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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第八十六話 特別課題

新幹線で富士駅に到着した俺達一行は、更に電車に乗り、今日泊まる旅館まで移動する。


そして、旅館に到着した俺達Fクラスは、旅館でも景色も日当たりも悪い最低クラスの部屋を割り振られていた。


「何だよー、部屋の窓から富士山見れねぇじゃん!」

「マジかよー!いいよなー、Sクラスは。この旅館で一等地の部屋が割り当てられて」

「なー、しかも飯は自腹だしありえないよなー」


坂田が普段のパーティーメンバーである橋下や宮本達と部屋を見て文句を垂れている。

旅館で出る食事は、朝は全クラス共通で大広間で食べるのだが、昼と夜は各自で自由となっている。


Sクラスが特等室なのは、Fクラスよりも下の階層で、Fクラスよりも多くの魔石やアイテムを稼いでいるからだ。


「なぁ、翔もそう思うよな?」

「……まあ、多少残念には思ったな」

「だよなー」


部屋を見て少しがっかりしたのは事実だ。

事前に部屋のグレードの話は聞いていたとはいえ、直接見ると複雑な気分になるな。


しかし文句を言っても仕方がない。この旅行のメインは観光だからな。


この部屋だってお金を出して客を泊める部屋だ。決して汚れているとか、昼なのに暗いとかはない。風景も、仏間を開けてすぐが林で、あまり良くはないが、まあただ寝る所と考えればそう悪くもない。


そんなことを思っていると、部屋のドアがノックされる。


「ん、誰だ?」


部屋に着いたばかりだというのに早速誰かにノックされたことに疑問を持ちながら、坂田がドアを開ける。


「あれ、五十嵐先生?」

「坂田か。小鳥遊はいるか?」

「翔?いますけど」


そう言って坂田が扉の前からずれて俺と五十嵐の目が合う。


「小鳥遊、まだ荷物は開けてないな?それ持って先生についてきなさい」

「はい?はぁ」


突然の五十嵐の言葉に驚きながら、俺は素直に荷物を背負ってスーツケースを持つ。


「え、ちょっと先生!翔は俺達と一緒の部屋じゃないんですか?」

「ああ、小鳥遊は別の部屋だ」

「な、何でですか?」

「理由は……まあ後ですぐわかる。お前達も荷物置いて一息ついたら旅館の集会場へすぐ集まれよ。今日の迷宮課題の発表があるから」

「え……」


そう言って部屋を出て行った五十嵐について、俺も荷物を持って部屋を出る。


何も言わずにどんどん先をいく五十嵐に、俺も黙って着いていく。


そして案内されたのはこの旅館で一番上質な部屋であった。


「小鳥遊の部屋はここだ」

「……」


案内された部屋を見まわした俺は怪訝な顔をする。

大きく開いた襖の先には、先程の部屋とは比べ物にならないほど優美で美しい景色が広がっていた。


中でも目の前で大きく主張する白く透き通るような富士山もまた美しい。


部屋も一人部屋にしては大きく、本来なら4〜5名で泊まるような部屋のはずだ。


「広いですね。同室は誰ですか?」

「いや、この部屋は小鳥遊一人で使っていい」

「は?」


五十嵐の言葉に俺は呆気にとられたような顔をする。

この部屋はどこからどう見ても特上の和室だ。最底辺の部屋を見たからよくわかる。部屋の広さ、景色、立地、その全てにおいてこの旅館が用意する最高のものだった。


それを俺だけの為に用意するとは一体何事か。


「こんないい部屋を?」

「そうだ」

「何故?」


当然の疑問である。

俺がそう聞くと、五十嵐は困ったような顔をしながら頭をかき一枚の紙を取り出す。


「あー、まあ後でどうせわかることだから先に小鳥遊にはこれを渡しておく」


そう言って取り出した紙を俺に渡した。俺はその紙を受け取り、書かれた文章を読みながら聞く。


「これは?」

「小鳥遊、今回の演習、お前には単独行動をしてもらう」

「何ですって?」


その言葉に驚きながら、紙に書かれた文字を読む。


・一日目に必要なドロップアイテム

ヘイズルーンの魔石20個。ヘイズルーンの血液袋3袋。

・二日目に必要なドロップアイテム

オールドウッドの魔石30個。プラントマンの魔石15個。オールドウッドの枝6個。

・三日目に必要なドロップアイテム

ブラックウルフの魔石20個。ゴブリンナイトの魔石30個。


後半については後日通達。


「……」


どれも知らない魔物だ。今回の課外実習を行うにあたり、俺はこの富士ダンジョンの五層まで出る魔物については事前に調べておいた。


しかし、一日目のヘイズルーンですら知らない。

俺はスマホを取り出し、検索する。


調べてみると、ヘイズルーンは6層の魔物、三日目のゴブリンナイトに至っては14層の魔物であることが分かった。


「どういう事ですか?自分は1レベの雑魚ステータスですよ。こんな下層なんて行けるわけがない」

「シーサーペントをたった三人で倒しておいて今更そんな言い訳が通用するわけないだろ」

「しかし、この学園はステータス史上主義のはずですが」

「それは今まで小鳥遊のような例外が存在しなかったからだ。迷宮はプロボクサーであろうと元自衛隊であろうと、ほぼ全ての人間は多少の違いはあれど、ステータスとスキルが物を言う世界だった。だがお前は違う」

「……」

「学園長は、お前はステータスを何らかの手段で誤魔化せるものだと仰っていた。私もそう思っている」


五十嵐が俺の方を向き、しっかりと俺の目を見ながら言った。俺はその目を睨みつけながら言い返す。


「これで俺に何かあれば問題になるのは学園の方ですよ。ただでさえ昨今の迷宮情勢はあまり良くないもののはずですが?」

「確かに小鳥遊に何かあれば、かなり問題になるだろう。だが、そうはならない」


俺が今の世論事情を出して脅すと、五十嵐は自信たっぷりに否定する。

意味が分からない。


「何故そう思うのです?」

「今ゴブリンナイトが14層に出る魔物だと調べたのにも関わらず、お前の目には恐怖のカケラもない」

「……」

「小鳥遊、お前に課される14層の課題は、一年Sクラスの最強パーティーが五日目に課される課題だ。だが、それを三日目に課されてるのにも関わらず問題ないって顔をしている」

「問題ないって顔?そんな顔してませんよ。自分のこの絶望した表情が先生には分からないですかね?」

「今まで私が担当してきた面倒くさいことを任された生徒達と同じ顔をしているな」

「……」


俺はすごい嫌な顔をして、五十嵐を睨む。


「ま、そういうことだ。それじゃあ荷物置いたらすぐに集会場に来るように。では」


そう言って五十嵐は部屋を出て行った。


一人、部屋に残された俺は敷かれた布団にボフンと倒れ込み、再度渡された課題が書かれた紙を眺め、呟く。


「はぁ、やってらんねぇー」




ーー集会場。


その後すぐに全生徒が集められ、俺以外の全員に課題表が配られる。


俺は如月から本来やるはずだった課題を見せてもらう。


・一日目に必要なドロップアイテム

エントの魔石30個。

・二日目に必要なドロップアイテム

ハイエントの魔石40個。

・三日目に必要なドロップアイテム

ウルフの魔石40個。


それぞれ、二層、四層、五層の魔物だ。

俺は四人パーティーなので、四で割っても、精々十体も倒せば終わるような作業のはずだったのだ。


楽して山梨県の観光が出来ると思ったのに。


どうやらそんなにうまくは行かないようだ。


「あんた、坂田と違う部屋にされたって聞いたけど、どこに行ったの?それにあんただけ課題の紙なかったみたいだけど」

「ああ、俺だけ専用の部屋と専用の課題を用意された。後で言われると思うが俺とは別行動になる」

「はぁ?どう言うことよ。ちゃんと説明しなさいよ」


そう詰め寄ってくる如月に課題の紙を見せる。


それを引ったくるように取った如月は課題を確認し大声を上げる。


「なにこの課題!?無理難題すぎるじゃない!」


如月の声に反応した周りの生徒達が何だ何だとこちらを見始め、文月が近寄ってくる。


「双葉、何騒いでるのよ」

「ちょっと奈々美、これ見て!」

「何よそんなに慌てて……これ……」


如月に俺の課題の紙を渡された文月も課題の紙の内容を確認して絶句してしまう。


全然どうでもいいことだが、魔物の名前見ただけで二人とも課題の階層が分かるんだな。


「あんた、これ、いいの?」

「良いわけないだろ。予定がめちゃくちゃだ。せっかく予定表作ってきたのに大幅に変更しなきゃいけなくなった」


貰った課題がどれくらいの時間で終わるのか分からないが、とても三十分では終わらないだろう。


課題で指定されたアイテムがどれくらいで集まるのか分からない以上、予定も立て辛くなってしまった。


「せっかくの旅行だっていうのにこれじゃあ台無しだ」

「そういうことじゃないわよ!ちょっと来なさい!」

「え?」


何故か怒っている如月に手を引かれて集会場の外に出る。


後ろについて来た文月と共に三人で集会場の外に出た俺に如月が詰め寄って小声で聞いてくる。


「あんた、いいの?多分これ、この前のやつのせいじゃない?」

「ああだろうな。これ、わざとクリアしないっていうのありか?」

「……そうね、何で、とは確実に聞かれるでしょうね」

「実力が足りませんでしたって謝るか。いや、そうなると観光が出来なくなるか」

「そうね。課題終わらせられませんってやつが、街中ぶらぶら歩いてたら問題にはなるわね」


俺の懸念点に如月は同調する。やはりそうか。


「……潰れるのって一日だけだと思うか?」

「それは学園がどれだけ本気かによるわ」

「参考までに言うと、俺に用意された部屋、この旅館で一番いい部屋だった」

「……ガチガチのガチじゃない」


ガチガチのガチ?

まあかなりの本気ということだろう。

それを聞いて何か考えていた文月が会話に入ってくる。


「あんた、13層までは余裕で行けるって配信で出してるんでしょ。ならとりあえずこの課題の三日までは真面目にこなしたら?それからのことはそれから考えればいいんじゃない」

「……そうね。奈々美の言うことも一理あるかも」


文月の意見に如月も同調する。

そうかー、結局そうなるのか。


「四日目以降で無理そうな課題が出そうなら無理ですってサボるのもありだと思うけど、世間に公表されているあんたの力なら、余裕でこなせる課題よ。だから、まだ真面目にこなせばいいんじゃないかしら。多分どれも二時間かからないと思うし」

「二時間かからないくらいか……。とりあえず二時間を目安に夜にまた予定表作り直すか」


二人の意見を聞き、やる事は決まった。


とりあえず、今日は早めに迷宮潜って、何なら明日の分の魔石とかも集め、夜に再度明日以降の予定表を作り直そう。

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