転生先の名前がダサかった
みなさんこんにちは!春咲菜花です!「咲花の滅妖姫」が終わったので、新シリーズを開始したいと思います!タイトルが「メッチャツオイ王国の第一王女ですが、名前のせいで威厳ゼロです」です!名前のダサさが魅力のこの物語!ぜひお楽しみください!!
あなたは異世界に転生したら、まず第一声に何を言いますか?
ベタな展開を求めるなら、心の中で「私!転生してる!」「これが世に聞く異世界転生か」みたいな言葉を叫び、侍女が来て会話する。
そんな流れだろう。
しかし、私はそんなベタな展開にはならなかった。
「おっと、このべっぴんさん私か?転生特典〜」
前世はデブスの成績どん底クソヒキニートオタクだった私は、明らかに貴族の美人に転生したことをまず喜んだ。
まあ、この展開もなかなかにベタなものだ。
前世の記憶を取り戻す前のこの体の記憶は、普通に私の中に存在している。
どうやら私はメッチャツオイ王国という、クソダサい名前の国の第一王女らしい。
なんだよ。
メッチャツオイ王国って。
逆に弱そうだぞ。
そして、この体はリディール・セア・メッチャツオイのものらしい。
名前は可愛らしいけど、ファミリーネームがな……。
ちなみにリディール氏の婚約者は、公爵家のフォーカス・メア・オレサイキョーだ。
なんなの?
全員ファミリーネームがダッセェんだけど。
「んー、一回部屋から出てみる?」
いや、誰に訊いてるんだって話だけどね。
一回出てみるか。
私は部屋から出た。
うわぁ、さすが王宮。
めっちゃ綺麗だし、めっちゃシャンデリアがキラキラしてる。
「……掃除大変そうだな」
シャンデリアは構造が複雑だから、掃除がクソめんどい。
従姉妹のねーちゃんが五つ星ホテルの清掃員として雇われてたから知っている。
使用人さん達可哀想だな。
この世界はもしかしたら、私の知ってる乙女ゲームとかかなって思ったけど、全く知らない。
覚えてないとしたら、印象の薄いゲームくらいだけど、ファミリーネームがクソダサいゲームだったら絶対覚えてる。
だから、やったことのない乙女ゲーム、もしくはただの異世界転生か。
「光の精よ。我が呼びかけに応え、姿を表せ」
「ん?」
「いでよ!聖なる光!」
少し開いている扉から、男の人の声が聞こえた。
……うわぁ。
厨二くさい呪文にドン引きした。
私が厨二病だったころよりもやばいじゃん。
何が起きているのかを覗き見た。
「だーかーらー!何回も言ってるだろ!ここのポーズはこう!」
どうやら二人いるようだ。
一人はリディールの兄、アルカ・ミヤ・メッチャツオイ。
もう一人はリディールの従兄弟のスパール・ラナ・カエルコワイ。
アルカはスパールに厨二病の典型的なたたずまいを教えている。
あの片目に片腕をかざすやつ。
この世界には魔法があるんじゃないかと期待した私がバカだった。
厨二病の世界への勧誘だった。
「もう一回やってみろ」
「はい。光の精よ。我が呼びかけに応え、姿を表せ。いでよ!ホーリー・ライトニング・エアー!!」
スパールがそう言った瞬間、まばゆい光が部屋を包み込んだ。
いかにも厨二病患者の私が作りそうな呪文で魔法が使えたな。
しばらくすると光は収まった。
アルカとスパールがハイタッチして喜んでいる。
「やったな!成功だ!」
「やはり立ち方が悪かったんですね!」
「お?リディ!もう体調はいいのか?」
アルカが私に気づいて扉を開けた。
リディールは高熱で寝込んでいたらしい。
猫が噴水に落ちそうになったのをスライディングして助けて、そのまま噴水にin!
ビッチャビチャになって熱を出す。
王道展開キタァ。
「もう平気ですよ。それより何をしていたんですか?」
「魔法の特訓だよ。スパールが魔法を学びたいって言ったから」
「それって私も使えるんですか?」
「うーん、使えないことはないけど……。リディは何歳だっけ?」
妹の年齢くらい覚えとけよ。
私のお母さんと同じタイプだ。
『え!?お父さん今日誕生日!?言ってよ〜!ケーキ買いに行くよ!あれ?お父さん何歳だっけ?』
懐かしいなぁ。
あれ?
私ってなんで死んだんだっけ?
覚えてないな。
まあ、いっか。
「えっと、確か八歳ですね」
「じゃあ、あと二年待たないとダメだな。十歳からしか魔法は使えないんだよ」
あ、そっか。
この世界では十歳になると魔法が使えるようになる。
それまでは魔力を体内に蓄積しているらしい。
わかりやすくするね。
例えば、一つの瓶があるとします。
それが魔力の多さだね。
満タンになるまでは魔法が使えない。
十歳になると、魔力が溢れて魔法が使えるようになる。
魔法を使えばもちろん魔力は減る。
でも、半分以上魔力が残っているのなら、魔法は使える。
しかし、魔力が半分以下になると魔法が使えなくなる。
「リディは異端児じゃないといいな」
アルカは私の頭にポンと手を置いた。
異端児は十歳になる前に魔法が使えるようになる子供のことだ。
異端児はなぜか恐れられていて、差別の対象だ。
意味わからん。
「異端児って、何がいけないのでしょうか」
「普通と違うからね。異端児は魔力量はかなり多い。溢れる魔力はときに人を傷つける。だから危ないんだ。公爵家のアルデーヌのようにな」
アルカの言うアルデーヌというのは、この国の公爵家の長男だ。
アルデーヌ・テア・コロスーゾ。
相変わらずファミリーネームがダサいが、それは今はいい。
アルデーヌは異端児だ。
彼は溢れ出た魔力で、実の母親を殺してしまった。
妻を愛していた彼の父は激怒し、アルデーヌを殺そうとした。
使用人達がそれを止めて、アルデーヌは幽閉されているらしい。
「お兄様は異端児差別をされるのですか?」
「ん?差別ではないよ。ただ、母親をわざとじゃないとはいえ殺したことを軽蔑しているんだよ」
私は頭を撫でてくれていたアルカの手を振り払った。
アルカは驚いたように目を見開いた。
「それを差別というのです。夫人が亡くなって、コロスーゾ公爵は悲しんだでしょうね。しかし、それはアルデーヌ様も同じです。本人の気持ちも考えずに軽蔑するなんて……。私、お兄様が少し嫌いになりました」
私はそう言い放って部屋を出た。
かなり驚いていた様子だけど、リディールは異端児差別をしていたのだろうか。
私の中に存在するリディールの記憶は、まるで新聞のように情報しかない。
感情を感じない。
私はリディールの記憶から、感情を探りながら部屋に戻った。
「……一体、リディはどうしたっていうんだ」
「あの異端児差別なんてどうでもいい、みたいな顔してたリディールが異端児を庇うなんてな。シスコンアルカ、どう思う?」
「いい傾向だな。感情を出せるようになったのはいいことだ」
「そうだな。もしかしたら、アルデーヌのことが好きだったりして」
「バカを言うな。まだ嫁にはやらん」
「シスコンキモッ。てかお前嫌いって言われてたけど……」
「……………………あぁぁああああああぁぁあ!!」