第七十八話 ウルフ
それから数日後、月に一回の坂田とのパーティー練習をやることになった。
俺達は五層で、いつもの装備を着けて坂田を待っていた。
すると、坂田がワープゲートから現れる。
「す、すまん!遅れた!」
「……」
「さっさと行くわよ。時間の無駄だわ」
「あ、ああ!」
謝る坂田に対して二人は怒ることなく五層に行こうとする。
何故か俺をチラリと見たが何。俺は別に怒っていない。というか別に坂田は時間に遅れていない。むしろ五分前に来ているのだから普通である。
だから怒らなかったのか。
俺は歩き出す三人の後ろに大人しく着いていく。
「ギャンギャン!」
「ガウガウ!」
早速二体のゴブリンライダーが現れる。
「小鳥遊、上のゴブリンだけ倒せる?うちらはもう一匹片付けるから」
「ああ、分かった」
「え、お、俺は?」
指示がされずにおろおろする。
そんな坂田を無視して俺らは走り出す。
上のゴブリンだけ。今の俺にとってそんなに難しい注文ではない。
俺に向かって走り出したゴブリンライダーの一体に向けて俺も走り出す。
「ゴギャーー!」
走り出した俺を見て雄叫びを上げるゴブリンライダーだが、あまりに遅過ぎる。
もはや戦いになどならない。
交差する時に振られたゴブリンの片手剣とウルフの牙を避け、上のゴブリンの上半身と下半身を切り離す。
「ギャウギャウ?」
黒いモヤとなって消えた主人を見て狼狽えたウルフだが、すぐに臨戦体制をとって俺に攻撃しようと吠えてくる。
だが、ウルフは動かない。恐らく、彼我の実力差を悟ったのだろう。
来るようなら斬り伏せるが、来ないのなら待っていよう。
「ふぅ」
後ろからため息を吐く声が聞こえてきて、足音が二人分、こちらに近づいて来る。
「やっぱり余裕みたいね」
「こっちも終わったわよ」
無傷でもう一体のゴブリンライダーを倒してきた文月達だ。
「ああ。そっちも終わったか。それでこのウルフはどうするんだ」
「そりゃもちろん倒すに決まってるでしょ」
「お前らが?」
「そんなわけないでしょ。坂田、あんたが一人でこのウルフ倒しなさい!それであんたの実力見るから」
「わ、分かった!任せろ!」
緊張しているのか、坂田が震えながら右手に鋼の片手剣、左手に鉄の盾を構える。典型的な剣士の装備と構えだ。
鎧などの装備もこの階層相当の狼の革装備だ。
「行くぞウルフ、こっちだ!」
剣で盾をガンガンと叩き、ウルフの気を引く。
スキルが使われているような感じでもないので、普通に気を引いてるだけだ。それでもウルフは坂田の方に向き直り、戦闘体制に入る。
「うおおおおおーーー!」
「ガウ!」
坂田が雄叫びを上げながら突撃を開始し、ウルフも坂田を見て飛び上がる。
「うおっ!」
坂田は飛び上がったウルフに反応して盾を構え、ウルフの突撃を防ぐ。そして右手に持った鋼の剣でウルフを攻撃しようとする。しかし、それをかわされて、別の方向からもう一度飛びかかりをされる。
「ぐっ!おらっ!」
「ガウ!」
それもなんとか防いだ坂田は、もう一度剣を薙ぐが、今度はウルフが下に避け、そのまま坂田の足に噛み付く。
「うぐっ!人間様の足を噛んでんじゃねぇ!」
そう叫んで鋼の剣をウルフの首に振り下ろすが、ウルフはあっさりと坂田から離れて仕切り直す。
「くそっ!」
未だ攻撃を与えることができず、坂田が悪態を付いている。
足を噛まれはしたが、防具のおかげでまだ戦えそうだ。
「坂田、まだいける?」
「ああ、手を出すな!こいつは俺が倒す!」
文月が声を掛けるが、坂田はまだまだ戦う気があるらしい。改めて剣と盾を構えてウルフと対峙する。
「はぁはぁ」
「グルルルルル」
坂田が肩を上下にさせながら荒い息を吐いている。
未だ無傷のウルフは坂田を油断なく睨みながら喉を唸らせる。
そして、息を整えた坂田が今度はどっしりと腰を低く構えて重心を低くする。
そしてそのままジリジリと前に出るが、先ほどの様に突撃したりしない。
「グルルルルル、ガウ!」
焦れたウルフが吠えながら先程と同じ様に坂田に飛び掛かる。
だが坂田の方は先程とは違い、盾でウルフをいなす様にし、交差する際に横っ腹を斬る。
「ギャウン!ハッハッ!」
体勢があまりよくなかったせいか軽くウルフの皮を割いた程度ではあるが、一応ダメージは与えられたようだ。
「よっしゃおら!」
坂田は油断なく盾を構えたまま喜んでいる。
ウルフは大したダメージではないようで、特に傷を庇うような仕草もせず、坂田に唸り声をあげている。
「おら、来い!」
剣で盾をガンガンと叩き、ウルフを挑発する。
ウルフはしばらく唸り声をあげていたが、焦れたのか再度飛び上がる。
「同じ攻撃を何度も喰らうか!」
そう叫んで、大口を開けて坂田に噛みつき攻撃を行おうとしていたウルフの口に盾をぶつけ、その喉元に鋼の剣を突き刺す。
そしてそのままのしかかったウルフを押し返して地面に倒し、逆に坂田がウルフにのしかかって鋼の剣を何度もウルフに突き刺していく。
ウルフは前脚の爪を振り回して坂田を退けようとするが、坂田は意地でも離れることなく剣を突き刺し続ける。
とうとうウルフは力尽き、黒いモヤとなって消えていき、黒い魔石だけが残っていた。
「ふぅふぅ、やっと死んだか……」
魔石を拾い、額の汗を握りながら俺らの方に歩いて来る。
腕を組んでじっと様子を見ていた文月達が歩きてきた坂田に言う。
「坂田さぁ、あんた今何レベ?」
「え、今?五レベだけど……」
五レベ……?
この階層の安全マージンは七レベ。しかも四人パーティーで、だ。ちょっと無謀過ぎないか。
「あんた五レベでこの階層来てたの?」
「無謀すぎるでしょ!自分の命大切にしなさいよ!」
「そ、そんなこと言ってたら周りに遅れていくだろ!少し無理してでもレベル上げ頑張らないと俺……」
「はぁ?戦う度にそんなボロボロになってたらいくら回復ポーションあっても足りなくなるじゃん」
「そうだよ!だからいつも金欠で、贅沢せずに頑張ってるんだ」
「だからって……はぁ、ほら、これ使いなさい」
そう言って、文月が回復ポーションを渡す。
「え、いいのか?」
「いいからさっさと使いなさいよ!ったく……」
「おお!やったー!ありがとう!」
回復ポーションを貰った坂田は、それを喜んで受け取り、早速使ってウルフから受けたダメージを回復させる。
ポーションのお陰で傷跡が綺麗さっぱり消えた坂田は、俺達の方に歩いてきて頭を下げる。
「手こずってすまん!俺、もっと頑張るから!」
「頑張る?何を?」
「何をって……それは……」
疑問に思ったので口にすると、坂田は言い淀む。坂田は今、真剣に頑張っていただろう。これ以上何を頑張るんだ?
「頑張って今の結果なんだろ?なのに頑張るって何を頑張るんだ?」
「それは……分かんねぇ」
「分かんないのに頑張るって言ったのか?」
「……」
「小鳥遊、あんたちょっと言い過ぎよ」
俺の質問に坂田が言い淀み、文月が代わりに詰め寄って来る。
「何がだ?頑張る、と坂田が言ったからその内容を聞いただけだぞ」
「それは、そうだけどさ……」
文月が言い淀み、代わりに如月が前に出て坂田に話しかける。
「坂田、悪いけど私も小鳥遊と同意見。ウルフだけでこんなに時間かけてたら逆に効率悪いわよ」
「……」
出来ないことを出来るようにするのが努力だ。出来ないことを出来ないまま続けるのは努力ではない。
「はっきり言って私達とこの階層で狩りをするより、一人で三層のゴブリン狩りをしてた方が確実に効率がいいわ」
「……」
如月の意見に、坂田は黙ってしまう。
如月の意見には俺も同意見だ。ウルフ一匹に手こずって回復ポーションを度々常用するよりも安定してほぼ無傷で倒せるゴブリン狩りをする方が確実に効率がいい。
いまや、三層は誰もいない。
一番効率のいいルートを調べてそこを周回すれば、毎日ひもじい思いをせずにお金を貯められ、しかも結果的に早くレベルを上げられるはずだ。
「小鳥遊、あんたもそう思うわけ?」
「俺?俺はどっちでもいい。坂田がこの階層にこだわるなら時間まで付き合うし、帰るならそれでも構わない」
「そうじゃなくて、坂田が三層に行くべきかって」
「それは坂田の人生なんだから坂田が決めればいいだろ」
「あんたは相変わらず冷めてるわね」
如月が腕を組みながらそう言ってくる。冷めているというかなんとも思っていないだけだ。
坂田に質問をしたのだって、疑問に思ったから聞いただけ。それ以上でもそれ以下でもない。
坂田が三層に行けば俺は月一のこのパーティーに参加しなくてよくなる。それは俺としてはありがたいが、一応は約束をしたのだからそれを守る覚悟はある。
だから俺は本当にどっちでもいい。
「坂田はこの非効率な狩りにこだわりがあるんだろ?じゃあいいんじゃないか、好きにすれば」
「……あんた、無自覚に毒吐くわよね。知ってたけど」
如月が呆れる様に言ってくる。
毒って。単なる事実だろ。
「それで、どうするんだ?続けるのか?止めるのか?」
「俺は……続けたい」
「そうか」
坂田が続けたいというのならば付き合うだけだ。
「じゃあどうする?ウルフとゴブリン、どっち残す?」
「ウルフで頼む!もっと早く倒してみせるから!」
「そうか」
坂田がそう言うならまたゴブリンだけを倒そう。別に対して苦ではないしな。
「じゃあ次行くか」
「おう!」
坂田がそう意気込んで次の獲物を探しに行く。
坂田主人公の方がまともな物語になったんじゃないか、と思った方はブックマークお願いします!




