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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第七十三話 意外性

次の日、俺はお弁当とレジ袋を持って部室に行く。


扉を開けると涼しい風と共に女子生徒達の話し声が聞こえてきた。


「は?」


そこにはこの部の部員である、星空とそのパーティーメンバーが部屋の中心で車座になっていた。


「何でいるんだ?」

「ふんだ!」

「やっほーワン君!」

「こんにちは、ワン君」

「ふっ……我がアジトに我がいることがそんなにおかしいか?」


昼にクーラーのある部屋でゴロゴロしたい。それがこの部を作った理由だ。

逆に彼女達は放課後配信出来る配信専用の部屋が欲しいと言う理由だ。


ならば彼女達はお昼ここにいる理由はないはずだ。この前も星空は私達は教室で良いって言ってたし。


「昼は俺の時間だろ?」

「は?何言っているのだ?お前、頭がおかしいのか?」

「お前にだけは言われたくない言葉だな、それ」


部室をアジトって言ってる奴に頭がおかしいって言われるのは流石に驚くな。


「まあそんなことよりも……星空、昨日は悪かったな」


挨拶も返答せずにむくれている星空に声をかける。


「ふん!」


やはり怒っているようだ。気持ちはよく分かる。


「そんなに怒るな。これ」

「……何?」


俺は持ってきたレジ袋を星空に渡す。

レジ袋を受け取った星空は、袋の中に手を入れ、中身を取り出す。


「何これ?」

「梅のおにぎりだ」

「……何で?」

「星空が怒ってるのは昨日俺がご飯を奢らなかったからだろ?だからこれ、お詫びだ」


俺だって急に呼び出されておいて何もくれないのは嫌だ。


俺も星空達が部屋に入るのにお弁当を貰ったりしていたしな。

それならば、星空を呼び出したのだから俺もちゃんと払うものは払うのが筋だ。


「迷宮帰りだったからな、持ち合わせが何もなかった。だからこれ、買ってきた」

「……ワン君、もしかして昨日、私がご飯奢ってもらえなかったから怒ってるって思ってる?」

「そうなんだろ?」

「全然違うけど……もうこれでいい」


え、違うの?


昨日の夜、寝る前まで考えた結論だったんだけど。


驚く俺の目の前で、星空はおにぎりの包装をとって食べ始めた。


よく分からないが納得したのならいい。そう思って俺は部屋を出ようとする。


「ちょっと待てーい!何故出て行こうとする!」


右京に肩をガッと掴まれ、引き止められる。


「何でって。お前らいるし、ソファーもまだないから寝転がる場所もないだろ?だから屋上に行こうと思ってな」


ここで寝っ転がるのも屋上で寝っ転がるのも大差ない。まあここの方が涼しいけど、まだ耐えられないほどの暑さではない。


そう思って無視して出て行こうとすると、俺の肩に腕を回してくる。お前、相変わらず馴れ馴れしいね。


「ふっ、出ていく必要はないぞ、ワンよ」

「は?」


俺が聞き返すと、右京は俺の肩を組んだまま身体を半周して、俺に部屋の中を見せる。


部屋の中央には敷物が敷かれ、そこには座布団が五枚と、その中央には四人では食べきれないであろう量のさまざまなおかずの入った弁当箱が置いてあった。


右京はそれらを顎でしゃくり、俺の顔をニヤリと見ながら聞いてくる。


「あれ、食べたくはないか?」

「食べたいな」


お弁当は作ってきてもらっているが、胃袋的にはいつも余裕がある。置いてあるお弁当の惣菜も美味しそうなので、くれるなら欲しい。


「食べていいと言われたら嬉しかろう?」

「それは嬉しいな」

「ふっ。では……答えは決まったな」

「……何の?」


何だ?自慢してるのか?


「お前にも上げるっていってるのだ!この流れで何故分からん!?」

「え、何で?俺からあげるものはないぞ?」

「そういうのじゃ……はぁ、もう良い。いいから座れ。貴様も好きに食べよ」

「本当に?俺は何もあげないぞ」

「ああ、構わん」


右京は何か疲れた様子でさっき座っていた場所に座り直し、横にいた春宮の膝に頭を乗せる。


「透ちゃん、よく頑張ったねー、いいこいいこ」

「あいつ、頭がおかしくて話してると疲れる」

「はいはい」


だから頭がおかしいのはお前だよ。


しかし、ただで貰えるものは貰おう。俺は空いてる座布団の前に行き聞く。


「俺はここに座ればいいんだな?」

「うん!どうぞどうぞー」


横にいた清水が手で招いてくれる。俺はそこに座り、自分の弁当箱を広げながら、広げられている弁当箱の中身を確認する。


「和食が多いな」


如月達が作った弁当は家庭的な弁当なのに対して、目の前に広げられているのは料亭が作ったような弁当だった。


「買ったのか?」

「いやいや!作ったにきまってるじゃーん!」

「ふーん、みんな料理できるんだな。すげーな」


如月達といい、彼女達といい、料理が出来る人たちが多くて驚く。

ちなみに俺は簡単なものしか作れない。こんな手の込んだ料理はとても出来ないな。


「私達も簡単なものくらいだよー!これ作ったの、ほとんど透ちゃんだよ!」

「は?誰って?」

「これ作ったのほとんど透ちゃん!透ちゃん、実家が有名な割烹料理店だからねー」

「そうなのか?」


寝転がって春宮に頭を撫でられている右京に聞く。


「ふっ、我が手ずから作った美味なる食の数々。我が眷属である貴様らに特別に振る舞ってやろうと思ってな!」


右京は寝転がった姿勢で手で何故か意味深に顔を隠しながらそう言ってくる。

その様子を生暖かい目で見ていた星空と清水が口を開く。


「そうだよねー、透ちゃん、今日のために数日前から作るもの考えていたものねー」

「うんうん!昨日の夕方から仕込みを始めて、今日も四時起きでこれ作ったんだもんねー」

「透ちゃんは本当に偉いなー!」

「ば、馬鹿者!そんなわけあるか!我が魔法を使えばこれくらい朝飯前だ!」

「ふーん」


どうやら朝四時に起きて作ったみたいだ。しかも、本当にもらっていいらしい。


俺は早速、よく分からない白身魚を薄く揚げたようなものを食べる。


「うまっ」


なんかよく分からないけどうまい。味は濃くはなく、むしろ薄いのだが、いわゆる品というか繊細な味だ。俺は魚の皮はあまり好きではないので捨てる派なのだが、この魚の皮がついた揚げ物は普通に皮ごと食べても美味しい。


次にこちらもよく分からない液体に少しだけ浸った白くて丸いものを食べる。


「おおっ。これもうまい」


何だろ。味は薄い。それなのに不満が一切ない。昆布の優しい出汁の旨みに浸されたその物体は里芋で、口の中でホロリと溶けながら出汁の旨味が口一杯に広がる。


「ちょっと!まずは乾杯でしょ!もう!」


勝手に食べたら星空に怒られた。食べていいって言ったのに。


「美味いか、我が手ずから生み出された神々の美食は?」

「マジで美味いな。本当にありがとう!」

「ふっ」


俺が感謝の言葉を述べると、何故か鼻で笑い顔を逆側に向けてしまう。

あれ、俺に感謝されるの嫌だったか。

どうやら右京は嫌いなやつからは感謝されたくない人間らしい。


そう思って謝ろうとしたところ、右京を膝の上に乗せていた春宮が彼女の顔を覗き込む。


「あー、透ちゃん、照れてるー!」

「えー、見たいみたい!」

「透ちゃん可愛い!」

「う、うっさい!照れてない!」

「うそー、顔赤くなってるものー!」

「そんなわけない!ちょっとこの部屋が暑いだけだから!」

「「「可愛いー!」」」


三人が右京の近くにより右京をいじり出す。

どうやら俺を嫌っているわけではないらしい。


三人が右京を弄っている間も、俺はせっせとご飯を食べ続ける。


もちろん、如月達が作った弁当も忘れない。

今日はコロッケ弁当だ。


時間が経つことを想定した濃いめの味付けが、右京の作った料理との対比があってより美味しく感じる。


コロッケをガッツリ食べ、ご飯をかっくらってお茶を飲む。


そしてお茶でリセットされた口で、右京の作った料理を食べる。


そうしてしばらく無心で食べ続け、お腹いっぱいになった所でお弁当は空になり、俺は寝っ転がる。


「はぁー食った食ったー。満足満足」


最近は美味しいご飯を毎日食べられて幸せだ。もうおにぎりとサンドイッチには戻れない身体になってしまったのかもしれない。


「ワンよ、我が供物は美味かったか?」

「供物?」

「今お前が食べた料理のことだ!」

「ああ……、美味かった」


俺は素直に頷く。


「そうか、それならよかった。くっくっくっ……」

「……うん?ああ」


右京が突然変な笑いをし始めたが、まあこいつがおかしいのは今に始まったことではない。

俺は無視して起き上がり、弁当箱を仕舞い始める。そろそろお昼の時間も終わりだ。午後の授業は確か、五限が現代文で、六限が剣術基礎練習だったな。


現代文苦手なんだよな。というか、迷宮探索者専門の育成学校に通常の授業が必要だとはとても思えないし、そもそも俺は理系だ。


もう何十年も前からこれら科目の必要性が問われているのに一向に変わる気配がない。

受験ですら使わない科目を勉強しないといけない理由がさっぱり分からない。


まあ俗にいう利権というやつなんだろうな。付き合わされる俺らのみになってほしい。


六限の剣術基礎練習は体育の代わりの選択科目で、剣術、槍術や変わったのだと杖術なんていうのもある。


俺はオーソドックスに剣術をとっている。


こちらは実技かと思いきや、割と座学も多い。各階層の魔物での武器での戦闘方法などを動画で見て、その後に動きを真似する、というようなことを繰り返し行う授業だ。


まあとりあえずは現代文だ。


しんどいが赤点を取ると面倒臭いからな。頑張るか。


「じゃあな。今日は飯奢ってくれて助かった。めっちゃ美味しかったぞ!」


そう思って気合を入れて部室を出て行こうとすると、後ろから声をかけられる。


「ワ、ワン!」

「あ?俺か?何だ?」


呼ばれたので振り返ると、何故かもじもじした右京が立ってこちらを見ていた。

その横では春宮と清水と星空が、右京の横で何か応援している。


「そ、そのだな。ま、またパーティー誘ってもいいか?」

「え、うーん、まあ見返り次第だな」

「なっ!?今美味い飯奢っただろ!」

「いや、何も出せないって言っただろ」

「それはそうだが……」


なんか俯く右京を無視して教室に行こうとする。

しかし、星空が声を上げる。


「つまり、得られるものがあればパーティーを一緒に組みたいってのだよね!」

「うん?組みたい?」

「ね!」

「あー、まあそうだな。その時は確かに組みたいな」


星空が念を押すように言ってくる。得られるものがあるなら俺としても是非組みたい。


俺が頷くと、右京はぱっと顔をあげ、自慢げな顔をする。


「そこまでいうならパーティーを組んだやろうではないか!はーっはっはっはっ!」

「……ああ、よろしく頼む」


そう言って扉を閉めた。

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