第六十四話 パワレベした
ーー30分後。
道中のミノタウロスを魔法で両脚と武器を弾き飛ばして二人にパワレベしながら歩く。
道中、二人はずっと喋っていた。
最近の流行りのファッションから、今のレベルで欲しい武器や防具、レベルが上がったら買おうと思ってるものなどを延々と話していた。
まあ周りの警戒はあまり必要ないし別にいいけど。
そして小高い丘の上で歩みを止め、如月の方を向く。
「それじゃあ如月、遠くのミノタウロスに大矢を撃ってみてくれ」
「分かったわ」
如月がそう頷くと、背中に背負っていたバリスタを下ろし、前後の四本の足で地面に固定する。
そこには二本の大弓をクロスして重ねたようなバリスタが悠然と姿を見せる。弦もクロスしており、その真ん中には矢を乗せるための台があり、その台に矢をセットするための溝がある。
如月は弦を限界まで引くと、固定し、俺の方に向き直る。
「ここに、これ。バリスタ用の矢を入れるの」
そう言うと、如月は背負った矢筒から先が尖り、螺旋状に削られた五十センチ程の鉄の杭を一本取り、溝にセットする。
「何だこれ、でっか……。矢羽は付いてないんだな」
「ええ、必要ないわ」
「これが銃弾みたいに回転しながら相手に飛んでいくわけか。こりゃ当たったら痛いわ……」
実際は痛いどころでは済まないだろう。文字通り風穴が開きそうだ。
如月は再度溝にきちんと矢が入っているかを確認し、発射準備に入る。
そのバリスタの直線上には五体のミノタウロスがたむろしていた。
「撃つわよ?私が倒せるのは二体までだからね?」
「ああ、あとは任せろ」
俺が頷くと、如月は呼吸を整え、真剣な眼差しをする。そして小さく呟いた。
「シュート」
バシュッという弓では出ないであろう音を出したながら物凄い勢いで矢が飛んでいく。
そして、五体のうちの一体のミノタウロスに当たると、そのミノタウロスは一撃で黒いモヤとなって消えていった。
「おー、如月のレベルと攻撃力で一撃か。すげーな」
「呑気なこと言ってないで。戦闘中よ。奈々美、一応周囲警戒お願いね」
「分かってるわ」
俺がミノタウロスの死に様を眺めている間にも如月は二発目を装填しようとしている。
だが、仲間がやられたミノタウロスが俺達を見つける方が早かった。
雄叫びを上げながら突撃してくるミノタウロスを眺めながら、如月の二発目を待つ。
「装填完了。シュート」
先程と同じ様にバシュッという音と共に矢がミノタウロスに飛んでいき、走ってくるミノタウロスの一体の胸に風穴を開けて黒いモヤにする。
15秒。それが如月の攻撃にかかる時間だ。
ミノタウロス達は仲間がやられながらも猛然と突撃をしてくる。
俺達との距離は既に百メートルを切っていた。確かにこれでは三発目は無理だな。
「ウィンドカッター」
風魔法レベル2の魔法でミノタウロス達の脚を切断する。
「ダークショット」
続いてダークショットを三発撃って武器を吹き飛ばす。安全を確認した俺は如月を見る。
「胸でも一撃か」
「ええ。何なら20層のオークジェネラルでも胸か頭にあたれば一撃で倒せると思うわ」
「へー」
オークジェネラルとやらは知らないが、20層ということは相当強いんだろうな。
それが10レベルの如月で一撃か。
「全武器の中でも最大の攻撃力を持つ一撃必殺に特化した兵器。それが大型兵器なのよ」
如月は自慢げな顔でそう言った。
「なるほどなー。その代わりに使える環境が縛られているわけか」
「そ、そうよ。はっきり言わないでよ」
如月は一転して苦々しげな顔をする。
使える環境が縛られているというか、ほぼ使えない。まず1層などの洞窟は無理だ。そして五層などの邪魔が多い森林地帯も無理だ。更には暗闇も難しい。
使える環境が本当に少ないな。
10層以下だと荒野くらいじゃないか、まともに運用できるのは。
そんなことを考えていると、文月が転がったミノタウロスを倒し、落ちたアイテムの回収を終えて戻ってくる。
「はい、魔石。それと双葉、これ」
「ありがと、奈々美」
俺には魔石五個を渡し、如月には飛ばした矢を二本渡す。
如月はそれを別の筒に入れる。
「そうか。矢だと使い回すのか」
「そうよ。一本三万もするんだから使い捨てなんてやってられないわ。新しく作るのにも二週間も掛かるし」
「……本当に金のかかる装備だな、お前は」
「時間もよ。大型兵器なんて作れる職人、日本に三人もいないんだからね!」
俺は全装備合わせて15万DPしかしない。すなわち、この大矢五本分である。
それを考えると、彼女がこの迷宮探索と自身の夢にいかに本気かが分かる。
だからあんなに必死にあちこちにパーティーを誘ってたのか。投資した金額も金額だしな。
「まあ、次からのパワレベはそれ、置いてこいよ」
「わ、分かってるわよ。貯金ももうそんなにないし」
今日は俺が見たかったので試し撃ちのつもりできたのだ。そんな毎回三万もするの矢なんて撃ってられない。
「ねぇ、話終わった?次行きたいんだけど」
「ああ」
後ろから急かしてくる文月の声を聞き、バリスタを畳んで背負った如月と共に次の獲物を探す。
それから三時間、みっちりパワレベを行い、俺は無事レベル12へと到達する。
二人のレベルは上がらなかったが、次で上がることだろう。
ゲームなら普通このレベル帯なら一日五レベは上がるのに、本当にしんどい。
リアルなんだから仕方ないが、レベルシステムまでリアル仕様にしないで欲しかった。
そう思いながらワープゲートまで歩く途中、如月が思い出したようにいう。
「あ、そういえば、多分あんたは知らないと思うから言っておくけど、最近世界各地の迷宮で階層を跨いだ魔物が出るようになったらしいわよ」
「階層を跨いだ?それはお前らを助けた時のオークのやつか?」
「そうよ。階層を跨いだ魔物はあれで今年三度目。日本だけでも今日までに十回の魔物による迷宮跨ぎが観測されているわ」
「へー、それはやばいな。死人とか出なかったのか?」
「出てないわよ。注意喚起が出てたし、一体だけだから逃げるか戦うかして無事駆除されたって聞いた」
「日本はマージンにうるさいしー、まあ五層下の魔物でも一体くらいならなんとかねー」
「ふーん、あれ?お前らはやばかったじゃん」
正木が死んだフリかましてこの二人見捨てて、文月に至っては脚折られてたし。
俺の言葉に、二人は顔を赤くする。
「あ、あれは正木が調子乗って三対一なら余裕とか言い出して」
「そうよ。私たちは逃げようって言ったのよ!それなのにあいつが飛び出して、しかもあっさりやられて死んだふりされたからで……私達の判断じゃないから!」
「そうなのか」
どうやら二人の話が本当なら正木がアホなだけなようだ。彼我の実力差を見誤って、しかも味方を危険に晒すとは。救えないやつだな。
「そ、そういえば、あんた、あの時のオーク、本当はどう倒したの?」
「ああ、あの時は星空のステをコピーしていたから雷魔法で消し炭にしてやった」
「そ、そうなんだ……あんた、本当にコピースキルを持っているのね」
「信じてなかったのか?今日散々闇魔法使っただろ」
「そうだけど……。やっぱり本人の口から聞くと衝撃的だわね」
「本当よ。売ってくれるなら買いたいくらいよ」
「俺も売れるなら売りたいよ」
三人で歩きながら溜め息を吐く。そして、数分後ワープゲートの前まで着く。
「二人は先に行け。ちょっと時間経ったら俺も帰る」
「ええ。ありがとう。じゃあ」
「ああ」
「週3の約束、忘れないでよね!」
「分かってるよ。じゃあな」
そう言って二人と別れた。
「はぁ……疲れた」
そう言って近くで座り込む。
学校終わりに三時間の戦闘はしんどい。昼飯、もっと豪華にしてもらわないと割に合わないかもしれない。
今度頼んでみようか。
そんなことを思いながら時間を過ごし、二人が帰ってから数分経ったので帰ろうと立ち上がった時だった。
「あれ、ワン様?」




