第112話 勇者、王国に行く。
「お客さん、着いたよ······」
意識の隅から微かに聞こえる馴染みのある低い声が寝ている神黒をうっすらと覚ませる。
他の転移者たちや楓、桜も俺と同時に起きたようで他の行商人や乗っていた者たちが消えていたことに気付いていない。
「ようやく起きた···。みなさん、シドールに着きましたよ」
長旅に疲れた馬を休めながら俺らに話しかけた馬車の御者は迷惑そうに俺らを見た。
「ごめんなさい!みんな早く退くぞ」
急いで馬車から降り、頭を下げながら御者を見送った。
「シドールに着いたな···」
王国の城下町は四方にある大きな壁に囲まれており、中心地にはシドール王国王様ジーニクス・ハイドレンジアが住む立派な城が建っている。
城を囲うように貴族の邸が建てられている。その周りには行商人などの露店や店舗が並んでいる。
「神黒さん!まだ、王様と会う時間まで少し時間があるので露店に寄りましょうよ!」
明は物珍しい物ばかり陳列されている露店街を見て、寄りたそうに俺に語りかけてきた。
「まぁ、時間もあるし寄るか···。じゃあ楓と桜行くか!」
当然のように俺と楓と桜で向かおうとすると明が呼び止める。
「僕も連れてってくださいよ!」
······?
「なぜ明を連れていく必要が···?そもそも明は叶や一と共に露店に行くんだろ。俺達は1度武器と防具の売っている店を見に行くから、時間が勿体無いだろ?」
明は頭を抱えながら言葉を言い直す。
「神黒さん!僕は貴方の行く場所であれば何処にでも着いていきます。いや、着いていきたいんだ!だから、僕も着いていきます!!」
······キショ!!何だこの好意を持ってる相手に言いそうな言葉を恥ずかしいとも思わずに言うなんて、どうかしているなこいつは···。
「別に良いが叶と一は何する?」
「私達も武器を新調したいから着いていくわ」
結局、皆で武器屋に入ることになった。
「いらっしゃい!···見たことない顔ぶれだな。外から来たものかい?」
「あぁ、シドールに少し用事があって今着いたばかりなんだ···。何か良い武器・防具は無いか?」
武器屋の親方はレジ前から出て、俺らのいる下へ近づく。
「ん~、あんたは刀をメインにした身軽な装備がご所望か···」
······一見見ただけで俺の戦闘スタイルが分かるのか?自分で言うのも何だが刀も防具も今は着けていないぞ。
「なぜ分かるんだ?」
神黒は疑問に思い、率直に武器屋の親方に質問する。
「その腕の擦り具合や体全体の体型の細さ、何より腰に刀の跡があるしな···」
神黒は昨日まで身に付けていた腰の箇所をじっくり見る。確かに少し跡が付いていた。
「親方の名前は何て言うんだ?」
「俺の名はガルシュ・リーグ。ある名鍛冶師の弟子だ!」




