第六十話 本当は
「え!?ワン君、それ言っちゃうの!?」
星空が驚いている。二人も涙を滲ませた目で俺を見て呟く。
「コピー?」
星空を一旦無視して、二人にスキルの説明をする。
「ああ、コピーだ。俺は他人のステータスとスキルをコピー出来る」
「は?そんなスキル聞いたことが……」
「らしいな。俺の知る限り世界で俺だけが持っているスキルだ」
「そんな……じゃあ、金剛を倒したのも……」
「ああ、三年Sクラスの相園先輩のステータスで戦った」
「そんなの……」
「強過ぎるじゃない……」
二人が絶句している。
「まあ色々あったけどな。自分でも運が良かったと思ってるよ」
「う、運がいいなんて話じゃないわ!」
「そうよ!世界で唯一のスキルホルダーなんて、それじゃあまるで……」
星空達がさっき言っていたマッドマンとかと一緒みたいだとでも言いたいのだろうか。
「迷宮外の外国人の誰かなんて俺は知らんし別に興味もない。戦車は流石に面白かったがな」
かといってこれ以上調べる気もない。もし天文学的数字で会うことになったらコピーしたいな、ということで顔と名前は覚えるつもりだが、それ以上はエンタメ以上の興味はない。
「軽くスキルの説明をすると、コピーをスタック出来るのは今のところ二人だけだ。因みに今は相園先輩と坂田だ」
「坂田?坂田ってクラスメイトの?」
「ああ。俺が一番初めにコピーしたのが坂田だ。入学式で前にあいつがいたせいで色々苦労した。まあ今となっては好都合なのだがな」
危うくコピースキルに気付かず探索者を諦めて学園を去るところだった。
「何で坂田のスキル持ってるの?変えられないの?」
「いや変えられる。ただ坂田のステータスは弱過ぎて俺にとって都合がいいからだ」
「ああ……そういえば配信で……」
「そういうわけで、お前ら二人のパワレベをする時は使わなかったが、これからは基本的に闇魔法を主に使っていくつもりだ。以上」
そう言って俺は二人への説明を打ち切る。それから星空の方を向く。
すると、星空は体育座りをして顔を伏せていた。
「どうした?気分でも悪いのか?」
そう聞くと、星空は顔を上げ頬を膨らませて怒る。
「どうした?」
「コピースキルはワン君と私だけの秘密だったのに……もぉー……」
「そうか……」
そうかとしか出てこない。いや、だから何だ。述語をちゃんと言ってくれ。それとも話は終わったのか。
「話は終わったのか?ならゲームの続きがしたいから帰ってくれ」
「何でよ!」
「いや、二人とパーティー組むって決めただろ?それともまだ話があるのか?」
「あるよ!」
「あんた、今の流れで何で話が終わったと思えるのよ」
星空が勢いよくツッコミ、まだ目の周りが赤い如月がそう言っている。
「俺と星空だけの秘密がなくなったってだけだろ?」
「だけじゃないよ!私の方が二人よりずっと長くいるのに……うぇーん!」
そう言って星空は体育座りをして顔を伏せて泣き出してしまった。
「何でお前まで泣くんだよ!」
もう訳がわからない。
「何、星空はどうして欲しいの」
「ワン君のレベルとステータスが知りたい」
そんなしょうもないこと知ってどうするんだ。可変の数値の現状を知ったところで別に意味ないと思うんだが。
「別にいいけど」
「え!?本当に!?」
星空はすごい勢いで顔をばっと上げた。その目には涙のなの字も浮かんでいなかった。
「嘘泣きかよ」
「えへへ」
「何で照れてるんだよ。褒めてねぇよ」
全く。俺はため息を吐きながらお茶を注ぐ。
「星空、俺のステータス聞いても誰にも話すなよ?」
「分かってるって!」
力強く頷いているが、本当に大丈夫なんだろうな。
「星空がオークのこと配信で話したせいでちょっと大変だったんだからな」
「ごめんごめん。でもすぐにバレるようなことでしょ?」
「言ってくれないと困るんだよ。クラスメイトの前で惚けたのに嘘がバレただろ」
「すぐバレる嘘つくからでしょ!」
ぐっ。星空め、口が上手いな。仕方ない。俺も星空の真似をするか。
そう思って両膝を抱えようとするが、途中で止める。俺、星空に聞きたいこととか別にない。
「ああ、そうだ。二人とも、俺とパーティー組んだことは秘密にしておいてくれ」
「え、何でよ?」
「目立つからだ。これからパワレベとかして行かないとダメだろ。色々探られるのも面倒くさい」
「それこそ今言ったすぐバレる嘘だと思うけど?」
「人のいないところで狩りをすれば早々バレんだろ?15層のミノタウロスである程度レベル上げたら18層の暗闇の渓谷にでも行けばいいだろ。あそこは不人気狩場だからな」
「暗闇の渓谷って……何で不人気か知らないの?辺りが真っ暗で難易度が高過ぎるからよ?」
「闇魔法のダークビジョンがある。風魔法もあるから最悪足を踏み外しても助けてやれる」
「……」
「ダークビジョンって結構魔力使うと思うけど魔力は持つの?」
「2時間なら余裕だ。なんなら倍はいける」
「本当に……?」
「ああ」
疑ってくる二人に対して俺は頷く。そして、飲み物を一気に飲み干して立ち上がる。
後ろからは、如月と文月が小さく何か呟いているが、俺は気にせずベットに寝転がる。
「とにかく、俺との関係は秘密にしてくれればいい。何なら教室で貶してくれてもいいぞ」
「貶すなんて出来る訳ないじゃない……」
「そうか?俺は別に構わないが。まあ俺達の関係を悟られないようにな」
そう言って俺は欠伸をする。なんか疲れたから一眠りしよう。
「じゃあ、私達は帰るわね」
「今日は本当にありがと。これからその……よろしく」
「ああ」
そして二人は部屋を出て行った。
「それでワン君」
「ん?ああステータスとレベルか?」
「いやそっちもだけど、そうじゃなくて……その二人とパーティーを組むって話」
「ん?ああ、まあ上手くやるさ。メリットはお互いにあるしな」
「いや、その……ごめんね」
突然謝ってくる星空に俺は体を起こしてベットに腰掛ける。
「何が?」
「二人に色々教えたの、私なんだ」
「だろうな」
「気付いてたの?」
「いや?でも毎日飯持ってこられたら流石に理由を考えるだろ。金剛の件で迷惑をかけたお詫びなんじゃないか、とかな。確信したのは星空が二人のご飯美味しかったかって聞いて来た時だ」
星空は毎日ここに来ていない。それにもかかわらず、二人が毎日ここに来てご飯を持って来ていることを知っていた。
「あとは意図的か判断に迷うが、ご飯に梅が入っていなかった事もあるか」
「ああ、やっぱり苦手なんだね」
「ああ。酸っぱいのがどうも口が受け付けなくてな」
俺は梅が苦手だ。コンビニの駄菓子で売っているカリカリ梅からご飯に混ざってる梅ご飯も食べられない。
味が嫌い、というよりは梅の酸っぱさがどうにも舌に合わないのだ。
だからおにぎりも梅のおにぎりは買ったことはない。
もしかしたら、位であったが、やはり当たっていたらしい。
「よく見てるな」
「いや、私は梅おにぎり大好きだから」
「なるほど」
自分は好きだからそれを買わない俺に疑問を持ってたわけか。それでもよく見るね、本当に。
「それで、謝る理由が分からん。別に悪いことはしてないだろう?」
「裏で色々暗躍してたわけだし、その、やっぱり不快に思ったりするかなーって思ったり」
「不快に?なぜ?」
「何故ってそりゃ、パーティーを組むのすごい嫌がってたのに、結局組むことになったし……その……」
「さっきも言ったが、俺がパーティーを組むのを嫌がってたのは俺にメリットがないからだ。でも、二人はデメリットに見合うメリットを提示した。だからパーティーを了承しただけだ」
「本当に?二人に同情して……とか……」
「ないな。正直何とも思ってない」
二人のスキルを聞いて、二人が苦労しているというのは理解できた。
叶えたい夢があり、成長の難しいスキルを与えられて、それでも何とかしようと彼女達なりに考えていたのだろう。
そこには彼女達の日本のエルフに会いたいという願いがあり、自身のどうしょうもないスキルでも何とか頑張っていきたいという強い想いがあるのだろう。
だがしかし、俺にはそれが全く理解できない。
何故二人は諦めないのか。二人の目指す道は不可能とまでは言わないが、極めて険しい道だ。
何に使えるか分からない孵化師というスキルに、小回りが効かず、白兵戦に不向きなバリスタを武器とする大型兵器運用適正。
それだけならともかく、二人の初期覚醒度は10%未満と、絶望的に低い。
俺ならば早々に夢を諦めるだろう。
理解に苦しむ。読モとして活動して、将来モデルにでもなれば安定した生活ができるだろうに。
だから俺は二人に対して、同情も共感もしない。可哀想とも思わない。
彼女達には諦めるという道があるのだから。
「でもさ、コピーについて話さなくてもいいのに話してたし……」
「それは……あー、何だ。俺だったら嫌だからだよ」
「ワン君だったら嫌だって?」
「気持ち悪いだろ、横で使えないはずのスキルバンバン使ってるのに何も聞けない状況は」
俺なら普通に気持ち悪い。彼女達にとって俺は一応命を預けてる存在だ。そんな俺が何を使えるのか、何をしているのかも分からず横にいて、安心できるだろうか。少なくとも逆の立場なら、俺はそんな人間に命を預けたいとは思わない。
「うーん、まあそうだけど……」
「星空とあの二人の話を聞く限り、コピーを話しても問題ないと思ったから話した。その方が俺にとっても都合がいいしな。だから別に星空が気にするようなことじゃない」
「そうなんだ……ワン君」
「何だ?」
「ありがとね」
「何が?」
そう言うと星空は立ち上がりながら言った。
「何でもない!」
そう言って部屋を出て行った。
これにて第一章完結です!ブックマークお願いします!




