勇者!妖怪と対決する。第十六章
「神黒さん······いないなぁ?」
広場で頭を抱える人がいた。神黒たちはその人の下へ行く。
「おっ!神黒さんー!丁度良いところに!!」
頭を抱えていた者は神黒たちを見るとともに話し始めた。
「楓ちゃんたちの母と父の居どころが掴めたんだ!」
囚われていた村人の中に、途中で楓と桜の父らしき人が鬼族の屋敷に入ろうとしていたのを見たらしい。鬼族の屋敷はこの村から北西に進んだ所にあると村人は言う。
「楓たち!もうそろそろだ!もう少しで親に会えるぞ~」
「鬼族の屋敷にお父さんとお母さんがいる······」
不安そうにする楓に弟である桜が満面の笑みで元気を与える。
「桜······」
「あともう一つ······知らせたいことがありまして······」
神黒たちはそのもう一つの知らせも聞く。
「鬼山に転移者が姫を救うために来られているらしいのです······」
神黒は転移者たちのことを今回の出来事でまるっきり忘れていた。
━━━そうか。あの人たちもここに来ていたのか······。
神黒たちを探していた村人は知らせを伝えると一つの提案を持ち出した。
「急いでいるのは承知しておりますが、良ければ今日の復興を願う宴に出られませんか?」
「宴?」
「はい!今日は一通りの整備作業が終わったということもあり、村の者たちで宴会を開こうと考えておりまして、良ければ神黒様御一行にも来ていただきたいと村の者が考えていまして」
その村人の話ではその宴は太陽が沈んでから行うらしい。
神黒たちは広場から宿屋に戻り、旅立つ準備を進めながら考える。
「行きましょうよ神黒さん!せっかく宴会に呼んでもらったんですから······」
「楓がそれでいいなら、そうするか!」
神黒たちはある程度の準備を済ませ、宿屋の昼食を取りに行く。
「すいませーん!食堂のお姉さ~ん、昼食をいただきたいですー!」
厨房の奥から「はいよー!」と答える声が聞こえた。
厨房には一人で食堂の料理をこなす女性と作った料理をテーブルに配膳する少女がいた。
「お待たせしました!パンとシチューの壱昼食です!」
座っている村の住民は配膳された料理をむきゃむしゃと食べる。
「いらっしゃいませ!お好きな場所に座ってください~!」
配膳途中の少女に案内される神黒たち。
「神黒さん!何、食べます?」
少女に渡されたメニューを楓が神黒に見せながら聞く。
「俺は······この弐昼食にしよう!」
「なら、私は参昼食、桜は肆昼食にするわ!」
神黒はカウンターでペンと紙を持って、立ち尽くしている少女に声をかける。
「何でしょうか?」
「注文お願いします!」
神黒は次々とメニューに載っている名前を呼んでいく。
「······これで全てで宜しいですか?」
神黒たちは頷き、食堂のテーブルで料理が来るのを待つ。
「弐、参、肆昼食でございます!」
目の前に置かれたのは猪のステーキ、キノコのスープパスタ、鹿肉のミンチハンバーグだった。
それぞれ選んだメニューを食べていく。
━━━パクッ!
「ムフッ············」
一口、口に入れると空間が静まり返る。
「「「美味しいー!」」」
3人同時に叫びだした。厨房にいる女性はその声を聞いて、静かに微笑するのであった。
「ご馳走様でした!」
「金はどれくらい······」
少女は両手の平を出して、断る様子を示した。
「要りません!私たちは助けられたので、お礼くらいさせてください!!」
この少女と厨房の女性はあの時、檻の中で捕まっていたらしい。
「ありがとう!」
少女は満面の笑みで送ってくれたのだった。