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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第九十五話 拒否

「……お前もか。一応理由を聞こう」


拒否した俺を見て、山崎がため息を吐く。


「彼らが俺とパーティーを組む理由は分かりましたが、俺が彼らとパーティーを組む理由はないでしょ」

「小鳥遊、お前が彼らとパーティーを組むメリットは、お前にパーティーでの戦闘経験を積ませることにある」


呆れたようにそう言う山崎の言葉を聞いて、俺は首を横に振る。


「必要ないです。俺は一人の方が強いし、気持ち的にも楽です。パーティーの戦闘経験が必要ならFクラスの元々のパーティーでも十分経験が積めます」

「Fクラスの生徒達と彼らではレベルもスキルも違う。高レベル、恵まれたスキルを持った者達との連携の経験は小鳥遊の今後の探索の糧になる」


どうやら山崎は俺に高ランクのスキルを持つ生徒との経験を積ませたい様だ。

だが、俺ほどではないにしろ如月も文月も高レベルだ。おそらくは彼等にも引けを取らないだろう。まあ、彼女達は俺とパワレベをしてからは学園側にステータスを報告していないけど。


そんな彼女達と迷宮に行っても俺には学ぶ事なんてなかった。Sクラスの彼等と探索をした所で変わるとは思えない。


「不要です。彼らも、Fクラスの生徒も、俺にとって何も変わらない。恵まれたスキル?Fクラスの生徒のスキルは恵まれないスキルということですか?俺はシーサーペントを倒す際、Fクラスである如月の大型兵器運用適正によるバリスタのおかげで倒すことが出来ました」


若干盛ってはいるが、如月のおかげでシーサーペントの気を逸らせたのは事実だ。


Sクラスの生徒を見ながら続きを言う。


「ここにいる誰があそこにいても彼女の代わりは出来なかったと思いますよ」

「それはかなり特殊な状況だ。今は普段の迷宮探索について話している」

「そのかなり特殊な状況でもなければ、俺が他人に助けを求めることなんてないです。普段の探索であれば、SクラスであろうとFクラスであろうと足手まといであることは変わらないですから」

「そ……」

「てめぇ、自惚れるのもいい加減にしろよ!?」


そう叫んで金剛が俺の胸ぐらを掴んでくる。


「自惚れ?何のことだ?俺は事実しか言っていないが……。それよりも離せ、服が伸びる」

「自覚ねぇのかこの野郎……。俺らが足手まとい?ざけんじゃねぇぞ!」

「ふさげてないぞ。お前らは足手まといだ。狩りをするなら一人の方が効率がいいし、何かあった時は俺がお前らを守らないといけなくなる。今、山崎先生が言ったようにな。そんなことより手を離せ、服が伸びる」


普段の狩りであれば、一人の方がドロップアイテム的にも経験値的にも効率が圧倒的にいい。

あと服離せって。服が伸びるだろ。


「守るだあぁ!?ふざけんじゃねぇ!こちとらてめぇに守られるほど落ちぶれてねぇんだよ!」

「落ちぶれる?人に助けられると落ちぶれるのか?困ったのなら助けを求めるのは別に悪いことじゃないだろ」

「あぁ?テメェは何言ってんだ?」

「お前こそ何言ってるんだ。俺に助けられたらお前は落ちぶれるのか?何で?自分を助けてくれる人間の素性なんて別にどうでもいいだろ。あと手を離せ、服が伸びる」

「……この野郎、相変わらず話の通じない奴だな、テメェはよぉ」


金剛の話が通じない、と言う言葉には俺も同意だ。金剛の言っていることは相変わらずわからない。


俺が命に危機に瀕していたら、助けてくれる人間が極悪非道のクズであろうと感謝の言葉を言うし、それで自分が落ちぶれたなんて思わない。


もちろんそいつのやった罪が軽くなるわけでは全然ないが、それはそれ、これはこれだろ。


そんなことよりも服が伸びるって。


金剛の腕を掴み、握りしめる。


「三回も言ったぞ。いい加減手を離せ」

「ぐっ……」


金剛は俺に腕を掴まれても何故か手を離さない。しかし、さらに力をこめ、金剛の腕がミシミシと音を立て始めると、顔を歪めて指がゆっくりと開いていく。


服に指が引っかかるだけになったタイミングで、腕を離させる。


「ぐっ……くそ……」


金剛は俺に掴まれた痕が残っている腕を抑えながら何故か悔しがっている。


後ろの生徒達も驚いた表情でその様子を見ている。


「金剛が力負けした……?」

「本当に1レベか?いや、ありえない」

「なら何だ?物理攻撃力を上げるスキルか、それとも貫通系のスキルか?」

「流石はワン様です!」


生徒達は俺の力の考察を始めた。

約一名、何故か興奮して頬を赤くしているが。


山崎が頭痛でもしたかのように頭を抱えながら、話を遮る。


「はぁ、お前らなぁ。いい加減にしてくれ……。小鳥遊、お前の言い分は分かった。それなら……そうだな、彼らと勝負しろ」

「……勝負?」

「そうだ。明日の午前中、9時から12時までの間、14層で狩りをして魔石を多く取ってきたチームの勝ち、と言う勝負だ。どうだ?」


なるほど。有言実行。論より証拠。

言葉じゃなくて実力は現場で示せって事か。


山崎の説明を聞いて、俺は考え込む。


とりあえず、まずは疑問点が幾多か出てきたので解消させてもらおう。


「六対一ですか?まさか十二対一なんて言わないですよね?」

「当然六対一だ。別パーティー間の魔石の受け渡しも禁止とさせてもらう」

「では、班をさらに分けるのは?」


つまり六人パーティーを分けて二人づつの三パーティーに分けると言うことだ。


「安全上の問題もある。当然禁止だ」

「なるほど。つまり基本的に彼等は六人パーティーでの移動が義務付けられているってことですね?」

「そうだ」

「……彼等に援軍が来ることは?」

「イレギュラーモンスターや救援要請をしない限りはない。もちろんそうなれば失格だが」

「……」


俺のステータスに剣聖スキルを使えば、森の中など平地に等しい。ゴブリンナイトは一撃で殺せることが二日目で証明されてため、足を止める場面などほぼないだろう。


対して彼等は六人パーティーでの移動が義務付けられている。それぞれ足の速さが違うのだから、人が増えれば一番足の遅い人間に合わせてパーティー全体が遅くなるのは道理。


それに、俺のように一撃でゴブリンナイトを切り殺せるのなんて金剛くらいなのではないだろうか。仮に他に何人かいて戦闘が俺と同じ速度で終わったとしても、木々が生い茂り、木の根や草木によって足を取られる森の中を俺と同じように疾走するのは不可能だ。


どう考えても俺が負ける要素がない。


俺はチラリとSクラスの生徒達を見る。


生徒達の反応も違う。


面白そうな顔をしている生徒や、金剛と同じように俺を睨みつけている生徒、呆れた顔をしている生徒や、顔を赤くしている生徒など様々だ。


「構いませんよ。俺が負けたら明後日以降はそちらの指示に従います。その代わり、俺が勝てば、今後も課題はソロで行わせて貰います」

「……いいだろう。では明日の朝八時に富士ダンジョン前に集合する事。以上、これで解散とする」


そう言って山崎が部屋を出て行った。


しかし、生徒達は誰も動こうとせず、俺を見ている。

見ても何もならないと思うが。


そう思い、俺は部屋を出ようとすると、背後から声をかけられる。


「ワン様!」

「花園か。何だ?」

「急ではございましたが、明日の勝負、相手がワン様といえど手を抜く事なく全力で挑ませていただきますね!」


両手をぐっと握りしめ熱い視線を向けてくる花園に、俺は冷めた目で言い放つ。


「いや、花園達は普段通り安全に狩りをすればいいと思うぞ。どうせ俺には勝てないから」


それだけ言って今度こそ俺は部屋を出て行った。

背後から舌打ちの様な音が聞こえたが気のせいだろう。


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