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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第九十七話 14層での狩り

九時まで近くの岩に座っていると、花園が話しかけてくる。


「ワン様、少しご質問してもよろしいでしょうか?」

「ん、何だ?」

「ありがとうございます!今回の勝負にあたって何か作戦とかあるのでしょうか?」

「ない。むしろそっちはなんか作戦があるのか?」

「うふふ、秘密です」

「ふーん」


ひたすら走り回って敵を見つけ次第殺して魔石とって次に行くだけだ。


それが最善だと思っているし、それ以外に作戦なんて考えつかない。


「そういえば誘導の肉?とか何とかの音玉って言うアイテムがあるらしいんだけど、知ってるか?」

「誘導の腐肉と反響の音玉ですね。もちろん存じ上げております」

「どう違うんだ?」

「反響の音玉は物凄い大きな音で周囲から魔物を集めますが、効果は一度きりです。それに比べて、誘導の腐肉は持続的な効果がありまして、使うと数時間、匂いを嗅ぎつけた魔物が襲いかかり続けてきます」


なるほど。いわゆるアイテムとしてのグレードで言えば、誘導の腐肉は反響の音玉の上位互換ということか。


「へー。お前らは使うつもりはあるのか?」

「ふふふ、どちらも使用には制限があり申請が必要です。私達は当然しておりませんからご安心ください」

「そうか」


やはり、如月が言う通り使用には申請が必要なようだ。


「はい。学園ではパワレベ目的で使われる事がたまに御座いますが、ここは公共の迷宮。貸切では御座いませんから、使えば相応の罰が下ります」

「そうか」

「はい。その様な外法は使いませんからご安心ください」

「いや、別に不安に思っているわけではないが」

「ふふふ」


何が楽しいのか、花園は笑っている。

俺としてはぶっちゃけどっちでもいい。


仮に花園達がそう言ったアイテムを使うなら、こっそり横狩りをするだけだ。万が一の時は魔法を使ってでも勝つ。


「ちーちゃん、そろそろ始まるわよ」

「はい。只今そちらに。ではワン様、また後で」

「ああ」


そう言い残し、花園は自分のパーティーに戻って行った。

それを見ながら俺も立ち上がる。


そして数分後、始まる一分前となる。


「んー!しょっと!」


軽く伸びをして軽く準備運動をする。Sクラスの精鋭達も準備運動を始めている。


俺に作戦という作戦はない。時間と共に飛び出し、敵を見つけ次第殺す。最善を尽くして勝つべくして勝つ。


怠惰なうさぎは勤勉な亀に負けるが、勤勉なうさぎが亀に負けることはない。


準備を終えた俺達は各々のルートに集まる。


開始十秒前。


ヘビーメタルソードを持ち直し、走る準備をした俺の後ろから魔法を唱える声がする。


チラリとそちらを見ると、花園が何かしらの魔法を唱えていた。


そういえばかなり前に花園は集団戦で一年最強とか言われていたのを思い出した。


なるほど。花園は味方へのバフ、敵へのデバフを扱うバッファーなのか。


開始三秒前。

山崎が俺らの背後から声を張り上げる。


「では、時間になった!試験開始!」


その声と同時にそれぞれが飛び出して行った。




ーー。

開始から三十分、順調な狩りをしていた。


森の中を疾走し続け、ゴブリンナイトがこちらに気付く前に近づき、首を落としていく。


ゴブリンナイトに槍を投げさせる暇さえ与えず、攻撃体制に入ろうとした時には既に死んでいる状態だ。


ゴブリンナイトも四回エンカウントし、上のゴブリンナイトも、乗り物のブラックウルフもちゃんと皆殺しにした為、俺の討伐数は二十体となっている。


魔石を回収した俺は、森の中を走りながら、他の2パーティーの討伐数を確認する。


Aパーティー:14体

Bパーティー:10体


他の2パーティーは、恐らくゴブリンナイトとのエンカウント回数は三回といった所だろう。


富士迷宮の14層は、ゴブリンナイトの連携と厄介さから不人気狩場となっている。


二日目もそうだが、走り回っていても全然人と会わないし、戦闘の音も聞こえてこない。


つまり、魔物も多いという事だ。


そんな事を考えていると、すぐに木々の先に反射する光が見えた。


ゴブリンナイトが着ている甲冑による光の反射だ。


即座に方向転換し、光が見える方向にに突撃を敢行する。


木々の間をゆっくりと歩いていたゴブリンナイトだったが、下のブラックウルフがこちらに気付き、唸り声を上げる。


それを見たゴブリンナイトがブラックウルフが唸った方向を見て槍を構える。

そして俺の姿を確認したゴブリンナイトがブラックウルフに突撃の指示を出す。


しかし、突撃を開始する前に俺がゴブリンナイトに肉薄し、その首を落としていく。


二体目のゴブリンナイトが俺から距離を取ろうと飛び上がるが、飛び上がった方向に俺も飛び上がり、空中でゴブリンナイトを斬り殺す。


これで二十四体。


息を吐く間も無く、魔石を拾い、即座に駆け出して淡々と次のゴブリンナイトを探しにいく。




ーー。

「ファイアーショット」


三体のゴブリンナイトとエンカウトした花園達は突撃してくるゴブリンナイトに対して魔法を打ち込む。


作戦通り、火焔姫の異名を持つ北條院がファイアーショットを放ち、足を止めさせる。


「おらぁぁぁぁあああーーー!」


そこに金剛が(とき)の声をあげながら突撃をする。


金剛は剣王スキルと花園のバフの効果により、ステータスを上昇させており、その脚の速度は、13レベでありながらこの階層の安全マージンを大きく上回っていた。


「おらっ!」


剣王スキルにより強化された斬り落としは、ゴブリンナイトの槍と防具を下のブラックウルフごと真っ二つにする。


返す刃で二体目のブラックウルフを斬り殺そうとするが、目の前で真っ二つにされた仲間を見て反応し、飛び上がってそれを避ける。


だが、着地の瞬間、何故かブラックウルフが脚をもつれさせて転び、ゴブリンナイトがブラックウルフから振り下ろされてしまう。


そしてその隙に近づいた六条が、地面に転がったゴブリンナイトを冷徹に殺していく。


さらに、転がっているブラックウルフには禿頭の男子生徒、武蔵が近づきタワーシールドで抑え込みながら、右手のバスタードソードで首を落とす。


最後の一体となったゴブリンナイトには、北條院がファイアーショットで上のゴブリンナイトを吹き飛ばし、金剛がそのどちらも斬り殺す。


「これで14体だ、おら!さっさと次行くぞ!」

「魔石を拾ってからに決まってるでしょ、馬鹿」


北条院達がそう言って魔石を拾い始める。


「だからちんたら魔石拾ってたらあいつに負けんだろーが」

「魔石を拾うのは探索者の義務よ。これで社会回してるんだから。それに魔石拾わなかったら経費の分だけ赤字になるのよ?」

「今日くらいどーでもいいだろうが!勝負の最中だぞ!ふざけてんのか?」

「ふざけてないわよ。ていうかあんたも怒鳴ってないで魔石拾いなさいよ、ったく」


先を急ぎたい金剛を宥めながら北條院達は魔石を拾う。


その横では花園が魔石を拾いながら端末を確認する。


たった今、小鳥遊が四回目のウルフライダーへのエンカウントし、殲滅した所だった。


「20体……」


花園は頬をほんのりと赤め、艶を帯びた声でそう呟く。


早過ぎる。


僅か三十分で四パーティー、二十体ものゴブリンライダーを狩るなんてあり得ない。


しかも、小鳥遊は一人でこれだけのことを行なっているという。そんな事があり得るのだろうか。


「素晴らしい。これが(オンリーワン)の力なのですね」

(そんな素晴らしい方と同じ学園、同じ学年で過ごせるなんて、私は何て幸せなんでしょう)


勝負に負けていることなど意に介さず、花園は瞳を潤ませ、神に感謝する。


その背後では同じく端末を確認した金剛が怒鳴り声を上げる。


「はぁ?20体!?ふざけんな!あり得ねぇだろ!」


金剛の怒鳴り声を聞き、Aパーティーは端末を確認し、それぞれの反応を示す。


「本当だ……いくら何でも早過ぎるわね」

「へー、口だけのやつじゃねぇって事か」

「ふん」

「……」


その反応を見た金剛は先を急ぐために、パーティーメンバー達を急かす。


「ほら次行くぞ!俺らも負けてらんねぇ!」

「命令しないで」

「金剛ちゃんは精が出てんなぁ」

「最善を尽くす。それだけだ」

「……同意」

「ふふふ。ますますワン様を知りたくなりましたわ」


花園の笑みと共に、再度ゴブリンライダーを探して探索を開始する。


それから三十分近くの間、彼等は順調に探索を続けていた。


そんな時だった。


「キャー!タスケテー!」


そんな叫び声が聞こえてきた。


「あ?」

「え?何?」

「女の叫び声で助けてーって聞こえたな」

「うむ」


Aパーティーである金剛達は駆け足で行っている探索の足を止め、音がした方を見る。


「ダレカー!タスケテー!」

「あっちです!助けを求めてます!」

「あ?おい!」


再度聞こえてきた声に花園が反応して走り出す。


「あっ、ちーちゃん!ったくもう!」

「行くぞ!」

「しゃーねぇ」


走り出した花園を追って北條院を追って武蔵や六条達が走り出す。


しかし金剛だけは嫌な顔をして立ち止まる。


「……くそっ!人助けなんてしてる場合じゃねぇってのに!」


人を助ければ、その後の安全を担保する義務がある。怪我をすれば手当をしてワープゲートまで運ばなければならなくなる。


そうなれば勝負は敗北が決定する。


しかし、一人で行動することもできない。


花園のバフなしでの一人で探索することは不可能だ。


「くそっ!」


そう吐き捨て、金剛も結局走り出す。


そして、その先で見たのは……。


「ダレカタスケテー、ダレカー!コイツヲコロスゾー!ダレカー!」


獅子の体、蠍の尾、そして人間の顔をした魔物だった。


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