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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第九十六話 14層へ

「チッ!相変わらず不快な野郎だぜ!」


小鳥遊が去った後の部屋で、金剛が吐き捨てるように呟く。


「同感だな。傲慢すぎて空いた口が塞がらなかったぞ。まるで三ヶ月前の誰かさんを見ているようだ」

「あぁ!?」


佐久間の言葉に金剛が唸り声のような声をあげて怒る。

その横では花園が頬を赤くして熱いため息を吐いている。


「ワン様、相変わらず素敵……」

「ちーちゃん戻ってきなさい。それにどうでもいいけど、あたしにはあいつの態度は事実を淡々と述べているようにしか見えなかったけどね」

「それが傲慢だって事だろうが」

「あんたみたいに人を見下して悦に浸っているようには見えなかったって言ってるの」

「あぁ?やんのかこら?」

「っるさいわねー、一々突っかかってこないで」


北條院は自分を睨みつける金剛を、まるで虫を払うように手で払う。その後ろから、今度は別の男子生徒が口を挟む。


「まあまあ。金剛もそんなに怒るなって。ちな、俺もママに賛成」

「おい、ママって言うな」

「へへへ、それにしてもありゃ見下してるって感じじゃねぇな。他人に興味がないって面してる。恐らく本人にとって上も下もねぇ。ただ淡々と思ったことを言う無感情な機械みたいな男だ」

「そうね。私もそう思うわ」


口を挟んだ男子生徒、六条は面白そうなものを見る顔をし、逆に北條院は不気味なものを見るような顔で小鳥遊が出て行った扉を見る。


その様子を見た花園がくすりと笑う。


「ふふふ」

「何、どうしたのよ、ちーちゃん」

「ふふふ、皆様がワン様に注目して、ワン様の考察をしてらっしゃるのが嬉しくて、つい……ふふふ」

「ちーちゃん、あんたのワン好きは流石に度が過ぎるわよ」


花園が笑っている理由を聞いた北條院は、呆れたようにため息を吐く。

会話が停滞したその場に苛立ちを覚えたのか、金剛はポケットに手を突っ込みながら部屋を出て行こうとする。


「くっだんねー。俺は先に帰る。てめぇら、明日は俺の足引っ張んじゃねぇぞ!」


金剛はそれだけ怒鳴り、部屋から出て行ってしまった。


「はぁ、あいつはあいっかわらずの協調性のなさだな……」

「あれでも入院以前よりはだいぶマシだけどね」

「ははは、ワンにボコられて丸くなったみたいだな」


そう言って六条が笑う。

以前の金剛はろくに迷宮に潜らず、下位のクラスの生徒達に威張り散らして悦に浸っているだけだった。


しかし、休学と休養を終えて戻って来てからは、金剛は真面目に迷宮に潜り、レベル上げに勤しんでいた。


態度こそ乱暴ではあるが、ところ構わず暴力を振るっていた以前よりはマシになったのだろう。


「それで……どうする?正直言うが俺はワンってやつとはあんま関わりたくねぇな。なんかあった時見捨てられそうだ」

「六条さん、ワン様がいざという時に人を見捨てるなんてありえませんわ。ワン様は自分の秘密よりも人の命を優先してくださる方。星空さんが配信で仰ってましたから」


星空はシーサーペント討伐後の配信で、小鳥遊が自分の秘密が露見する事よりも、即決で上級生の命を優先した事を話していた。


花園は小鳥遊の情報欲しさに星空の配信は全てチェックしているため、その話も知っていた。


「へー、顔と態度に似合わず情に熱い男ってことか。そんな風には見えなかったけどなぁ」

「ワン様は一見冷たいように思えて相手のことを気遣って下さる方ですよ。私もいくつもの為になるアドバイスを戴きました」

「アドバイス……?ああ……」


アドバイスと聞き、数ヶ月前のことを思い出した六条は疑念を深めていく。

小鳥遊がした迷宮探索とは関係のないアドバイスを、花園が実行に移そうとしたのを止めた時のことを思い出したのだ。


「はぁ。まあ今はあいつのこと考えても仕方ないでしょ。それで、明日はどうすんの?あいつと組みたくないなら手を抜く?」


そう提案した北條院の言葉に、声に少し怒気を含ませながら禿頭の巨漢の男子生徒が言う。


「ふざけるな。迷宮探索で手を抜くなどありえん。俺は全力で挑むし、俺とパーティーを組む人間には全力で挑んでもらう」

「相変わらず旦那は硬いね」


六条が肩をやれやれとすくめる。

花園はそれを笑顔で見ながら自分の意思を伝える。


「もちろん私も全力で挑ませていただきます。それでもワン様には遠く及ばないでしょうが、胸を借りるつもりで勝負させていただきます」

「同意」

「うむ、その意気だ」


花園の言葉に旦那と呼ばれた男子生徒と忍者のような少女が頷く。その様子を見て、北條院もため息を吐きながらも覚悟を決めたようだ。


「まああんた達が本気でやるって言うなら私も付き合うけどさー。安全最優先だからね?」

「分かってるって!ママは心配しすぎ!」

「ママって言うな」

「はははは」


六条は睨む北條院から笑いながら離れる。


「まっ、気楽にやろうや。手抜かりなく堅実にやって、自惚れてるワンってやつの鼻っ柱折ってやろうぜ」




ーー。

「ふわぁぁーーー」


俺は起き上がり一番に大きな欠伸をする。

そして、軽く準備をして、朝食を食べに食堂に行く。


「ワン君おはよう!」

「小鳥遊、おはよう」

「ああ、おはよう」


朝一番に二人が挨拶をしてくる。星空は朝から元気だ。


軽く挨拶をして、俺が席に着くと横に如月が座る。これは演習初日からの定位置で、何を喋るでもなく俺の横でご飯を食べている。


しかし、今日は星空がもう片方の空いている席に座っていた。


「今日はこっちで食うなんて珍しいな」

「うん。昨日結局どうなったのか聞きたくて!」

「昨日の俺の課題のことか?」

「うん!」

「私も気になるわね。どうなったの?」


星空が元気に答え、反対側の如月も身を乗り出してくる。

二人が気になるらしいので、俺はご飯を食べながら昨日起こったことを説明する。


「えー!何でー!?」

「ちょ、恵、声が大きいわよ!」

「あっ、ご、ごめんごめん」


勝負することになった、と言ったあたりで星空が叫び出した。それを如月が慌てて諌めている。


「で、でもワン君、それ受けたの?」

「ああ。負ける要素がないからな。勝って今日の午後と明日以降も観光の続きだ」

「あんた……相手ってSクラスの最強パーティーよね?勝てるの?」

「むしろ手を抜く以外で俺が負ける要素ってあるか?」

「……ない、と思うけど」

「んー、まあないとは思うけど、アイテムとか使われたらまあワンチャン……いやないかなー流石に」


星空は何か心当たりがあるようだ。


「アイテム?」

「うん。誘導の腐肉とか反響の音玉とか、周りの魔物を引き寄せるアイテムがあるんだよねー」

「ほぉ?」


そんなアイテムがあると言うのは初めて知った。


確かに、それで魔物を引き寄せるのであれば一集団づつ探して倒さなければいけない俺よりも早く魔物を狩れる可能性があるだろう。


「それってどうやったら手に入る?」


向こうがそれを使う可能性があるのならば、俺も手に入れておきたい。

そう思って二人に聞くが、それを如月が否定する。


「簡単に手入れられるわけでないでしょ。麻薬や銃と同じ、無断で持ってるだけで捕まるわよ。使うだけでも色々国に申請してからじゃないといけないんだから。それに、Sクラスと言っても14層の魔物の絶え間ない襲撃を耐えられるわけないじゃない」

「だよねー。ワン君ならともかくねー。流石にないよねー」


どうやら使用すると法律違反で厳しく罰せられる代物らしい。それなら大丈夫か。




ーー。

朝食を食べ終え、準備をして富士迷宮前まで歩いて行く。


時間ちょうどに富士迷宮前に着いたのだが、既にSクラスの生徒十二名全員が待っていた。


「てめぇ、Fクラスのくせに俺らを待たせんじゃねぇよ」

「時間ぴったりのはずだが?お前らこそ何でこんなに早く来てるんだ?」

「集合十分前到着は当たり前だろうが!」

「は?じゃあ何のための集合時間なんだ?」

「あぁ?」


金剛が顔を歪めておかしな顔をしている。

相変わらずおかしな奴だな。


「ワン様、おはようございます!」

「ああおはよう」


金剛の後ろから花園が挨拶をしてくる。


「本日の勝負、全力で挑ませていただきますね。どうぞよろしくお願いします」

「ああ、花園も気をつけろよ」

「はい!お気遣いありがとうございます!」


花園は満面の笑顔で感謝の言葉を述べてくる。

星空もそうだけど、君達朝から元気だね。


「全員揃ったな」


今日のメンバー全員が揃ったのを確認した山崎が声を掛けてくる。


「ではこれより14層まで先生が引率する。ではついて来てくれ」




ーー。

14層。二日ぶりに来た山間の森の麓、ワープゲートの前で山崎は止まる。


「では、これよりAパーティー、Bパーティー、小鳥遊の3チームで勝負を始める。Sクラスのパーティーは昨日メールで送った通りだ。今日はそのパーティーで探索してもらう」


俺は一人。金剛は花園や北條院と同じパーティーメンバーの様だ。


花園もそうだが、全員がそれぞれのスキルに合わせ様々な装備をしている。アクセサリーや武器も淡く光っているものが多く、恐らく何かしらの魔法のエンチャントが掛かっているのだろう。


ただ硬いだけの武器と学園の指定のジャージを着用しているのは俺だけだ。


まだ半年しか使っていないし、特に破れてもいないから使い続けている。


予備がなく、一回探索したら洗わないといけないからちょっと面倒くさいのだ。タンスの肥やしにするくらいならくれないだろうか。


そんな事を考えていると、教員から腕時計の様なものを渡される。


「これは……?」

「最近開発された迷宮探索者用スマートウォッチだ。自動で倒した魔物を集計してくれる機能がある。昨日は魔石と言ったが、こちらが人数分間に合ったので、急遽、倒した魔物の数に変更させてもらう。問題ないな?」

「はい」


花園達が返事をして、俺も頷く。

尚更俺にとって有利な課題になっただけだ。まあ勿体無いから魔石はちゃんと回収するから関係ないけど。


「他のチームの倒した魔物の数も表示されるから参考にしてくれ。以上だ。では九時になり次第、自由に探索を開始してくれ。解散!」

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