第七十話 クーラーのために部活作るってイカれてる
「うん?クーラーの為?どういう事だい?」
長谷川の言葉に天王寺が怪訝な顔をする。
「どういう事も何も、こいつらはお昼が暑くなるからって、クーラーがある部屋が欲しくて部活作ろうとしているのよ!配信で言ってたもの!」
「ふむ……、長谷川はこう言っているが、ご説明願えるかな?」
怪訝な顔をした天王寺が俺らの方を向き、疑念の目を向けてくる。
う、うーん、困った。まあ配信で話してた事だし、隠している事じゃないけど、そこを突かれると痛いんだよなぁ。
俺が向こうの立場でも、クーラーのある部屋が欲しいから、なんで言い出したら呆れて追い返す。
とりあえずポーカーフェイスをしながら星空をチラリと横目に見ると、星空は焦る事もなく笑っている。
「まず一つ、長谷川先輩の言葉には事実と異なる部分があるんですけどー、クーラーがある部屋を欲しがっているのはこちらの小鳥遊君だけですよー。私達四人はお昼は教室でもいいですし」
「なるほど。しかし、小鳥遊君一人とはいえ、それを聞いた以上、部の設立は認められないな」
「えー、なんでー!?」
「何故って……そりゃー部本来の目的と違うし、学園規則の迷宮探索に有用な活動や学園にとって有益な活動でもないからね」
「本来の目的と違う……ですか?」
「うん、違うだろ?彼の目的は部室のクーラー。けどこの部の目的は企業案件のPR活動って書いてある。全然違うじゃないか。これは流石に通すわけにはいかないなぁ」
天王寺は言いにくそうにしながらもはっきりと首を横に振る。残念ながら通らなそうだ。
そう思っていたのだが、星空がなおも食い下がる。
「ワン君の主目的は確かにクーラーのついた部室が欲しいからですけど、部に入るのなら消極的ながらもこの部の目的である企業案件を受けてもいいと言ってくれています!」
「うん?うーん、まあ続けて」
「先月、小鳥遊君に依頼が来た案件の数、おいくつだと思いますか?」
「うん?案件の数?」
「はい」
「うーん、僕は動画配信者じゃないからよくわからないけど、まあ2、3件ってところじゃないかな?」
「いいえ、12件です!」
「12!?それは凄いな!」
星空の言葉に天王寺を含めた生徒会のメンバーが騒めく。
12……。あれ、俺、星空に案件の提案されたの2回だったと思うけど。もしかして提案してたの、厳選した2件だったのか。断ったけど。
「はい!ですが、現状それら全てをお断りしている状況です……。でも!小鳥遊君がこの部活に入ってくれれば、全てとは言わなくとも幾つかの企業様からのご依頼を受けてくれるかもしれません!」
星空は両手をぐっと握りしめて力説する。
「……」
「小鳥遊君がこれを機に案件や迷宮に興味を持ってくれれば、社会貢献に繋がりますし、また、案件でいただいた最新の装備やアイテムをいち早くこの学園の生徒に紹介出来ます!それはこの学園にとっても、学園の生徒たちにとっても利益になるのではないでしょうか!」
沈黙する生徒会のメンバーたちに、星空は矢継ぎ早にメリットを紹介する。
それに対して、天王寺はしばらく考えた上でゆっくりと話す。
「僕は……ありだと思うけど、皆んなはどう思う?」
「私はもちろん賛成です!是非ワン様に迷宮へのご興味を持っていただくことが、この学園、強いてはこの日本にとっても大きなメリットになると思います!」
「私は反対。迷宮への目的もお金目的って言ってるし、部活を作る動機が不純すぎるわ。こんな理由で部活の創設なんて認めたら、後でなんて言われるか」
花園がいち早く反応して熱く語り始める。逆に長谷川は冷めた様子で話している。
長谷川が反対を示すと、花園が長谷川を笑顔で見る。
「長谷川先輩、動機が不純なことの何がいけないのでしょうか?この学園は実力主義。言い換えれば実利主義、とも言えます。ワン様がクーラーを目的にしようが、何を目的にしようが、ワン様がこの部活を作り、部活動を行うことは社会にとっても非常に大きな貢献となるのは事実です。であれば目的など些細な問題ではないでしょうか?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
言い淀む長谷川を見た天王寺が口を挟む。
「まあまあ花園、少し熱くなりすぎだ。長谷川の意見も一理あるんだし、そうかっかしないで」
その言葉に花園はハッとして長谷川に頭を下げる。
「長谷川先輩、大変申し訳ございませんでした。少し熱くなりすぎてしまった様です。非礼をお詫び致します」
「いや、別にいいけど。千草があいつにお熱なのは知ってるし」
そう言って長谷川は俺に視線を戻す。
「でも、やっぱり私は反対。特例の例外を認めることは今後を考えると良くないと思うから」
「なるほど。では、決を取ろう!賛成の人、挙手」
そう言うと天王寺、花園を含めた五人が手を上げた。
「賛成多数。では、生徒会は『企業案件PR部』の創設に認可する」
「おお!」
「やったー!ありがとうございまーす!」
「いや、まだ喜ぶのは早いよ。これからこの案を学園長に持って行って正式な認可をもらわないといけないから」
驚きに思わず声を上げる俺と、素直に喜ぶ星空に天王寺が釘を刺してくる。
「それと、学園長に認可を貰う際、今の話はさせてもらうけど問題ないね?」
「うーん、はい!大丈夫です!」
星空は少し迷った様だが、結局頷いた。まあ後で取り消しにされても困るからな。
「うん。じゃあ明日にでも理事長に話をしに行くから、結果は追って連絡するよ」
「はい、ありがとうございます!」
天王寺の言葉に星空は明るく返事をする。どうやら上に話をしに行ってくれるらしい。
よく通ったな。クーラーのある部屋を使いたいからなんて理由で部活創設申請出す人間なんて日本でも俺くらいだろう。
「では、これで失礼しまーす!本日はありがとうございました!」
「ありがとうございました」
そう言って星空と生徒会室を出る。
数日後、『企業案件PR部』は理事長公認の元、無事設立された。




