勇者!妖怪と対決する。第十五章
━━━早朝。
「おはよー、神黒さん!」
楓は腕を伸ばしながらあくびを吐く。
「おはよう···」
朝早くから何かの準備をする神黒を見て、不思議そうな表情をする楓は、神黒に聞く。
「朝早くから何を準備してるの?」
「昨日、宿屋の爺さんと稽古の約束したから、そのための準備だよ」
「そうなんだ~······それ、私も着いていっても良い?」
「良いけど、来るなら桜も呼んできてくれ!」
神黒は荷物を持って、稽古場であるお庭へと向かった。
「おー、来たな!早く準備を済まして稽古するぞ!」
宿屋の爺さんの言う通りに神黒は木の下に置いていた訓練用の木刀を持ち、木刀を爺さんに向ける。
「じゃあ始めるぞ!まずは真っ直ぐ振るんだ!」
お爺さんの言う通りに神黒は持っている木刀を構えて、上から下へ真っ直ぐ振り抜く。
「······どうでしたか?」
「············解らん」
━━━え······。
「解らんの~。やっぱり刀を縦に振っただけじゃ解らん!本気の業を見せてくれ」
「···解りました」
神黒は今使える最大の業を宿屋のお爺さんに見せた。
「グランドスペル!ファイヤー」
木刀に付与された炎属性の魔法は目の前に立っている木の的を真っ二つに切り裂く。
「付与術か~······良いものを授かったのだな。千万人に一人の生まれつき術らしいが······ん~。だが、炎が乱れておる。この術にはもっとすごい輝きを感じるのじゃ!もっと風を利用するのじゃっ!」
神黒は宿屋のお爺さんの話通りに試す。
━━━集中するんだ!俺······。風を感じろ······。
············ヒュ~~。
━━━今だ!!
神黒は両手で掴んだ木刀を下から振り上げる。
振り上げた炎魔法が付与された木刀は刃物のように尖った炎の刃を放ち、目の前にある木の的を切り裂き、さらに向こうにあった昨日、宿屋のお爺さんが粉々にしていた鉄の柱を真っ二つに切り落とした。
「なんだ······!?今の斬撃······」
「······これは凄いのを見せて貰ったわい!国の七侍に匹敵するほどの業を見せてくれとはなっ!」
宿屋のお爺さんは高笑いをして懐に隠していた酒瓶を飲み始めた。
神黒は今の業の名を知るためにステータス画面を開く。画面上には《炎刃》と書かれた業が追加されていた。
「この業は炎刃という名前だったのか······」
「わしゃーもう何も教えることが無いぞ~!わっはっは!」
酒を飲んで酔ったお爺さんは笑いながら宿屋へと戻ってしまった。
··················ん?
神黒は突然の修行終了のお知らせにポカンと頭の回転を停止させる。
「神黒さんー!!桜呼んできましたよ~!······ん?宿屋のお爺さんはどこですか?」
「どこー?」
頭の回転を停止させていた神黒は楓の声に気づき、新業を獲得したこと、その途端宿屋のお爺さんが修行を終了したことを話した。
「ふぅ~ん。その炎刃?って業を見せてよ!」
「見せて~!」
神黒は楓たちの要望をこなすためにもう一度木刀に炎魔法を付与させる。神黒が付与させた木刀を振ろうとすると突然木刀が折れる。
━━━っあ!?
折れた木刀の先っぽは空に飛び、倒れかけの家に刺さった。
刺さった木刀の先っぽは倒れかけの家を燃やしていき、大規模な火災を起こした。
「ヤバい~!!」
急いで燃えた家へ向かうと先ほどまでお酒を飲んで酔っていた宿屋のお爺さんが刀の鞘から刀を引き抜こうとしていた。
「神速······」
━━━スパンッ!スパンッ!ビュッビュッドュン!!
みるみると倒れかけの家は粉々になっていく。
「お爺さん!」
「おっ!お嬢ちゃんたちもいるじゃないか!」
「今の何?」
興味津々に聞く桜に宿屋のお爺さんは優しく語りかける。
「今のは術によって足を早くした技じゃよ!」
「何かすごい~!」
「やっぱええな~!子供は!!」
「ありがとうございます!爺さん!」
「ええぞ!まだ、馴れてないのじゃから、折れることだってあるじゃろう。しょうがない!」
笑いながら慰めるお爺さんに神黒は名前を聞く。
「わしの名前か?言ってなかったな!わしの名前は花月じゃよ」
楓は思い出したかのように話し始める。
「そうだ!さっき神黒さんのことを昨日助けた人が探してたよ」
「そうなのか······」
「行って参れ!ここはわしがなんとかするから」
「最後までありがとうございます!俺行きます!」
神黒たちは急いで広場へ向かうのであった。