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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第六十七話 十層

10層の荒野をしばらく歩くと、隆起した鉱山の一つに到着する。


中へと通じる坑道は幾つかあり、二年生であろうパーティーが坑道の前で準備をしていた。


「着いたな!では早速、諸君、準備はいいな?いざ参ろうではないか!」

「「「おー!」」」


そう言って右京がマントを翻して先頭を歩き、空いている坑道の中に突き進んで行く。

その後ろを、他の三人も右拳を上げてついて行く。


事前に聞いていたが、どうやら本当に陽キャ集団らしい。如月達がいなかったら危うく星空の策略でAクラスに入れられるところだった。

危ない危ない。


「はぁ……」


ため息を一つ吐き、四人について行く。


坑道を腰に付けるカンテラ型の灯りで照らしながら進むこと数分、三体のオークとエンカウントする。


「はーっはっはっは!出たなオーク!我らにあったが貴様らの運の尽き!行け、ザ・ワン!オーク共を皆殺しにするのだ!」

「……」


俺かよ。いや、行くけども。


腰の鞘からベビーメタルソードを抜き、走り出す。


「ブモォォォォォォ!!」


前に出て走り出した俺を見たオーク達も棍棒を片手に叫びながら突撃してくる。


そして後数歩で交差する、というタイミングで更に速度を上げる。


先頭のオークが慌てて棍棒を振り下ろすが、振り下ろそうとした時には既に後ろのオークの前に到着する。


「ブ、ブモ!?」


突然速度を上げた俺に驚く二体目のオークに、下からの切り上げをお見舞いする。


今日は俺の素のステータスではあるが、既にここのマージンを大きく超えている。

刃は軽々とオークの肉体を切り裂き、一撃で仕留めると、続けて三体目に突撃を敢行する。


三体目は俺の速度に併せて、棍棒を振り下ろすが、遅過ぎる。技術もへったくれもない単なる振り下ろしを軽々避け、下がった頭を一閃で斬り落とす。


二体が黒いモヤとなり、消えていく中、取り残されたオークがこちらを警戒して武器を構える。


「はーはっはっは!見たか醜い豚共!これが我が契約した使い魔、ザ・ワンだ!」


右京が腰に手を当て、大声で笑う。

俺、別にお前の使い魔じゃないけど。てか使い魔って何だ。


「さっすがワン君!瞬殺!」

「ヒューヒュー!」

「すっごーい!」


右京の後ろでは三人がそんな歓声を上げている。


俺はそれを聞きながら、剣を地面に突き刺す。

彼女達との契約により、指定の数までオークを減らす事。それが俺の今日の任務だ。


とりあえず一体。


試しに戦ってみたいのだそうだ。


戦意が失われた俺をみてオークは戸惑う。俺はオークに対して、あっちへ行けと手でしっしと払う。


人間のジェスチャーが通じたのか分からないが、俺が背中から襲う気がないのが分かったのか、雄叫びを上げながら、星空達の方に突撃を敢行し始めた。


「ブモォォォォォォ!」

「はっはっは!まさに豚の足。遅すぎて欠伸が出るわ!シャドウハンド!」


右京がそう叫ぶと、右京の影が伸びていき、走るオークの真下から真っ黒い影の腕が飛び出てその足を掴み取る。


「ブモッ!?」


突然足を掴まれたオークは、その巨体と速度のまま、派手に転ぶ。その機を逃さず清水が前に出る。


「次は私だよ!獣化・猫!」


清水がそう叫ぶと、清水の頭から半透明の耳が出て、その背後には同じく半透明の尻尾が出てくる。

さらには両手からは半透明の鉤爪が出て来ており、あれで引っ掻き攻撃を行うのだろう。


獣化ね。そんなスキルがあるんだ。猫って事は犬とか虎とかとあるのかね。まさかキリンやゾウとかもあるのではないだろうか。あるのだとしたらどう変化するのか、非常に興味があるな。


「うにゃーー!」


清水がそう叫び、オークに飛び掛かる。

オークもそれに反応して、拳を振り上げるが、清水はそれを華麗に交わして、オークに数回の爪による斬撃を与える。


「ブ、ブモ……?」


爪による攻撃を与えられたオークは身体が痺れたかの様に動きが緩慢となる。

あれはもしや麻痺か。


どうやら清水の鉤爪による攻撃には麻痺属性らしき状態異常が付与されるらしい。


「玲央ちゃん!魔法行くよ!」

「はいにゃー!」


星空の掛け声に応じて、清水が飛び下がる。


「サンダーボルト!」


痺れて動けないオークに星空のサンダーボルトが直撃する。しかし、オークはその一撃に耐え、息絶え絶えに体を動かそうとする。

だが、そんな瀕死のオークに春宮が杖を構える。


「レイ!」


春宮が呪文を唱えると、杖の先から光線が出てオークを貫通する。そして、とうとうオークは事切れて黒いモヤとなって消えていき、最後には魔石が一つ残るだけだった。


春宮はヒーラーと聞いていたからてっきり治癒魔法使いだと思っていたが、光魔法使いだったのか。


光魔法も専門の治癒魔法ほどではないが癒しの魔法を使える。代わりに通常魔法の攻撃力が他の魔法よりも少し劣るという弱点も存在する。


つまり星空のパーティーは右京が相手を足止めし、清水が前衛で掻き乱し、メイン火力に星空、サブ火力兼ヒーラーとして春宮が敵を殲滅する、というスタイルなのだろう。


「やったー!初オーク撃破ー!」

「いぇーい!」


パチンとハイタッチをする星空達。


コメント欄も盛り上がりをみせている。


まあ一体ならこんなものだろう。

この10層ではオークは最大五体出てくる。


それでも彼女達なら安定して問題なく倒せるのではないだろうか。


それから三時間、みっちりと彼女達のオークとの戦闘訓練に付き合った。

戦闘するオークの数を順番に上げていき、今では五体のオークを倒せる様になって来た。


Aクラス最強を名乗っているだけあって、右京の影魔法がかなり強い。

攻撃力も高いのだが、影の手を自由自在に動かすことができるらしく、とにかく応用力が高い。


本人曰く魔力量も多い様で、三人の中で一番魔法を連発しているが、まだまだ余裕の様だ。


春宮は回復魔法のために魔力を温存しているらしく、レベル1の魔法しか使わない。


唯一の前衛である清水はこの二時間、一度もオークの攻撃を受けることなくかわし続けていた。


いわゆる避けタンクというやつなのだろう。


コメント欄で心配されていた様に、正直バランスはあんまり良くないが、それでもしっかりと安定した強さを発揮している。


欲を言えば、せめてもう一人、前衛が欲しいところだろう。火力はもういるので、どっしりと魔物の攻撃を受けられるタンクが欲しいところだ。


そう思っていると坑道の出口へと辿り着く。


今日はこれで解散。五体のオークも問題なく倒せることが分かったので、次からは俺は不要だろう。


「では、皆のもの!今日はここまでとする!さらば!」


そう言って右京が配信を切り、各々も配信を終わらせる。


「それにしても流石は人類最強の1レベ、ザ・ワン!貴様が望むなら我が眷属の一員として加えてやらんこともないぞ?」

「眷属って何だ?」

「眷属というのは我が手足として、我の側で仕えることを許された者のことだ」

「……おまえ、もしかして頭がおかしいのか?」

「ふっ……」


至極当たり前の返答をしたつもりなのだが、右京が哀愁漂わせる様な顔で笑う。そしてそのまま春宮に抱きつき、俺の方を指差す。


「あいつ、冷たくて嫌い」

「はいはい、透ちゃんは良い子だねー」


春宮は抱きついて来た右京を抱きしめ返して頭を撫でる。頭のおかしな奴を甘やかしても碌なことにならないぞ。


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