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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第七十六話 再締結

「「……」」


俺が質問をすると、二人が押し黙ってしまう。


試験の時にパーティーを組めないと困る、という話だったのでこの二人のパワレベの約束をしたのだ。しかし、蓋を開けてみれば、パーティーは学園側が強制的に決めるという。


それなら別にソロでも構わない。俺は別に連携とか組まなくても何とか出来るし、一人でも四人分の働きができる。


「去年までは自由パーティーだったのよ……」

「そうなのか。だが、今年からは学園側にパーティーを決められるのだろ?」

「そ、そうだけど、これからずっとそうとは限らないじゃない!」

「それは来年以降の話だろ。多分後期も勝手にパーティーを決められるんじゃないか?」

「それは……分からないわ」

「そうなのか」


学園側に強制的にパーティーを決められるとなると、次も二人とパーティーを組めるか分からなくなってしまう。


困ったなぁ。


そう思いながら、俺も教室に戻ろうとすると二人に手を掴まれる。


「何だ?」

「何だって……」

「いや、その……確かに約束は反故になっちゃった形だけどさ……、その、これからもパーティーを組んで欲しいっていうか」

「何でだ?約束とは違う形になったんだから白紙だろ。だからもう弁当は作らなくていいぞ。俺のスキルだけ秘密にしてくれればな」


弁当は惜しい。しかし、週三回のパワレベがなくなれば、こちらとしても余裕が出来る。


想定外のことではあるのだから、今回の件を責める気はない。今までパワレベした分を返せなどというつもりもない。


俺だって食べた分を返せと言われても困るしな。


しかし、これからは話は別だ。


夏休みにも入る訳だし、ご飯も作ってくれなくなる。そうすると、俺のメリットがほぼ無い。それなのに俺がこの二人のパワレベに付き合うのはあまりに不公平だ。


「じゃ、じゃあ夏休み中もご飯作ってあげるから!」

「え、本当に?」


文月が俺の腕を掴みながら叫ぶ。

それはいい話を聞いた。


「本当よ!というかそのつもりだったし」

「マジか。それは嬉しい……が、それだけじゃなぁ……」


ご飯だけでは割りに合わない。それは約束をした時にも伝えたはずだ。

しかも文月達とは週三で狩りをする約束をしている。そこに週二での坂田とのパーティー。星空ともちょいちょいパーティーを組むことを考えると、週六で迷宮探索をすることになる。


無理無理。


俺はバイト感覚で迷宮探索をしているのだ。

週六でバイトする学生なんてほとんどいないぞ。俺は別にお金には困っていない。DPも十分余ってる。


週六で迷宮探索なんてやってられない。


強制されたらサボるしかないだろう。夏休みは部屋に篭って居留守でもするか。


渋りながらそんなことを思っていると、何か考えていた文月が提案をしてくる。


「……それなら坂田とのパーティー練習、あんたは月一でいいわ」

「え、本当に?」

「ええ。その代わり、その時間を私達に費やして欲しいの。その方があんたも得でしょ?」

「そうだなー。五層に行くくらいなら十八層でオークソルジャーとコボルトアサシン狩りをした方が経験値的にも金銭的にも全然マシだ」

「でしょ?あんたは坂田と私達と月一で狩りをして、私達とは週三で、坂田との狩りの週は二回でいいわ。それでどうかしら?」

「……」


俺は考える。


五層と十八層では落ちるアイテムの価値が圧倒的に違う。しかも、二人とのパワレベと違い、坂田との四人パーティーだとアイテムは等分となるだろう。


それでは俺の懐に入る収入で大きく差が出ることになる。


しかも、二人とのパワレベも坂田とのパーティーの週は二回でいいらしい。それならば俺は今まで通り、迷宮探索は週四で済ませられる。


「ふぅ……」


夏休み中もご飯作ってくれて、しかも坂田とのパーティーは月一。


俺は夏休みの間、寮から家に帰る気はない。帰っても何もないし、バイトも出来ないしな。

それならこの学園で迷宮でお金稼ぎをした方がいい。

自炊も悪くないが、やはり二人が作ったご飯のほうが美味しい。


微妙なところだ。


坂田とのパーティーは別にサボる事で回避は可能だが、軋轢を生むのは俺の望むところではない。


それらも加味すると、損得で言えば乗ったほうが得にはなる。


「……分かった。よろしく頼む」

「やった!約束だからね!」

「ああ。とりあえず九月末までな」


このテストは九月末までだ。それならばこの契約もそこまでだろう。


「ぐっ……分かったわよ。一旦そこまででいい」

「そうか。なら契約成立だ。よろしくな」

「ええ」


二人が頷いたところで契約が締結する。

そこで改めて三人で教室に戻る。


教室に戻った俺は、自分の席に戻ろうとする。


「ちょっと待ちなさい」


しかし、如月に肩を掴まれて阻まれる。


「何だ?」

「ちょっと私の席に来なさい。坂田!あんたも私の席に来なさい!」

「お、おう!」


呼ばれた坂田と俺はそのまま如月の席に行く。

そして如月は坂田を睨め付けながら質問をする。


「で、あんた、何が出来んの?」

「え、あ、い、一応……前衛で剣士やってるけど……」


如月の高圧的な態度に坂田がタジタジになりながら答えている。


「剣士ねぇ……。それで、あんた今五層攻略してるのよね?」

「そうだけど……」

「じゃあ週二で私達があんたのレベル上げに付き合ってあげる」

「え、本当か!?やったー!」


如月の提案に坂田が喜んでいる。


「その代わり、私達の言うことは絶対に聞くこと。断ったらこの話は無しだから」

「お、おう!」

「まず一つ目」


そう言うと、俺をチラリと見る。


「小鳥遊に絡むのをやめること」

「え、あっ……」


坂田が驚いたように俺を見る。何も聞いてない俺は三人の様子をただ眺めるだけだ。


「な、何で……」

「私達が聞いていて不快だから。なんか文句あんの?」

「いや、ないない!分かった、翔に絡むのを辞める!」


坂田が首を思いっきり横にブンブン振って同意する。


「そう。あと、小鳥遊は基本的に私達のパーティーには参加しない」

「え……何で……?」

「レベル上がらないのにパーティー組んでも無駄じゃん?けど強さに関しては証明されてるんだから、テスト当日足手まといにはならないでしょ」

「……」


何故か坂田は不服そうだが、文月は有無を言わさず続きを話す。


「三つ目、四層以降に一人で勝手にいかないこと。行くなら私達に許可とって」

「え、な、何でだよ!」

「勝手に死なれたら困るから」

「で、でも週に二回しか迷宮潜れないなんて……」

「三層でゴブリンとネズミ狩りすればいいじゃん」

「それじゃあ全然経験値が手に入らない!」


納得がいかないのか、坂田が怒鳴る。周りの生徒が何だ何だと視線を向けてくるが、文月はうざそうに顔を顰めて冷静に答える。


「うっさいわねー。あんたが五層でちゃんと戦えるなら八層か九層でちゃんとパワレベしてあげるわよ!」

「そうそう!今更五層に行っても私達に何の得もないんだから頑張りなさいよね」


週二で八層か九層でパワレベをしたほうが五層で狩りをするよりも効率がいいのだろう。というか、坂田、本当に一人で五層とか行こうとしてたのか。坂田の今のステータスは知らないが、無謀過ぎるだろ。


「あ、ああそういうことだったか!任せとけ!」


二人の言い分に納得したのか坂田は胸をドンと叩いて頷く。


「ま、とは言っても直近の目標は遠征先のダンジョン攻略になると思うけど」

「……遠征?」


何それ、聞いてない。


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