第六十二話 質問攻め
十日間の謹慎を終えた俺は、校舎の前で星空と別れ、校舎に入る。
「ねぇ、あれって……」
「Sクラスを一方的に倒したっていう……」
廊下で話をしていた生徒達が、俺の顔を見た途端に顔を背け、久々話をし出す。
しかも、俺は普通に歩いているだけなのだが、前から歩いて来た同級生が俺の顔を見るなり、目を逸らして道を開ける。
それをチラリと見ながらも、俺は気にせず教室に向かう。
教室に入ると、教室内のクラスメイトが一斉にこちらを見た。たった二人、如月と文月だけはスマホをポチポチと触っているだけだった。
「ふーん……」
何だろ。やっぱり謹慎くらって久々に登校するクラスメイトは物珍しいのだろうか。
そう思いながら、俺は自分の席に着く。
席についてもクラスメイト達は俺のことを凝視し続けている。
見ても何も出ないけど。
声をかけるでもなくじっと見ているだけだ。
「ふわぁぁ……」
俺は一つ欠伸をして、無視して次の一限目の準備をする。
結局、四限終わりの昼休みまで声をかけられることはなかった。ただ俺に聞こえるように、
「ほら声かけて聞いてみなよー」
「えー、怖いよー。そーちゃん行ってみてよー」
などと言っていた。
まあ実害がないから別にいいけどな。
昼休み。
クラスメイト達は立ち上がり、各々の集団に混ざって行くが、誰も教室から出て行こうとしない。いつもならクラスメイトの半分くらいは食堂に行くはずなんだけど、何だろ。俺がいない十日間で何かルールでも決まったのだろうか。
まあ俺は聞いていないので関係ない。
そう思って立ち上がり、いつもの屋上に行こうとすると、背後から声をかけられる。
「ワ、ワン君!」
「ん?何だ?」
振り返ると、たまに声を掛けてくる女子が俺を引き留めていた。
「あ、あの、もし良かったら今日一緒にご飯食べない?」
「悪いが先約がある」
「あ、そ、そうだよね。ごめんね」
「いや、いい」
それだけ言って、一度ダンジョン探索用の武器保管室に向かう。
そして俺専用ロッカーの電子キーを開けると、見覚えのない一つの風呂敷が入っていた。
ちゃんと約束通りお弁当を用意してくれているようだ。
午前中に武器保管庫なんて誰もこないからここを指定したのだが、我ながらナイスアイディアだ。
それを持って鍵を閉め、屋上へ向かう。
そして屋上への扉を開けると、いつもの貯水槽が置いてある建物から複数名の女子生徒の声が聞こえてくる。
一人は星空だ。あともう二人いるが、どこかで聞いたことあるようなないような。
そう思いながら、建物の屋上の壁を蹴り登る。
「よっと……ん、お前達か……」
「やっほーワン君!」
そこで座っていたのは星空の他に二人。いつぞやの花園と……誰だったか。名前覚えてないや。
「北条院姫花よ!ちゃんと覚えておきなさいよね!」
「ああそうだったか。火焔姫の方は覚えていたんだがな。名前は印象薄かった」
「あんた失礼過ぎるでしょ!人の名前くらい覚えておきなさいよね!」
「悪かったな」
「ワン様!」
俺が北条院に謝ると同時に花園が割って入り、俺を見上げる。
「ワン様、お久しぶりです!」
「ああ、久しぶり、か?」
一ヶ月ぶりは久しぶりなのだろうか。感覚がちょっと分からないが、まあそう言われたのならそう返そう。
「はい!本当は停学期間中にお会いしたかったのですが……パーティーメンバーに止められてしまいまして」
「そうか」
もじもじし出した花園を横切り、俺は縁に腰掛ける。そして、弁当箱の包みを解いて中身を見ようとする。
今日の弁当は何だろうか。
「今日はワン様に幾つかお聞きしたいことがありまして、足を運ばせていただきました」
「そうか」
おお。今日のお弁当はハンバーグ弁当だ。冷凍物をただ温めただけでは出ないふっくらした肉厚さと、箸で軽く押しただけで噴き出る程の肉汁がたまらない。
「ワン様が謹慎になった理由は、私のクラスメイトである金剛さんに少しお痛をしてしまったからと伺っております」
「そうか」
まずは前菜のほうれん草を摘む。野菜の和え物として苦味のない味付けであり、ほんのりと甘いほうれん草を一口で食べる。健康への配慮とそれでいて細やかな味付けが更なる食欲をそそる。
「ワン様がお強い事は星空さんの配信を拝見して……」
「ちょっと待って、ちーちゃん」
次に卵焼きを食べる。フワッフワの甘口仕立てで、二切れしかないのに一瞬で食べ切ってしまった。
物足りない。まだまだおかずは残っており、今ご飯を食べている最中なのに、食欲が湧いてくる。
「こいつ、全然話聞いてないわ!」
「え、ワン様?」
俺はその食欲に従い、メインディッシュのハンバーグを思いっきり頬張る。
「美味い!」
思わず声が出てしまった。期待通りの味。いや、それ以上。やはり二人とパーティーを組んで良かった。今日から平日は毎日これが食べられるのか。
そう思ってもう一口食べようとすると、目の前で怒鳴り声が聞こえてくる。
「ちょっと!ちーちゃんが話してるでしょうが!」
「あ、あのワン様……その………」
「何だ?今ご飯食べてるんだが」
せっかくのいい気分が台無しだ。というか、この二人は何でここに来たんだ。
「あんたがご飯を食べる前から話しかけてたじゃない!」
「そうだったか?」
記憶にないな。お昼ご飯を食べに来たのだからお昼ご飯を優先するのは当たり前なのだ。
「それで、話は何だ?」
正直興味もないが、聞かないと帰ってくれそうにない。仕方がないので話を進める。
「今ちーちゃんが話してたでしょうが!」
「ぶふっ!」
北条院の後ろで黙っていた星空が噴き出す。
そちらを見てみると星空は笑いを堪えるように口元を抑えていた。その横ではAFCが浮いている。
面白いところなんて一つもなかったと思うが。
「星空!あんたも笑ってないで何か言いなさいよ!」
「え!?も、もうワン君!人の話はちゃんと聞かないとダメでしょ!」
星空が半笑いで注意してくる。
「しょうがないな。何だ?」
「あんたねぇ……」
「あ、あの!ワン様は金剛さんを、その……倒されたんですよね?」
「倒す?いや、倒してなんていないが」
「え、でも病院に送られた、と……」
「ああ、あれは訓練中の単なる事故だ」
実際は決闘だが、対外的にはあれは訓練中の事故である。しかも倒した、などと言っているが、金剛が途中で気絶してしまった為、勝敗が有耶無耶になったままだ。
もしかしたら、俺はお前の靴を舐めてないから負けてない、とか言い出す可能性もある。そんなことを言われたらお手上げだ。また決闘を挑むしかなくなってしまう。
「事故……ですか」
「そうだ。金剛の顎にちょっといいのが数発入っただけだ」
「ちょっといいパンチで顎の骨が粉々に?ワン様はそんなにお強いのですか」
俺はご飯を食べながら答えると、花園が考え事が出来たのか少し俯いてしまった。
「そんなわけないでしょ!絶対に何か隠してるって!」
その横で立っていた北条院が突っ込んでくる。
何か隠してるのは事実だが、俺は嘘はついてない。顎を殴り続けたら骨が粉々になったのだ。数発ではないがね。
そんなことよりお弁当の続きだ。
ハンバーグの残りを食べよう。そう思ってハンバーグに箸を入れる。
「それは、私もそうだとは思いますが……。一体どうすればこの短期間で剣王スキルを持つ金剛さんを倒せるのか……」
「そんなのなんかズルしたに決まってるでしょ……って、あんたまた聞いてないでしょ!」
ハンバーグを口に入れようとした俺に北条院が突っ込んでくる。
しかし、俺は気にせずそのハンバーグを咀嚼し、答える。
「聞いてる聞いてる」
「じゃあ何の話してたか言ってみなさいよ!」
「……」
「聞いてないじゃない!」
北条院がツッコミを入れてくる。
「うそうそ。金剛が剣王スキルを持ってるって話だろ?知ってる知ってる」
「やっぱり聞いてないじゃない!あんたが金剛を倒すのにズルしたんじゃないかって話よ!」
「ああ……あ?ああ……」
「何よその曖昧な返事」
曖昧な返事をする俺に北条院が顔を顰める。
「いや、どうでもいいこと気にするなぁと思って」
「どうでも良くないでしょ。何、本当にズルしたの?」
「いや、ルールは破ってないし、そもそも倒してない。さっきも言ったはずだ」
「倒してないって……金剛病院送りにしておいて何言ってんの?」
「金剛を病院送りにしたら倒したことになるのか?」
「え、何?哲学?意味分かんないんだけど」
「俺がお前をボコして病院送りにしたら俺はお前を倒したことになるのか?」
「それは……ならない、かも」
そもそも倒したっていうのがよく分からん。勝負なら引き分けだし、金剛をボコしたのは手段であって目的ではない。
そもそも金剛が星空に謝ってさえくれれば決闘の勝敗などどうでもいいのだ。勝っても別に湧き上がるものなんてないし。
そう思っていたところ、星空が口を挟んでくる。
「さっきから全然話が進んでないよ!だから私がまとめちゃうけど、ワン君が一方的に金剛をボコったのは事実だし、ズルもしてないよ!」
「そ、そう。ふーん、本当に強いんだ」
「納得したのか?」
「納得というか……まあみた人間がそう言ってるなら信じるしかないじゃない」
そういうと、今度は花園が前に出てくる。その表情は少し赤く上気しており、拳を握りしめている。
「ワ、ワン様の強さを見込んでお願いがあります!」
「何だ?」
「私とパーティーを組んで下さい!」
「嫌だ」




