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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第八十一話 如月、部室来るってよ

その日の昼、いつもの様に部室でお昼ご飯を食べていると、部室のドアがノックされる。


「どうぞー!」

「失礼するわ」


星空が返事をすると、如月が扉を開けて入ってきた。


「あれ、ふーちゃん、やほー!どうしたのー?」

「恵、こんにちは。今日お昼、一緒にいいかしら?」

「え、いいよいいよ!ここどうぞー!」


そう言って星空が俺の左側のソファーに案内する。


「ありがと」


如月が星空に感謝しながら案内されたソファーに座る。


「それで今日はどうしたの?」

「特に用があるわけじゃないわ。なんとなくよ」

「えー、そうなんだー!じゃあ迷宮の話でもしようか!」

「そうね」


そう言って二人で仲良く迷宮の話をし始めた。本当にただ星空と会話をしにきただけなのか。


まあいいか。多少うるさいが、まあ気にするほどではない。

お弁当を食べ終えた俺は蓋をして、弁当箱を包む。


「如月」

「ん、何かしら?」

「弁当美味しかった。ごちそうさま」

「……そう。それはよかったわ」


如月にお礼を言って、俺はソファーに横になる。このソファーは五万円くらいする高価な家具で、この部活の初めての部活動として、案件で手に入れた品だ。


見た目もいいが、座り心地、寝心地もかなりいい。


ソファーに横になりながら如月をチラリと見ると、如月は顔を少し赤くしており、それを星空はニヤリと笑いながら見ている。一体どうしたんだ。


だが、星空はすぐに視線を俺に向ける。


「ワン君、食べてすぐ横になったら牛になっちゃうよ」

「牛……?まあそうなったら末長く飼ってくれ」

「殺して食べるに決まってるじゃない」

「やめろサイコパス」


元人間だった牛を平気で食うとか言い出すのは流石にイカれてるだろ。

ていうか牛ってなんだ。


「あんたにサイコパスって言われたくないんだけど」

「何言ってんだか。俺は普通だ」

「はっ!面白い冗談ね」


冗談?

本気だが。

鼻で笑う如月に俺は怪訝な顔をする。


「まあまあ。ふーちゃんは何かワン君に用があってきたんだよね?」

「そうなのか?」


さっきは用事はないって言ってたよ。


「……別にそう言うわけじゃないけど」

「違うのか」


違うらしい。


「ふーん、そういえばなーちゃんはどうしたの?」

「奈々美は今日は坂田と一緒にご飯食べてるわよ」

「え?坂田君と?坂田君って確か……」


そう言いながら、星空が俺をチラリと見る。


「そうよ。こいつに突っかかってた奴」

「へー!そうなんだー!へー!」


何故か星空の声が一オクターブ高くなり、前のめりになる。


何がそんなに星空の興味を引いたのかね。


「そんなに期待しても何もないわよ。まあ、なんというか奈々美はちょっとダメなやつが好きって言うか……」

「ふんふん、なーちゃんはダメンズが好きなんだね!うんうん!」


文月はダメンズが好きなのか。と言うか坂田は別にダメンズじゃないだろ。ただ努力の方向性が間違ってて意地張って非効率な狩りに一生懸命なだけだ。


「奈々美は結構子どもとか好きで世話好きだから、坂田のダメなところが気になっちゃうんでしょ」

「なるほどー!坂田君、聞いた印象だと、ちょっとその気があるよねー」

「そうなのよ。昨日もゴブリンライダー狩りしてたんだけどウルフすら倒すのに苦労してんの。そのくせゴブリン狩りしたらって言ったら怒り出すし」

「ウルフを倒すのも苦労するなら、ゴブリン狩りした方が効率いいねー」

「そうよ。きっとこいつに対抗心燃やしてんのよ」


如月はそう言って俺の方を指差す。


「あー……同じステータスだったもんねー。でもワン君に対抗心燃やすのは無謀すぎるかなー」

「こいつの秘密を知ってるとそう思うけどね。知らないと全然強く見えないし何とかなるかもって思っちゃうんじゃない?知らないけど」

「ワン君は自分の強さに興味ないからねー。でも威張るとそれはそれで敵を作りそうだけど。金剛みたいに」

「威張って欲しいわけじゃないけどさー。俺強いんだぞ、って雰囲気は出して欲しいのよ」

「強くなっても変わらないところがワン君の良いところだよ!」

「まあ……それもそうね」


俺の横で俺の話をしている。俺強いんだぞってどんな雰囲気だ。金剛は別に強そうでも何でもなかったし、あとは一年だと花園だが、花園も強そうには全然見えない。


漫画とかだと肩の袖をビリビリに破いてる様なキャラが強そうに見えるからそう言うことか。ワイシャツもったいないから無理。


「はぁ、今日探索どうしよう」

「ん?今日も坂田とパーティー組むんじゃないのか?」

「そのはずだったんだけど、奈々美が付き合うから良いって。何があったのか知んないけど、三層でゴブリン狩りするらしいわよ」

「へー、とうとう坂田も効率を重視するようになったか。というか三層なら文月はいらないんじゃないか?」

「心配なんでしょ。また無茶やって大怪我しそうだし」

「そうか」


そういえば直近の東迷学園の死者は三層で出たって聞いたな。油断してゴブリンの斧が頭に当たってノックアウト。そのまま撲殺されたって話だ。


文月がいればそんな心配はない。


「じゃあ今日ワン君と13層探索するから、ふーちゃんも一緒に行こう!」

「は?何言ってんの?」


星空の提案に如月が呆気にとられた顔をする。


「だってふーちゃん、別に顔出しNGじゃないでしょ?グラファーやってるんだし」

「それはそうだけど、グラファーとワーチューブじゃ全然やること違うわよ?」

「大丈夫大丈夫!普段のふーちゃんなら人気上昇間違いなしだよ!」

「本当に?大丈夫かな?」

「うんうん!絶対いけるよ!」

「そう、かしら……。ならやってみようかなー」


星空に乗せられて如月がやる気を出し始めてる。

相変わらず星空は周りを巻き込むのが上手いね。


俺からすると、今の発言で何故如月がやる気を出すのか全く理解できない。

今の話、如月になんか得があるのか?


「イングラ用の写真とかも撮っていいよー!」

「ほんと?助かるー!」


イングラ用の写真……手足を切り落として転がされた魔物をバックにピースするのか。

誰が見るんだ、それ。


「人気ワーチューバーの恵とのコラボとかバズり間違いなしじゃん!」

「うんうん!一緒にバズらせよう!」

「ええ!」


そう言って二人で手を取り合う。


「ワン君、別に良いよね?」

「俺の労力が増えるわけじゃないが、取り分はどうなる?」


金額的には大したものじゃないが、どうしようか。13層に行く用事は別にお金じゃないし、経験値も美味しくない。


ああでも、最近現金の持ち合わせがあんまりないな。もうちょっと後にならないとお金に変えられない様な魔石やアイテムばかりで、DPの持ち合わせが少なくなってきている。効率ばかり求めて上層で狩りとかしない弊害が出てきている。


株とかの資産はあるけど貯金はないみたいな感じになってきている。


現金確保のためにちょっと上層にでも足を運ぶか。


「私は最近グラファーのお仕事再開したから別にいいわよ」

「私もいつも通りでいいよ、ワン君!」

「そうか、それはありがたい」


それなら俺は全然問題ない。


「じゃあ今日は13層に三人で行こう!おー!」

「「……」」


右手を上に突き出した星空を二人で静かに見る。いや、何?


「二人とも?おー!!」

「お、おー……」

「おー」


星空の眼圧に気圧された如月が手を上げる。

手を挙げて欲しかったのか。そう思って俺も右手を上げる。


「ふんっ!」


何故か星空がドヤ顔をして嬉しそうにしている。よく分からないが機嫌がいいならそれに越したことはない。


今日は13層湖岸地帯か。

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