勇者!妖怪と対決する。第三章
その一方……。
「楓!桜を守りながら戦えるか!」
「行けます!」
神黒は外側に回り込んで敵の隙を探る。敵である【ダークアント】は虫属性妖怪の部類に入る初期型妖怪。この世界では世界観が和風江戸頃なため、あらゆるモンスターを妖怪と呼んで恐れられている。だが、もちろんそれらの妖怪を倒すものたちもいる。そのものたちを妖伐隊と言うらしい。この世界は妖伐隊の尽力によって平和に暮らすことができるわけだ。
【ダークアント】と対面している神黒と楓たち。【鬼山】に行く途中の森で偶然出くわした。外見は蟻のように八本足で二本の角の生えている。神黒たちは【ダークアント】と戦うために武器を持ち出す。神黒は楓たちの村に落ちていた欠けている日本刀を持ち、楓は子どもでも持てるほど軽い短刀を構える。桜はまだ五つも超えていない子どもだったため攻撃手段はなく、大人しくしていた。
神黒は桜を楓に任せ、【ダークアント】の背後に潜り、一瞬の隙を見つけ、持っている日本刀を横向きに斬り込む。
「オラャー!!」
神黒の刀は【ダークアント】の額から胴体を切り裂くように入り込んだ。入り込んだ刀は華麗に【ダークアント】を真っ二つに切り分ける。
神黒は妖怪の血を払うように刀を弾き、腰の左側に吊るしている鞘に仕舞う。
「この刀、刃が欠け過ぎて斬りにくい。どこかで欠けていない刀はないのだろうか…」
「その見た目で結構やりますね…」
「これでも戦いには馴れてる方なんでね…」
神黒は妖怪を後にして【鬼山】へ向かおうとすると楓が腕を強く掴み、神黒に問いかける。
「何で解体しないの?」
「今は親を優先するべきだと思ったからだが…」
「勿体ない!?【ダークアント】の角は刀を作る上で活かせるんだよ!時間は掛けないから採取しよう!」
神黒は楓の凄まじい勢いに圧され、ついつい承諾してしまった。
「ここの部位も無事だ!ついでに取っとこ〜!ふぅ~んふぅ~ん」
楓は若干十歳にして、楽しむように妖怪の遺体を漁る地位まで登り詰めたらしい…。
楓の作業は完璧と言えるもので、雑になっている箇所が見当たらないものであった。
楓の作業はほんの数分で終わり、目当ての角や眼を手に持って返ってくる。焦ったせいか、気持ち汗が流れているようにも感じる。
「行きましょう!神黒さん!」
にこやかな表情をしながら【鬼山】へ淡々と歩いていく。桜はそんな姉さんを見ても一ミリも動じない。
「······おう…」
【鬼山】へと向かう神黒たちは山の麓で鳥居が建てられていることに気づく。その鳥居には数百枚を超える御札に何千本と釘が打ち付けられてある。不気味な雰囲気を醸し出すその空間は神黒たちの心を揺るがしていく。これが気のせいなのか、またはそういう効果を持っているのかは些か断定しかねる。
神黒たちは鳥居の横に置かれた看板を視野に入れる。日本語文字に似ている密坂文字で書き込まれた文字はまだ神黒には読めない。そのため、楓に全てを読んでもらうことになった。
「この鳥居は妖界へと続く魔の門。鬼山に住む上級妖怪である【鬼族】が住む道へと繋がる門」
敵のねぐらの入り口を見つけると同時に襲いかかる現実を神黒たちは感じざるを得ない。信じたくない最悪の事態を浮かべてしまう。
「···大丈夫ですよね…」
「······大丈夫だよ…」
神黒たちの向かう先には恐らく楓たちの親を拐った親玉もいるだろう。だが、その相手と対面した時、俺たちは冷静に立ち向かうことができるだろうか?恐ろしさにまいってしまったり、復讐心に集られて無闇に攻撃をしないだろうか。心の中にある不安感を持ちながら神黒たちは鳥居の中を潜るのであった。