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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第六十三話 バリスタ

即答で断ったところで昼休みも終わりの時間となり、後ろから掛けられる声を無視して校舎に入る。


既にパーティーは決まっている。一考の余地すらない。


それを説明するのも面倒くさいからな。


教室に戻り、午後の授業を受けた俺は、一度部屋に帰り、迷宮装備に着替えてからワープで15層へと移動する。


15層へと移動した俺はワープゾーンより少し離れた小高い丘の上で二人を待つ。


人は来ないとは思うが、一応万が一を考えての少し離れたのだ。


少し時間が経ち、ワープの魔法陣が輝き出した。

きっと文月と如月だろう。そう思って立ち上がったところ、その格好と人数を一瞬で確認した俺はそのまま地面に伏せる。


まず、五人いる。

その時点で文月と如月ではない。


そして、先頭を歩いていた人間の顔を見て、驚く。


昼に俺に声を掛けてきた花園だ。


その後ろには杖をつまらなそうにいじりながら歩く北条院、その他にも重装備の男子生徒二人と女子生徒一人が歩いていた。


おいおい、ここはレベルに対する階層の難易度が合わない過疎階層のはずだろ。何でこんな所に来てんだ。


「ねぇ、やっぱり他の階層に行かない?」

「姫花さん、前にも申し上げましたが、階層の好き嫌いをしてはいずれ避けられない階層で足を掬われることになります」

「それは分かるけどさぁ……、16階層とかでレベル上げしてからでも遅くないと思うけど……ねぇ?」


そう言って横の男子生徒達に聞く。


「俺はお嬢の指示に従うだけだ」

「んー、俺も姫ちゃんの意見に賛成だけど、お嬢がやるって言ったら意見変えないっしょ?ならしゃーなくね?」

「同意」


禿頭の男が岩男のような雰囲気で言い、チャラそうな軽装の男が頭をかきながら笑っている。


もう一人、忍びの様な雰囲気と服装を女子生徒が立っている。


あれが花園のパーティーか。


しかも、話を聞く限り、彼女達は順番に階層を上がっているらしい。そういえば前に星空が花園のパーティーの最前線は14層だとか言っていたな。


「でもさ、やっぱり怪我とか多くなってるし、取り返しのつかないことになる前にちゃんとレベルとステータス上げてからの方がいいと思うんだよね」

「何ー?姫ちゃん、自分の心配ー?」

「あたしはあんた達を心配してんの!昨日だって達也がミノタウロスの突撃受けきれなくて右腕骨折してたし……」

「あれは俺が未熟だっただけだ」

「うわー、さすがママ。俺達の心配までしてくれるなんてこりゃ流石ですわ!」

「だからママっていうなっつってんでしょ!星空の配信のせいで最近クラスメイトからもママって言われる様になったんだから!」


茶化すチャラ男に対して北条院が怒鳴る。北条院は仲間にもあんな態度だったんだな。


「申し訳ございません。皆様、私のわがままに付き合ってもらって」

「しゃーないっしょ!お嬢のわがままは今に始まったことじゃないし」

「同意」


そう言って五人はワープゾーンから離れていった。


「あいつら、しばらくこの階層で狩りをするのか。困ったな……」


階層は広いとはいえ、歩き回っていれば鉢合わせをするかもしれない。出来るだけ端っこの方でパワレベをするか。


それから数分後、またもやワープが光り、生徒が二人現れる。


その姿と顔を確認した俺は立ち上がり、その二人に近づいていく。


「おーっす」


声を掛けられ俺に気付いた如月が返事をしようとして俺の服を見ておもろく。


「小鳥遊……ってあんた、何でもう服汚れてるの?」

「ああ、これか。ちょっと寝転がってた」

「うつ伏せで?意味分かんないんだけど」


うつ伏せで寝転がっていたので俺の服には草と泥が少しついていた。

それを手で払いながら2人を見る。


「まあ気にするな。それよりも……それが700万のバリスタか」


俺の視線は、まず如月が背負っている真っ白で巨大な弓に目がいく。全長2メートル越えのそれは弓の上部と下部が二股に分かれている。その下部には地面に固定するためであろう前後にストッパーの様なものが付いていた。


なるほど、あれをまず地面に固定してから使うんだな。


「てっきり弩を巨大にしたやつかと思っていたんだが、弓に近いな」

「そうね。でも武器の種類としてはバリスタで間違いないわよ」

「へー」


大弓、というには少し大きすぎる。ただバリスタ、と言われるとうーん、ちょっと小さい気がする。


「これが個人で運用できる唯一の大型兵器か……。確かにまだ個人でギリギリ運べるな」

「普通の、が前に着くけどそうね。少し重いけど、スキルと合わせて一応走れる位には移動も出来るわ」


なるほど。4、50キロはありそうなそれを軽々と持ち上げられているのはスキルのお陰なのか。


「それで……」


そう言って文月の方に視線を映す。正確には文月の長槍に、だ。


「お前、そんないい武器持ってるなら前回持って来ればよかったじゃないか」


如月のバリスタ同様二メートル近い長槍なのだが、前回のパワレベの際は安い適当な槍だったのに対し、今回の文月の槍は水色に輝いている。


間違いなく迷宮産の鉱石によって作られた武器だろう。


「買ったのよ。パワレベのためにね」

「え、買ったの?マジで?いくら?」

「500万円くらいよ」

「ご、500……?お前バカなのか?」


文月は何でもない様に言う。

如月みたいにスキルが確定しているならともかく、文月は武器使用時にバフがつく様なスキルは持っていないはずだ。


それなのに、自分に合うかどうかも分からない装備にそんな大金を使うとか信じられない。


「べ、別にいいじゃない!私が読モで貯めたお金なんだから!」

「いやそれはそうだけど……」

「色々使ってみたけど槍が一番しっくり来たの!それに別の武器スキルがついてもパワレベで使うでしょ!?なら無駄にならないじゃない」

「お、おう……」


いや、確かにパワレベで使うけど、それで500万の槍をあっさり買うってどうかしてる。二人は小学生の頃から読モをやっているって聞いたが、小学生から働くと金銭感覚が狂うのだろうか。


俺が引いてるのを見た文月が俺の服装を見ながら心外そうに言う。


「あんたこそそんな軽装備で来て……っていうか学校指定のジャージなんかを15層に着てくるとかあり得ないんだけど?」

「俺は別にいいだろ。魔法で近付かせないし」

「そうだけど、ならローブくらい買いなさいよ。みっともない」

「必要性を感じたらその都度買い足す。それが合理的だ」


今の所、闇魔法で一撃で倒せない魔物はいない。だから、杖もローブも買う必要性を感じない。星空は今9層を攻略してるみたいだし、防具もしばらくは要らないだろう。


「まああんたがそれでいいって言うならいいけど。お昼のお弁当代分くらいは頑張ってよね」

「おー、そうだそうだ。お昼のお弁当、めちゃくちゃ美味かった。本当にありがとう」

「え、あ、うん。別にいいけど……」


俺が素直に感謝の言葉を述べると、文月は視線を逸らして髪をいじり出す。だからどこ見て話してんの。


「あんた、感謝の言葉、すごい素直に言うわよね」

「言わないと伝わらないだろ?お昼美味しかったからな。貰った分はちゃんと仕事するから安心してくれ」

「そ、そう?それならいいのよ」


さてと、話はまとまったので早速花園達が歩いていった方とは真逆の方向に歩き出す。


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