第97話 勇者、勇気をだす。
「早く行きますよ!神黒さん!!」
楓に無理矢理引っ張られるように連れられている神黒たちは第10層へと下るところに位置していた。
1、2層で問題の侍の行方不明事件が起きているのもそうだが、10層まで来て1匹も妖怪を見ていないことにもおかしいと思わないのか、楓は?
この時点でもう既に手遅れな気がして物凄く怖いっていうのに、なぜスラスラと前へ進める!!
楓はどんどん洞窟の最深部へと続く道を進んでいく。
何かを見つけたのか楓は突然、大きな空洞の目の前で足を止める。
「あれって、オーバーロードさん達じゃない!」
神黒たちは楓の視線の向こう側にある光景に視線を向ける。そこではオーバーロードらしき人たちと重々しい鎧を纏った5人組の人たちがどんな本でも見たことの無い姿をした化け物と交戦していた。
「オーバーロゥ!?」
神黒は楓の発そうとする声を途中で遮る。
「おい!死ぬ気なのか!?ここから声をかけたらあの化け物に気付かれるぞ!!」
「でも、オーバーロードの人たちにやっと会えたし、今の状況的に加勢をしに行くべきでしょ!!」
「いや、あんな化け物に俺らが加勢したところで倒せるわけないだろ!!」
「あの人たちを見殺しにするの!?」
「見殺しにはしたくないさ!でも、俺らが行ったところで死人が増えるだけだ···」
楓は神黒の言葉を聞いて、黙りこんでしまった。
やっと、分かってくれたのか···。このまま息を潜めて、あの化け物がどこかへ行くまで待とう。
「······ねぇ!!いつからそんなに臆病になったの!私たちと出会った頃は勇敢で頼もしい人だったのに······。私は1人でもオーバーロードの下へ行くわ!臆病な神黒とは違って!!」
楓はオーバーロードの下へ走っていった。神黒は楓に戻ってくるように声をかけるものの帰ってくる素振りは窺えない。
何で楓は化け物の下へ走っていったんだ!死にたいのか!?俺が臆病ってどういう意味だよ。ごく普通のことだろ。強敵と出会ったら逃げるのは。
神黒が心の中でそう呟いていると桜が左腕の袖を掴んだ。
「神黒さん、大丈夫?何か怖いよ···」
どうやら神黒の心情が顔に表れていたようだ。
「神黒さんってキャロックとさんと出会った頃から強い敵を怖がっているよね〜。昔はどんな相手でも立ち向かっていたのに······」
神黒は桜の言葉を聞いて、やっと気づいた。
あの時の幼女のとてつもない強さを目の前にした時から、強い敵を恐れていたことに···。だから、大山蛙やキングデーモンを倒した妖怪を探すのではなく、ドラン国で初段で受けられるクエストばかり受け、旅に出ようとしなかったのか···。知らず知らずのうちに俺は臆病になっていたのか···。
━━━パシッ!!
俺は臆病になるためにここに転移してきたわけじゃない!楓たちが気付かせてくれたんだ。今立ち向かわずにどうする。
神黒は前を向いて、化け物の下へ走り出すのであった。




