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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第八十三話 リザードマン

掛け声を上げ歩いていく星空達についていくと、すぐに小さな湖を見つける。


「リザードマンは大体ああいう湖に隠れてるらしいよ!」

「へー」


対岸がしっかり見えるほどの小さな湖……というか池の方が感覚的には正しいが、一応湖という事なのだろう。


水面にはさざなみ一つ立っておらず、本当にリザードマンがいるのか分からないが、リザードマンはえら呼吸も可能な為、水中で隠れることも可能だ。


「それじゃあ私はバリスタ用意するから、あー……ワン、君は」

「ワンでいい」

「そ。それじゃあワン、あんたは水面でも叩いてリザードマン誘き出してちょうだい」

「分かった」


如月が呼びにくそうに俺のあだ名を君付けで呼ぶので呼び捨てにさせる。今更お前に君付けされるのは気持ちが悪い。


「じゃあ私は周りを警戒しておくねー!」

「恵、お願いね」

「めぐたん、だよ!」

「……め、めぐたん」

「はーい!」


如月が星空の芸名を恥ずかしそうに顔をほんのり赤くしながら呼んでいる。

それを見た視聴者達が盛り上がる。


『ふーちゃん照れてるw』

『顔赤くしてるふーちゃん可愛い!』

『照れてるふーちゃん可愛い!』

『ふーちゃん可愛すぎ!』

『ふーちゃん可愛い!』


「べ、別に照れてるわけじゃないわよ」


『ツンデレ?』

『ツン……デレ?』

『ツンデレ……』


「ツンデレじゃない!」


湖に近づいて行く俺の後ろで如月がコメント欄と遊んでいる。そんな如月に星空が近づいて行き、AFCを向ける。


「じゃあふーちゃん!みんなにバリスタを紹介してあげて!」

「分かったわ」


星空の言葉に頷くと、如月はAFCに説明をしながらバリスタの準備を始める。

地面に四本の脚を固定させ、弦を最大まで引く。そして固定した後に矢筒から大矢を取り出して、溝にセットする。


それを聞き流しながら俺は湖に近づいて行き、湖面を見る。


水は透明で綺麗だが、湖底に見たことのないワカメの様な緑色の植物が生えている。おそらくはリザードマンの鱗のカモフラージュ的なギミックなのだろう。


見た限りではリザードマンは見当たらないが、本当にここにいるのだろうか。


そう思いながら振り返り、如月達に声を掛ける。


「準備はいいか?」

「いいわよ。いつでもオーケー」


如月がいつでもバリスタを発射できる体制になったのを確認した俺は、ヘビーメタルソードを取り出して、湖面を思いっきり弾く。


バシャンという大きな音と共に湖面の水が弾け、小さな湖全体に大きな波紋を浮かべる。


すると、光を反射しキラキラ光る湖面の奥から、ゆらゆらと黒い影がこちらに近付いてくる。

それも一つや二つではない。


「おお、本当にいたのか」


ワカメの様な植物が切れて水の中をただ漂っているだけではないだろう。固定の植物が切れるほど強くは叩いてないし、影が動く方向が同じで俺の方に寄ってきているのだから。


「来たぞ」


そう言って湖から少し下がる。


するとすぐに湖面が盛り上がり、五匹のリザードマンが顔を出す。


数は多くない為、正直俺一人でも問題ないと思われるが、今回は星空の動画映えの手伝いでもある。


つまり今回のメインは如月のバリスタだ。


俺を追ってくるリザードマンを確認し、如月のバリスタの軌道から避ける様に横に移動する。


すると同時にバシュッという音が聞こえ、風切音と共に俺の目の前を物凄い速さで小さな何かが飛んでいく。


その軌跡を目で追うと、その直線上にいる一体のリザードマンの頭に当たる。


バンっという強烈な破裂音と共にリザードマンの頭がバラバラに弾け飛び、地面に落ちると同時に黒いモヤとなって消えて行く。


『うおおおおおーーーー!』

『すげー!一撃!』

『リザードマン一撃で草』

『リザードマンの頭粉々に吹き飛んでるw』

『オーバーキルすぎワロタ』

『エグすぎて吹いたw』


頭が弾け飛んだリザードマンを見て、視聴者達が盛り上がっている。


残り四体となったリザードマン達は、弾け飛んだ仲間を見て走るのを止めてしまっていた。


しかしここで脚を止めるのは悪手だ。


俺は翻ってリザードマンに走って行き、ヘビーメタルソードを両手で持ってリザードマンを斬り殺して行く。


混乱しているステータス的に遥か格下のリザードマン四体を一瞬で片付け、黒いモヤへと変えていった。


『13層のリザードマン四体を一撃で粉砕で草」

『ワン君は相変わらず意⭐︎味⭐︎不⭐︎明』

『1レベじゃないのは確かw以前より絶対強くなってる』

『ほんとに何で?』


星空の配信のコメント欄では相変わらず俺の能力の考察が起こっている。

まあ知ってる人間が答えを言わない限り、一生正解には辿り着かないけどな。


黒いモヤの後に残った魔石と大矢を拾い、二人の元に戻る。


「お疲れ」

「ああ。これ」


そう言って大矢を如月に渡す。


「ありがと」

「やあやあ、ワン君お疲れ様!流石だね!私が援護するまでもなかったよ」

「ああ。正直まだまだ余裕だな」

「ごめんねー、待たせちゃって!」

「いやいい。俺が頼んでる立場だからな。ま、ゆっくり待つさ」

「ありがとうね!」


星空が謝ってくるが謝ることなど一つもない。魔石もアイテムも別に腐らないし定額で買い取ってくれるので、別にいつでも構わない。時が来れば、いずれ一気に換金できるだろう。


「まあ、今日はこの調子でどんどん狩って行くぞ」

「おー!」

「ちょっと待って」


先を急ごうとした俺らを如月が引き止める。


「何だ?」

「今解体しているからちょっと待って」

「あー……」


俺らを引き留めている間にもせっせと如月がバリスタを解体している。

バリスタを背負える状態まで戻すのに、およそ一分。


大した時間ではないがこれが何度も続くとなると、塵も積もれば山となる方式で周りに遅れて行くことになる。


相変わらず取り回しの悪い武器だな、バリスタってやつは。


これを見ると大型兵器運用適正は不遇スキルと呼ばれるのも頷ける。


まあ急いでないしゆっくりやるさ。


そんなことを思いながら、引き続き狩りを続け、如月や星空に見せ場を作りながら配信を続ける。


リザードマンは水系の魔物らしく、星空の雷魔法が弱点であり、星空の雷魔法が当たると露骨に麻痺って動きを止める為、そこをバリスタと俺のヘビーメタルソードで容赦なく狩っていく。


正直いって弱過ぎてお話にならない。


星空の雷魔法がこの階層と相性が良過ぎる。


コメント欄も星空を称賛する声で溢れているし、取れ高と言うやつもしっかり稼げたであろう。


狩りは非常に順調に進み、次のリザードマンを探しに歩いていた時だった。


『あれ、今なんか映らなかった?』

『チラリとなんか空に見えたような』

『赤っぽかったな』


視聴者を飽きさせない様、俺達の周りを旋回していたAFCの画面を見ていた視聴者達がコメント欄でざわつき始める。


「え、どうしたの?」


そのコメント欄に反応した星空がコメントに質問をする。


『めぐたんの左後ろに何か見えた』

『空が一瞬赤く見えた』


「空が赤く?」


そう呟きながら星空が左後ろの空を見上げる。


「あっ!!二人とも、見て!」

「何だ?」

「何よ、大きな声出して」


前を歩いていた俺達は星空の声を聞いて振り返る。


すると、星空の左後ろの空に小さな赤い煙が空に立ち昇るっているのが見えた。


「何だあれ?」

「あんた忘れたの?授業で渡されたでしょ!救難信号よ!」

「誰かが助けを求めてる!しかもかなり危険な状況だよ!助けに行かなきゃ!」

「救難信号?あれが……」


どうやらあれは救難信号というやつらしい。授業でもらったらしいが、正直覚えていない。周りに助けを求める様な危険な階層には行かないから不要と判断したのだろう。今頃は部屋のどこかで埃をかぶっているはずだ。


「仕方ない。二人とも、走れるな?」

「うん!」

「ええ!」

「途中の敵は正面だけ俺が切り捨てるから二人は気にせず着いて来てくればいい」

「分かったよ!」

「分かったわ!」


二人が了承したのを確認し、俺は救難信号が出された場所まで直線で向かうために木々の間を走り抜ける。


その途中木々の間を闊歩しているリザードマンと遭遇するが、速度を落とすことなく交差し、一刀の元で切り下ろす。


何が起こったかも分からず辻斬りにあったリザードマン達は黒いモヤとなって魔石を落としていくが、今は信号の方が先決だろう。


落ちた魔石をチラリと見ながらも、俺達は脚を止めない。


そして、木々の裂け目を縫う様にして走り、とうとう信号弾の発生源まで辿り着いた俺の目に映ったのは……。


「何だこいつは?」


水面から上半身を出し、青い鱗を全身に煌びやかせた一匹のドラゴンであった。

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