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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第六十一話 この世で最も平等な価値観

俺はお金が好きだ。


何故ならこの世の全てのもの達に平等にその価値を提供し、全てのもの達が平等にその価値を見ているから。


一万円札は一万円。五千円札は五千円。千円札は千円。五百円玉は五百円。百円玉は百円。


これはどこの誰が使おうと不変の価値である。


大富豪が出した一万円が二万円になることはなく、公園で寝泊まりする浮浪者が出した一万円が五千円になることはない。


世界中のどのような徳の高い善人が使おうと、どのような極悪非道な悪魔が使おうと、また、人間以外の動植物、その他万物の存在が使おうと、一万円札は一万円の価値を平等に全てのものに提供する。


この世にこれ程平等な存在が他にあるだろうか。


いやない。


お金以外の物であればこうはいかない。

何故なら、物に対する価値を決める人々の価値観は違うから。


定価が三万円のゲーム機を妥当だと思う人もいるだろう。

五万円でも買うと思う人もいるだろう。

逆に、一万円でも買いたくないと思うものもいるだろう。


つまり、定価三万円のゲーム機の価値は人によって異なるのだ。


だが、お金は違う。

一万円札に二万円を出す人間なんていない。一万円札が五千円になることもない。


全ての人たちが、その価値に対して等しく同じ価値観を共有している。


この真理に気づいた時、俺は感動に打ち震えた。


この世にこんな平等なものがあるなんて、と。


他人に理解されず、他人を理解できない俺が、唯一他人と共有できる価値観。


それがお金だ。


だから俺はお金が好きだ。何人にも侵されることのない大事な……。




ーー。


「ふわぁぁぁ……」


朝8時。


俺は目覚まし時計の音を聞いて起きる。そしてベッドから起き上がったまましばらくボーッとする。


久しぶりの早起きだ。

この十日間、昼夜問わずゲーム三昧になっていた俺は夜型の身体になってしまい、こんな朝早くの時間に起きることが苦痛になってしまっていた。


「だるい……」


そして眠い。


昨日も23時には布団に入ったのに、結局寝れたのは午前2時だった。6時間しか寝れてない。


とはいえ流石にサボるわけにもいかないだろう。


「しゃーない」


俺はのそのそと布団から這い出て朝の準備を済ませる。


そして、制服に着替え、バッグを背負って寮を出る。


今日から十日ぶりの学校だ。そして禁止されていた迷宮への入場も解禁される。


DPは潤沢にあるものの、目標金額には程遠い。早々に迷宮に行って金を稼がねば。


文月や如月、星空とのパーティーの約束もある。あまり人と関わらないようにしていたのに、いつの間に他人との予定でスケジュールが埋まっているようになってしまった。


今までの人生で他人との予定を合わせるということがほとんどなかった為、半分以上埋まっているスケジュールアプリを見て戸惑ってしまう。


そういえば、星空はあれからも探索を続け、10レベルに上がったらしい。


しかも最近、星空は迷宮配信者として順調に成功しているらしい。


あちこちの迷宮関係のイベントに呼ばれたり、色々な有名探索者とのコラボも果たしているとのこと。


俺は星空の配信を全く見ていないのでよく分からないのだが、どうやら俺にも出演のオファーが来ているとのこと。俺にオファーを出したやつは正気の沙汰ではないだろう。


俺がイベントで明るく人と接するように見えるのか。


当然行く気はない。即答で断っておいた。


どうやらそのせいで星空は幾つかの依頼を断らざるを得なかったらしい。


罪悪感はゼロだけど。


星空の仕事なんだから星空の力で仕事を勝ち取ってくれ。見るのはいいけど出るのは興味ないんでね。


そんなことを思っていたら校舎に向かう途中で、星空が木を背に預けスマホをぽちぽち触っていた。

誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。


俺は気にせずに前を通り過ぎようとすると、こちらに気付いた星空は顔を満面の笑みに変えて挨拶をしてくる。


「やっほー!」

「ん、ああおはよう」

「ワン君、十日ぶりの登校はどんな気分?」


朝から元気な星空に俺は気怠そうに頭をかきながら答える。


「朝から決められた時間に起きて学園に通わないといけないのがしんどい……。改めてニートの素晴らしさを知った」

「つまり?」


俺の顔を覗き込みながら聞いてくる星空に、俺は答える。


「モチベーションは最高だ。今日からバリバリ迷宮に潜るぞ」

「おー!いいねー!頑張るぞ、おー!」


一人で腕を上げてる星空と共に、俺は校舎への道のりを歩く。

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