第115話
「神黒さん、あれから女性はどうなりました?」
楓は先ほどの女性を気にする様子で神黒に話しかけてきた。
「見つからないところまで連れていったからもう大丈夫だと思うよ」
楓は神黒の回答に安堵の気持ちを見せた。
「でも、アリスってこの国ではそんなに人気な小説家なんですか?」
叶の話を聞いた店番をしているティファナさんが売上資料を作りながら答える。
「小説家のアリスと言ったら、花の記憶で百万部を売上げた有名小説家じゃない。しかも、多数の芸能人を輩出しているシュートベルグの三女じゃない!そんな人がこの国にお忍びで来ているとはね~」
ティファナさんは有名小説家がこの国に来たことに対して他人事のような様子で売上資料に今月の売上を記入していく。
案外、ティファナさん自身はアリスのことが気になっていないらしい。
神黒たちは店内に置いてある武器や防具を見ながら店内を彷徨く。
なぜ俺らが今、武器屋にいるのかというと······。
「神黒さんやっと来ましたか!これまでどこにいたんすか!?」
「スマンスマン、ちょっと用事を思い出して···」
「まぁ、良いです。早く宿屋を探しましょう!もう夕刻の鐘も鳴っていますし、早く取らないと泊まる場所が無くなっちゃいますから」
明は神黒たちを連れ、城近くの少し高めの宿屋を探す。城近くの街道は夕日が沈んでも街灯の光が街中を照らし、露店やお店が賑わっている。
賑やかな街は神黒に前世の街並みを思い出させる。過去の景色を思い出し、前世に戻りたいと改めて神黒に思わせた。
「夜っていうのに街は賑わっているね!」
「私達の村からは想像出来ないほどに明るいし、賑わっているわね!」
見たことのない景色に楓と桜は心を震わせる。
明は何かを見つけたのか降ろしていた手を見つけた方向に指差した。
「あっ!あそこにあるのって宿屋じゃないですか!!」
明の見つけた宿屋に入ることにした一行は早歩きで店の方向へ向かった。
━━━ガチャ!!
扉を開くと中は隅々まで綺麗にされたエントランスが入室者を迎える。目の前には加工された木材で作られたカウンターに専属の受付係と宿屋の主人らしき人が出迎えていた。
「いらっしゃいませ、藤の蕾亭へ」
「今から1週間ほど宿泊したいんだが出来るか?」
「急ではありますが今は空きがたくさん有りますので可能ですよ!」
「それは良かった。それなら2室ほど借りたい」
「分かりました。こちらが部屋の鍵となります。良い夜をお過ごしくださいませ!」
神黒たちは受付係の人から鍵を貰い、2階にある部屋へと向かう。
その時だった、カウンターの方から宿屋の主人が俺らを追いかけてきた。
「君たち、もしかして侍かな?」
神黒はそうと応答すると主人は困り果てた表情を浮かべながら、突然語り始める。
「お前さんたち侍なら、少し頼みを聞いてくれないかい?」
「どうしたんですか?」
明は困っている人を見捨てることが出来ず、話しかけた。
「昨日届くはずじゃった高級肉が届いて来てなくて困っているんじゃ。この高級肉はシドールから北東に位置するペトム村でしか採れない肉なんじゃ。明後日には貴族方のお食事会が控えておるのに······。金なら払う!宿賃も食事代も要らんからこの頼み受けてくれんか?」
神黒たちは悩んだ。この後控えるデスビースト退治のためにさらに強くならないといけないというのに、ここで肉を運ぶ依頼を受けている場合なのかと思ったからだ。
金も払われ、ここの宿賃と食事代を無料にするとも言われている。悩ましく神黒は判断をしかねていると、隣にいた明が明るいまなざしで答えた。
「この頼み受けましょうよ神黒さん!勇者は皆を救うために存在するんですから!!」
明は自身が勇者になれた喜びからか、勇者にどっぷり入り込んでいるらしい。だが、反対する者もいなかったため、今回の宿屋の主人からの頼みを受けることにした。
そのため、今はこうして必要な物や情報収集をしているというわけだ。
「ティファナさん、癒しの薬と俊足ポーションを6個ずつ頼む。後、無限に持ち物を入れられるバッグみたいなものってあります?」
神黒の質問に本当に必要なのかと疑っていることが容易に分かるほどティファナさんの表情は分かりやすく写していた。
「あなたにそんなもの必要なのか?昨日来たときに亜空間から刀を出していたじゃない」
「あれは少々入れられる容量が小さくて······」
「そういうことね。でも、そんなもの家には無いし、そもそも普通は無いんだからね······」
「分かりました。じゃあこの2つを」
「まいどあり!」
神黒たちは旅支度を終わらせ、シドールから北東に位置するペトム村へ馬車で向かうのであった。




