滑稽なマリオネット
城下町に戻ると街道では沢山の人が列をなして帰りを待っていた。
声援のような声は少なく、勇者の帰還とは思えないほどに静かだ。
おそらく貴族達に無理矢理街道に集まれなどと命令されたのだろう。
町の人達は俺のことを憎んでいるはずだ。
なぜなら、逆らってきた人間には裁きを与え、勇者という力でどんな不都合をねじ伏せていたから。
それゃ憎まれるわな。強いスキルと職業に浮かれて無意識に見下していたもんな~!
街道に集まっている人達に笑顔なんてものは浮かばない。ただ憎しみの視線だけを俺に向けてくる。
━━━ホント、俺はなんでこんなことをしてるんだろ···。
口から小さく呟く。
きっとこれが俺の本当の気持ちなんだ。
前世では突出した能力は愚か、人並みの能力さえも持っていなかった人間だ。
それはそれは転移後の俺はチートな能力を授かり、俺にもやっとツキが回ってきたんだと喜び努力することを忘れ、力に溺れていったんだろう。
町の人達に見送られ、馬車で王城の中へと入っていく。
王城内では貴族たちが謁見の間で待っていた。ほとんどの貴族は拍手をして出迎えているが陰でクスクスと笑っているものや俺を滑稽な下民と見下している者もいる。
謁見の間にて功績が伝えられた後、俺は王様にとある場所に案内された。
俺は褒美だと思い、王様に着いていったがそこは誰もが訪れないクモの巣が張っていたり、埃が積もっている地下への階段だった。王様曰く、ここは王城の幻の部屋と言われる、地下100階に続く階段らしい。
部屋は頑丈な鎖や魔法で作られた鍵穴で、特殊な鍵でしか開けられないほどに厳重に閉まっている。
中に入ると薄暗く、家具の一つもない何のために作られた場所なのか分からない様子になっている。
「ここはなんの場所ですか?」
「今日から勇者様の部屋になる場所ですぞ。そして······あなたの墓場になるところでもありますね。ここであなたには先代の勇者と同じように死亡するまで過ごしてもらいこの城の糧になってもらいます!」
━━━え!どういうことだ。
言っている意味が理解できない。
少々時間は掛かったものの王の言葉を理解した勇者は、簡単に捕まってはいけないと、王様に対して聖剣を振りかざす。だが、王様は軽々とかわした。
━━━はぁっ!?
今度は得意の魔法を放とうとするものの、詠唱しても技が撃てない。王様は勇者の滑稽な姿に高笑いをする。
「だめですよ。この部屋は勇者の魔法や状態異常を無効化する特別なお部屋なのですから、無駄な抵抗は止めてください。ハッハッハッ!!」
王様は得意気にこの部屋のことを教えてくれた。この部屋は先代の勇者・ミサカカオリを生前まで閉じ込めて勇者の魔力を吸い取った場所らしい。この国はそもそも勇者を元の世界に送る気など微塵もなく、それは愚か、城を保つために勇者を召喚し、おまけで強敵と戦わして用がなくなれば、この城の糧にする。それこそが勇者を召喚する理由だと言われると今頃自分の素直さを自覚させられる。
「それではさようなら。滑稽なマリオネット!」
━━━バッタン!!
大きな扉は重々しい音を鳴らしながら、徐々に閉まっていく。
部屋の外では高笑いする王様の声が壁ごしに嫌でも聞こえてくる。
━━━俺は王に見捨てられたのか。
いや違う。俺が召喚された時、王たちを一瞬も疑わなかったことが悪いんだ。俺はチート能力を手に入れ浮かれていて、目の前にあるものさえ疑うことを忘れたんだ。
いつもそうだ…疑うことを忘れ調子に乗る。
勝手に召喚されて、世界を救ってくれと頼まれ、俺はのうのうと王や貴族の言いなりになって、最後は王に裏切られる。
俺に合った生きざまだ。俺がこれまで見て見ぬふりをしたことのようにこの国も俺を見捨てたんだ。
暗闇の中でただ一人何もない場所で気持ちを沈ませるのだった。