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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第八十二話 湖岸地帯

中央迷宮13階層湖岸地帯。


階層の所々に大小様々な湖とそこに流れる小川があり、その水の近くには深緑色の硬いワニの様な鱗を持つ魔物、リザードマンが巣食っている。


リザードマンの特徴として、レベル2の強力な水魔法と鋼鉄の剣を弾く頑強な鱗に体中を覆われていることだ。


そして一番の特徴として、一度にエンカウントするリザードマンの数が六体を超える可能性があると言うことだ。


道端を何十体ものリザードマンが歩いていることはないが、大きな湖だと、最大で二十体以上のリザードマンと戦う事になる。


しかし対処法も確立された今、一気に多くの魔物を狩れる高効率の狩場として非常に人気のある狩場であった。




ーーー。

「やっほーワン君!」

「おう、星空」


10層のワープゲートに集合時間ギリギリになりながら到着すると、そこには星空が一人で立っていた。


「如月は?まだ来てないのか?」

「うん、ちょっと遅れるみたい!」


如月は遅れるのか。あいつ、坂田が遅れてきた時時間の無駄とか言ってなかったか。

今俺たちの時間を無駄にしてるんだけど。


「時間になったな」

「あははは、もうちょっと待ってあげようよ!きっと準備に時間かかってるんだよ!」


時間か。そういえば今日はバリスタ持ってくるって言ってたな。


俺とのパワレベ以外の日で最低でも週二でパリスタの練習をしているらしい。

足が速く小さい8層のコボルト達を主に練習相手にしているらしい。

中学生くらいの背の犬頭の魔物がバリスタで粉々にされていると考えると凄い絵面なんだろうな。

どう考えても明らかなオーバーキルだ。


そんなことを思っていると、ワープゲートが光り、大きな荷物を背負った少女が歩いてきた。


「お待たせ」

「ふーちゃんさっきぶり!」

「……顔変わった?」

「はぁ!?」

「ぶはっ!あはははははは!」


俺が質問すると如月が顔を怒り顔に変え、星空が大笑いし始める。


「あんた、いくら何でもデリカシーなさすぎ。あり得ないんだけど」

「デリカシー……?」

「あははははは」


俺が怪訝な顔をすると、星空はさらに大笑いする。


今の発言のどこにデリカシーを疑われるところがあったのか理解できない。

如月は普段も薄くメイクをしている様だが、今日はさらにきっちりメイクに力を入れている。お昼に見たばかりだから、尚更濃く感じる。


いつもは普段と変わらないのに今日に限ってめちゃくちゃきっちりメイクをしてきている。何故なのか。


「あんた、星空の配信何人が見てるのか知ってるでしょ?」

「一万人だろ?だからなんだ?」

「一万人の前に立つのにあんな薄いメイクで出れるわけないでしょ!」

「……何で?」

「あー、もう何で何でうるさいわよ!私がそうしたいからそうしてるの!分かった!?」

「お、おう……」


質問していたら突然怒り出して無理やり結論づけてきた。それならそうと言えばいいのに。如月は相変わらず沸点がよく分からない女だ。

本人がしたいと言うなら別に好きにすればいいけど、遅刻するのはやめてくれ。


「遅れたのは悪かったわよ。本気メイクなんて二週間ぶりくらいだからちょっと気合い入れすぎただけ」

「うんうん、ふーちゃん、すっごい可愛いよ!ね、ワン君?」

「可愛い……?綺麗ではあるが可愛いか?」

「綺麗、で終わらせておきなさいよ。ほんっとあんたは一言余計!ほら、さっさと行くわよ。時間の無駄!」

「遅れてきたお前が言うな。行くけども」

「ゴーゴー!」


何故かお冠な如月に俺達二人はついていき、湖岸地帯である13層まで歩いていく。


そして13層に到着した俺達は少し辺りを見渡す。


「木は少し生えてるけど見渡しが悪いわけじゃないし、バリスタ使えそうだねー!」

「そうね。これくらいなら問題ないわ」

「大矢、水の中に撃ったら拾ってこないからな?」

「分かってるわよ!いちいちうるさいわね」


バリスタの大矢は一本三万円。気軽に消費出来ない高価な物だ。とはいえ冷たい湖の中に潜る気はさらさらない。浅瀬くらいなら取ってきてもいいが、間違って深い場所に撃ってしまった場合は諦めるか自分で取ってきてもらう他ない。


魔物がいるかもしれない水の中に三万円の矢を探しに入る……か。自殺行為だな。やはり諦めるしかないだろう。


如月だけはハイリスクローリターンな探索だな。


「んじゃ!配信、はっじめっるよー!」

「ああ」

「おっけー」


星空がそう言い、AFCの配信モードがオンになる。


「みんなー、こんメグメグ!」


『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』


星空がAFCの向こう側の視聴者に向けて挨拶をする。

配信が始まると同時に視聴数はどんどん上がっていき、既に五千人近くまでなっている。

先日よりも視聴者が集まる速度が速いな。


「今日は毎週恒例のワン君との狩り配信の時間だよー!」


『うおぉぉおおおお!』

『楽しみーー!』

『ワン君の怪物ぶりがまた見たい!』


「でもでも今回はもう一人、ゲストが来てまーす!」


『誰?』

『誰だ?』

『ヴァルキュリアの誰か?』


「ぶぶー!違いまーす!正解はー!」

「こんにちは!ワンと同じFクラスの如月双葉よ。よろしくね」

「……」


そう言ってAFCを如月に向けると、今まで見せたことない様な笑顔をカメラに向けて挨拶している。声もワントーン高めだし、テンションもちょっと高めだ。

普段のクールな姿を見ていると、変わりすぎて気味が悪いな。


しかし、引いている俺と違い、星空の視聴者からのウケはかなり良いらしい。


『可愛い!』

『可愛すぎ!』

『可愛い!』

『ワン君の知り合い?』

『なんか見たことあるような……』


「一応色々な雑誌で読モをやっているわ。メインはフォトグラファーよ。フォローよろしくね」


『フォトグラファー!』

『知ってるー!休止してたけど最近また投稿開始してたよねー?』

『フォローしました』

『今フォローしました!』

『可愛い!』

『ワン君の友達?』


「友達っていうか、クラスでたまたま同じパーティーを組まされただけよ」

「うんうん!今回は私から頼んで一緒に狩りに参加してもらう事にしたんだ!」


『おおー!』

『さすめぐ!』

『さすめぐ!有能!』

『え、でもFクラスなのに13層は早いんじゃない?』

『ステ足りないんじゃない?』


「問題ないわよ。前衛は彼がやってくれるし、攻撃は……この秘密兵器があるからね」


そう言って背中に背負ったバリスタをカメラの前に映す。


『おお!ちらりと見えていたけどデカっ!』

『弓?』

『大弓?』

『弓にしてはデカくない?』

『もしかしてバリスタ?』


如月のメイン武器であるバリスタは使っている探索者がほぼいないマイナーウェポンである。


しかしさすがは探索者のチャンネル。知っている視聴者がいた様だ。


「その通り、バリスタよ。私、大型兵器運用適正持ってるから」


『え?』

『大型兵器運用適正!?』

『リヤンと同じスキル!』

『激レアスキルすごっ!』

『うおおおおおおーー!楽しみーーー!』

『早くバリスタ撃つところ見たい!』


「ふふ、すぐに見れるから安心しなさい」


そう言って如月は柔らかく笑う。

俺と接する時と雰囲気も喋り方も全然違う。顔も違うから本当に誰。実は違う人だったりしない?


そんなことを思っていると、星空が間に入り、俺の方にAFCを向けてくる。


「それとー、いつものワン君でーす!」

「どーも、ワンでーす」


俺はいつも通り軽く右手を上げて挨拶をする。


『こんワンワン!』

『こんワンワン!』

『こんワンワン!』

『こんワンワン!』

『こんワンワン!』


最近俺が挨拶をするとこの、こんワンワンなる挨拶が流れる。そんなこと言った事ないんだけど、一体何なんだ。

疑問に首を傾げるが、星空は気にする事なくテンション高めで右手を上げる。


「それじゃ早速、狩りにいくぞー!おー!」

「おー!」

「……」


『おー!』

『おー!』

『おー!』

『おー!』

『おー!』

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