第五十九話 結論
「エルフ?エルフが迷宮に居るのか?」
エルフといえばあらゆるファンタジー物語に出てくる定番の種族。眉目秀麗で耳が長く、魔法が得意だったり弓が得意だったりと様々である。
しかし、現実には存在しない生物のはずだ。
「あんた、エルフすら知らないの!?いくら何でも……いえ、もういいわ。いるわよ!世界中の全ての迷宮の50層にね!」
文月が驚きの声を上げながらも何かを諦めたようで素直に教えてくれる。どうやらエルフは50層に絶対に居るらしい。
それを見た如月が猫目をジト目に変え、俺のことを睨む。
「あんた……金稼ぎが目的ならエルフはともかく、魔物の卵くらい知っておきなさいよ。見逃したらどうしてたのよ」
「いやそんなこと言われても。アルバイトの代わりの気分だったから……」
正論パンチをされ、俺は少し落ち込む。
コンビニバイトをする前にその店の店長や店員や待遇を調べる人間なんてまずいないだろう。コンビニバイトで調べるのは時給くらいのものだ。
そんな気分で来たものだから、高価なアイテムは全然知らない、というか他のことも全然知らない。
入ったら学べばいいかとか思ってたんだけど、全然そんなことなかった。億越えするアイテム位は勉強するか。
「バイト気分って……。何でこんなのが強いのよ」
「そうよ。理不尽過ぎるわ」
「あははは!でも世界最強のオンリーワン達はみんなこんなものでしょ!」
「……いや、あれらと一緒にしちゃダメでしょ」
「そりゃマッドマンやカタストロフィーよりはマシだけどさ……。てかあのレベルでは流石にないでしょ」
マッドマン?カタストロフィー?どちら様?
俺が頭に疑問符を浮かべながら状況を静観していると、星空が素敵な笑みを浮かべて言った。
「同類だよ、ワン君は」
「は?」
「世界でただ一人の一。最弱にして最強の1レベ」
「「……」」
それを聞いた二人が押し黙ってしまった。
何?今どういう空気?星空は不敵な笑み浮かべながら何で横文字使いまくってるんだ。厨二病なのかな。
俺は自分で注いだお茶を飲みながら三人を眺める。
すると、星空はすぐに破顔して笑顔になる。
「だからワン君がおかしいのは普通のことだよ!」
「何が?」
何処をどう結論づけてそうなったんだ。俺は普通だよ。
あと星空よ、君は俺のことをおかしいと思っているみたいだけど君の方がおかしいからね。お金をいらないって言ったり、突然おかしなこと言ったり。
自覚がないとは怖い怖い。今日から俺が君に常識というやつを教えてあげようか。
まずは対価はちゃんと貰うところから教えてやろう。
などと俺が心の中で思っていると、星空がその笑顔を俺に向けてきた。
「ワン君、以上だよ!もちろん他に何かあれば途中で付け加えてもいいよ!どう?二人とパーティー組んでみない?」
「お願い。叶えたい夢のために貴方の力が必要なの。私達とパーティーを組んで下さい」
「私からもお願いします。このスキルを有用に活用するためにはどうしても手に入れたいスキルがあるの。その為に貴方の力を貸してください」
そう言って、二人が深々と頭を下げた。俺はそんな二人を見ながらお茶をすすり、コップをテーブルに置く。
「いいぞ。パーティー組もう」
「え?嘘……」
「本当に?」
顔を上げた二人が驚いた顔で俺を見ながらそう言ってきたのでもう一度頷きながら言う。
「ああ。パーティー組もう」
「「よかった……」」
俺が再度頷くと、二人は安心したのか泣き崩れてしまった。
「うおっ、何で泣いてんだ!?」
急に泣き始めた二人を見て俺は驚く。何で泣いてるの。
驚いた俺は星空を見るが、星空はなんかホッとしたような顔をしていた。そして、そのまま俺を見て聞いてくる。
「ワン君、結構あっさり決めてるけど、本当に大丈夫?」
「ん?俺は二人にメリットがないからパーティーを組まないって言った。でもこの二人は俺が二人とパーティーを組むメリットをちゃんと提示してくれた。なら、もう断る理由はないだろ」
日本の学校はボッチに厳しいしな。安定してボッチ回避できるパーティーがどうやら必要みたいなので、俺にとってもメリットは大きい。わからないことを気軽に聞けるのもありがたいし。迷宮内の案内役、とでも考えればいいか。ご飯も美味しいし。
「それで、この二人はどれくらい信用できるんだ?」
「え?うーん、二人が目指してる先ってお金や名誉じゃないんだよね。ワン君の秘密を喋ることは二人にとっても百害あって一利なし、だよ。ワン君の邪魔は二人の邪魔でもあるし。そういう意味でも信用は十分出来ると思うよ」
「なるほど」
「うん。だからワン君のあれやこれやを見ても大丈夫!」
星空が頷いてこちらを見ている。あれやこれやというのは俺のコピースキルのことだろう。
星空はこの二人が俺の魔法や特殊なスキルを見ても何も聞かないし、誰にも言わないということだろう。
だがな、星空よ。隣で使えないはずの魔法を使ってるのに、何で使えるのかって疑問に思わせたまま、俺はこの二人といる気はないんだよ。
「二人とも」
「な、何よ……ぐすっ……」
未だ涙ぐんでいる二人に対して俺は言った。
「俺のスキルはコピーだ」




