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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第七十五話 坂田の処遇

「はぁ!?ちょっと先生!よりにもよって何でこのクラス最弱の二人と私達が組まないといけない訳!?」

「そうよ!足手まといはいらないわよ!」


第8パーティーのパーティーメンバーを聞いた文月と如月が怒鳴る。


「君達二人はこのクラストップなんだ。二人のレベル上げを手伝うのも早くレベル上げを行ったものの務めだ」

「はぁ?」

「それに足手まといではない。坂田も小鳥遊も積極的に迷宮に潜っている。彼らの力が君達二人の力になることもあるだろう」

「はぁ?そんなことあり得ないし。しかも積極的に迷宮行ってるとか関係ないでしょ」

「そうよ!レベル差離れすぎでしょ。マジあり得ないんだけど」

「文句を言ってもパーティーは変わらない。それは他の者も同様だ。では、HRは以上とする。二限目までの時間は新パーティーでの交流の時間とする。以上」


それだけ言うと、橋下は教室を出ていってしまった。

橋下が出ていくと、生徒達は呼ばれたパーティー同士で集まり会話をし出す。


俺は別に集まることなく席に座っていると、文月と如月が俺の席にくる。


「ん?何だ?」

「ちょっと来て」

「俺だけ?坂田は?」

「……とりあえずあんたとだけ話したいの」

「分かった」


俺は素直に立ち上がり、二人について行く。そのままの足で屋上に着くと、二人が振り返る。


「……で、この状況どうする気?」

「坂田のことか?別にどうもしないぞ」


というかどうもできないだろ。大人しくテストの際は魔法を使わずに物理で戦うしかない。


テスト内容はSクラスの生徒ならSクラス用の、FクラスならFクラス用のものがある。


普通の筆記試験と同じように、普通に迷宮に潜っていたら問題なくパスできるものだ。


魔法を使わない俺の素のステータスでも何の問題もない。坂田という本当のクラス最弱がいてもテストに落ちるとは思えない。


「どうもしないって……テストは別に問題ないだろうけど、普段はどうすんのよ?」

「普段?変わらないだろ、別に」

「坂田とパーティーを組んで迷宮に行かないの?」

「ああ。試験のためのパーティーなんだ。俺らなら余裕でパス出来るんだ。なら別に連携や練習なんて必要ないだろ」


自惚れでも何でもない。客観的に見ても、Fクラス最強の三人が揃ってFクラス用の試験で落ちるとはとても思えない。


「じゃあ坂田はどうすんのよ」

「どうするとは?友達がいるんだからそいつらとでもパーティー組むだろ。もしくはお前らが組んでもいいし」


俺は別に組む気はない。必要がないからな。


「小鳥遊が組まないんなら私達だって組まない……って言いたいところだけど、それだと私達が坂田をいじめてるみたいじゃない」

「イジメ?何故?」

「私達とあんたはこっそりパーティー組んでるのよ?それなのに坂田だけハブにするなんて、嫌がらせじゃない」

「嫌がらせ?試験にはちゃんと合格出来るんだから嫌がらせでも何でもないだろ。坂田が遊んで何もしなくたってちゃんと合格させるぞ?」

「そういうことじゃないの、もう!それに、坂田の元パーティーメンバーは多分新しいパーティーで手一杯になるわ。そうすると坂田がぼっちになるわよ」

「あー、なるほどー」


なるほど。クラスメイト達も自分たちの事で手一杯になって坂田とパーティーを組むのが難しくなるのか。

それに新パーティーだけで連携の練習をしたいこととかあるかもしれないしな。


「でも、パーティーの連携は別にテストの評価項目には含まれないだろ?何ならテスト当日は三人はカフェでお茶でもしてくれていいぞ。合格に必要なアイテム四人分、俺が集めてくるから」


Fクラス用のテストと考えれば、俺のステータスなら四人分だとしても大して苦にはならないはずだ。というか、一人の方が確実に効率がいい。


さっさと終わらせて、さっさと合格して帰る。それが最適解だ。


「良いわけないでしょ。じゃあ私達はパーティー組むとして、坂田は九月のテストが終わるまで一人でゴブリン狩りしろってこと?」

「そうだ」

「あんた、それは流石に酷すぎよ」

「そうか?身の丈にあった階層で身の丈にあった攻略をする。言い方は違うが学園の迷宮攻略手帳にもそう書いてあったはずだぞ」


死者を極端に嫌う日本らしく、無理のない迷宮攻略をするように、と口酸っぱく教えられるし、書いてある。

俺もそうしているし、他の生徒もそうしている。


「それはそうだけど、流石に二ヶ月ゴブリン狩り、ウルフ狩りは可哀想でしょ」

「どこがだ?それが坂田のステータスの限界なんだから仕方がないだろ」


俺も入学して数週間、1レベから上がらなかったが、それは仕方がないことだと思っていた。


迷宮攻略には、ステータスという明確な才能と強さの基準がある。坂田はそれが極端に低い。ありていに言えば迷宮攻略の才能がない。それでも頑張るというのならば、こういったことも許容すべきだし、そもそも俺がパワレベに付き合う理由には全くならない。


坂田はどうやら今、パーティーで五層を攻略中らしい。俺が五層に行っても、もはや経験値なんて雀の涙程しか手に入らないし、金銭的にも厳しい。


俺がパーティーを組むメリットが全くない。


これでテストに落ちようものなら罵詈雑言を受ける覚悟がある。しかし、俺のステータスで合格できないテストならSクラスでも合格出来ないテストということになる。


常識的に考えてそんなことはあり得ない。


「坂田が無理をして五層にソロで行ったりして死んだりしたら、あんたも困るでしょ?」

「は?坂田はパーティーで五層に行ってるんだろ?ソロで行ける訳ないんだから行く訳ないだろ」

「可能性は充分あるわ、てか私なら行く」

「……何故?」

「ムカつくからよ」

「……?」


意味が分からない。何だ、何にムカつくって言うんだ。坂田自身か?それとも自分を産んだ親か?


俺が疑問符を浮かべると、文月が俺を見ながら言ってくる。


「あんたがよ、小鳥遊」

「俺?何故?」

「自分が他人からどう見えるか分かってないようだけど、レベル1のくせに誰よりも強いのに、あんたは迷宮探索にこれっぽっちの興味も示さない」

「それは……」

「あんたのスキルを知ってる私達でも思うわよ。日本中の誰よりも迷宮探索者の才能があるのに迷宮にこれっぽっちの興味もないなんて……そんなの許せないじゃない」

「許せない?ないものはないのだから仕方がないだろ」


それを言うなら俺だってお金持ちの子どもに生まれたかったさ。だけど、そうならなかったんだからどうしようもないだろ。


「あんたが言ってる事は正しいわよ。けどそれで納得出来ないのが感情なの」

「……?」


いや、分からないけど。どういう事だ。俺にむかついたら何で五層に一人で無謀な突撃をする事になるんだ。


全然分からん。


「とにかく!坂田のレベル上げも手伝わないとあいつが無茶する可能性があるっていう事!分かった!?」

「……」


いや分からない。

けど、あり得ない可能性か、と言われると、どうだろうな。そういう事するのかもな。


「とりあえず分かった」

「というわけで、坂田とは週二位でパーティーを組むこと!」

「週二か……」


正直嫌だ。しかし、これで無理されて死なれでもしたらそれは確かに困るな。

二人がいうには、側から見たら坂田だけ無視したみたいに見えるようだし。


「うーん」


仕方がないか。まあ週二くらいでパーティーを組めば問題ないだろう。何なら三人でローテーションを組んでもいい。それなら一人一人の負担は少なくなる。俺達なら五層ならソロでも余裕なのだから。


「分かった。詳細はあとで詰めよう」

「ええ」


そこで二人は教室に帰ろうとするが、俺の方はまだ話がある。


「ところで聞きたいことがあるんだけど」

「……何よ」

「聞いていた話と全然違うんだが、どういうことだ?」

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