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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第六十六話 星空のパーティー

「やっほー、ワンくーん!」


学校帰り、迷宮に潜ろうと寮から迷宮への道で、後ろから声を掛けられる。


振り返ると星空とは別に三人の女子生徒が立っていた。


「おう……友達か?」

「そう!それとパーティーメンバー!」


星空はそう言うと、横にずれ、入れ替わるように三人が前に出る。


「こんにちはー、初めましてー!めぐちゃんのパーティーメンバーのアタッカー担当清水玲央でーす!」

「同じくヒーラーの春宮雫です!」

「そしてー!我こそがAクラス最強の探索者!右京透だ!」

「「「「四人合わせて迷宮系探索者パーティーの『ヴァルキュリア』でーす!」」」」


四人それぞれが決めポーズをして、得意げな顔で俺を見てくる。いや何、どういうこと。ついていけないんだけど。


固まって動かない俺を見た星空がドヤ顔で聞いてくる。


「ワン君、もしかして美少女達に魅入られて動けなくなってる?」

「そんなわけあるか」

「えー、じゃあ私達のこの決めポーズに感想とかないの?」

「ない。だからなんだ、としか思わねぇよ」

「ふっ、分かってないな、ワン君は」


俺が呆れていると、右京と名乗ったマントを羽織ったちんまりした少女が一歩前に出てくる。


「我らは全員配信者!それ故に他にはない強烈な個性が必要なのだ!分かるか!」

「ああ、だからそんな痛いキャラ演じてるのか」

「痛くないわ!」

「目の前で叫ぶな。唾が飛ぶだろ」


汚いなぁ。

俺が嫌な顔で一歩引くと、星空が右京を抱きしめる。


「透ちゃんは魔王キャラだからそれでいいの!」


魔王キャラか。それで人気が取れるのか分からないが、まあ俺には関係のないことだ。好きにやってくれ。


「俺は小鳥遊翔。巷でザ・ワンとか呼ばれてる。ワンとでも呼んでくれ。じゃあ」


そう言って振り返り迷宮に行こうとする。だが、右京が慌てて俺の肩を掴み引き止めてくる。


「待て待て待てーい!ちょっと待てーい!」

「何だ。もう話は終わっただろ」

「まだに決まっておろう!」


おろう?何のキャラ?

キャラ作りするならちゃんとしてくれないか。あと、周りがガヤガヤしてるんだ。注目浴びてるから話は後にしてくれ。


「貴様……話には聞いていたが、こんなにドライだとは……」

「でしょー!いつもこんな感じだよー!」

「クールだねー!」

「うんうん」


四人は本当に仲がいいらしく、四人で顔を見合わせながらうんうん言ってる。まじ何これ。帰っていい?


「本題に入ってくれないか?今から迷宮行くから」

「そう!その迷宮についての話なのだ!単刀直入にいう!我らとパーティーを組もうではないか!」

「断る」

「断るな!」


断るだろ。というか、星空、お前俺の事情知ってるだろ。その俺がパーティーなんて組むわけないじゃん。


そう思い、星空を見る。すると、星空は一歩前に出て得意げな顔で説明する。


「おっほん!ワン君、固定のパーティーじゃなくて数日だけ、一緒に組んでみたらどうかなーっていうお誘いなんだけど、どうかな!?」

「どうかな、じゃない。組まねぇよ」


星空以外の人間がいると魔法も使えなくなるし、気を使わないといけなくなる。しかも一人の方が効率も金策もいい。パーティーを組むメリットなし。


それにも関わらずパーティーに参加する意味がまるで分からない。


「ワン君もそろそろまともなパーティーを組んでみるのもありだと思うの!」

「いらない。ソロで間に合ってる」

「そんなこと言わずにパーティー組みましょう!私、ワン君が戦ってるところ見て見たいです」

「はい!私も見たいです!」


春宮と清水も同調する。


「断る。じゃあな」

「待ちたまえ。ワン君」


即答で断り、迷宮に潜ろうとすると、右京が俺の肩に手を回して来る。馴れ馴れしくない?


「今日から我々は10層に行こうと思っている」

「そうか。だから何だ?」

「10層のオークといえば、エロ漫画の代名詞。か弱き女にあんなことやこんなことをする酷い魔物だ」

「しらねぇけど」


迷宮でオークに犯されたなんて話は聞いたことないぞ。


「我らは見ての通りか弱い女パーティーだ。オークと出くわし、万が一負けるようなことがあれば、あーんなことやこーんなことをされてしまうわけだ」

「いや、普通にボコボコに撲殺されて終わりだろ」


だから迷宮のオークはそんないかがわしい魔物ではないって。


「だからな、慣れるまで少しの間、強い前衛に力を貸して欲しいわけだ。分かるかね?」


分からないんだが。何がだから、なの。あんなことやこんなことはされないだろ。


「まあそっちがパーティーを組みたい理由はわかった。だが、俺にはメリットがないだろ」

「メリット……ふむ。メリットか」


そう繰り返すと、右京はニヤリと笑う。


「スマホを取り出したまえ」


そう言われ、素直にポケットからスマホを取り出すと、右京もスマホを取り出し、何か操作する。


ピロリン。


そんな音がして、俺のスマホ画面の上部にDP管理アプリからの通知が入った。


+15000DP。


そう書かれていた。


「ちょっとした前金だぜ?もちろんドロップアイテムは等分で分ける。働きによってはボーナスも考えている。如何かな?」


得意げな顔をする右京に、俺は満面の笑みで答えた。


「行くぞ!」




10層。


廃鉱山と呼ばれるその階層では、隆起した鉱山にまるで人が作ったかのような支えがされた穴が幾つも開いていた。


そこかしこで開いたその穴倉こそ、この階層の主オークの巣である。


「じゃあじゃあ!配信始めるよー!」

「「「おー!」」」


俺が10層の廃鉱山を眺めていると、横で星空達が配信を始めた。


「配信始まったよー!みんなーこんメグメグー!」


『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』

『こんメグメグ!』


星空が喋ると同時に一斉にコメント欄が挨拶で埋まる。配信の待機時間が五分ほどあったのだが、僅か五分でもう4千人も集まっている。

もう二十分もすればあっという間に一万人を超えるだろう。


星空はもはや人気配信者の仲間入りだろう。


他の三人も同じレベルだとしたら四万人も見てることになるな。すげー。


そんな事を思っていたら、他の三人も挨拶を始めてしまった。


「諸君!ごきげんよう!我は影の魔王トールである!」


『イエス!マイサタン!』

『イエス!マイサタン!』

『イエス!マイサタン!』

『イエス!マイサタン!』

『イエス!マイサタン!』


「こんにゃおーん!レオの迷宮チャンネルのレオでーす!」


『こんにゃおーん!』

『こんにゃおーん!』

『こんにゃおーん!』

『こんにゃおーん!』

『こんにゃおーん!』


「こんはるー!はるはるちゃんねるのハルでーす!」


『こんはるー』

『こんはるー』

『こんはるー』

『こんはるー』

『こんはるー』


「「「「四人合わせてヴァルキュリアでーす!」」」」


『うおぉぉぉぉぉ!!』

『うおぉぉぉぉぉ!!』

『待ってました!』

『コラボ楽しみ!』

『今日もみんなかわいいね!』

『配信感謝!』


「……」


これ毎回やってるの?

星空の配信を横目に見ながら目の前で繰り広げられる挨拶の嵐を見て、俺はそう思った。

めちゃくちゃ時間の無駄だと思うのは俺だけか。


しかも俺は星空の配信画面しか見ていないが、他の三人への掛け声もちゃんと統制されている。


どんだけ鍛えられてるの。


四人とも和やかな雰囲気で、とてもいまからオーク狩りをするような空気ではない。


「そして今日はなんと!我らが念願のオーク狩りに行こうと思う!」


『おお!とうとう10層に!」

『待ってました!オーク狩り楽しみ!』

『大丈夫?パワー負けしそうで心配』

『防御力足りてるのレオちゃんだけじゃない?危なくないか?』


右京がそういうと、コメント欄は応援半分、心配半分のコメントが流れる。


「皆の言いたいことは分かる!アタッカー1、ヒーラー1、魔法使い2の構成でオークは厳しいんじゃないか、という事はな!だから今回、強力な助っ人を呼んでいる!」


『おおー!助っ人!』

『誰!』

『助っ人?もしかして……』

『まさか!』


「人類最強の1レベ、ザ・ワンだーー!」


『うおぉぉぉぉぉ!!』

『うおぉぉぉぉぉ!!』

『とうとうワン君とヴァルキュリアのコラボ!』

『きたーーーーー!!』

『待ってました!!』

『ワン君だぁぁぁぁ!!!」

『やっとワン君がコラボしてくれるのかーー!!』

『嬉しいです!』


本当に熱が凄いね。コメント欄が速すぎて目で追えないよ。


自動浮遊カメラ、通称AFCを向けられた俺は右手を挙げて、軽く挨拶をする。


「ワンです。護衛として雇われました。よろしく」


『よろしく!』

『よろしくー!』

『ワン君きたぁ!!』

『ワン君よろしくねー!』


俺が挨拶をした事で、コメント欄がまたわく。

それを見て満足げな右京は頷く。


「ではでは!挨拶も終わったところで!早速オーク共を根絶やしにするぞ!」

「「「おー!」」」

「……」


根絶やしはまずいだろ。そう思いながら意気揚々と歩く四人について行った。

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