに!!よろしければブクマ、評価、レビュー、リアクション、感想いただけると嬉しいです!




