第五十八話 文月奈々美のスキル
「あたしのスキルは……『孵卵師』よ」
「ふらんし?腐乱……?何かを腐らせる魔法か?」
「孵卵よ!卵を孵す方!」
「卵を孵す方?迷宮に卵があるのか?」
「あるわよ」
初耳だ。
今まで見たことがなかったが、もしかしたら見逃していたのかもしれない。薬草などの採取系のアイテムは知識が必要だし10層くらいの上層では大したお金にならないのであんまり地面を見て探索していなかった。
卵が高いのならこれからは地面を見ながら移動するのもありだ。
「ていうか、何の卵だ?魔物だよな」
「うんうん。もちろん魔物の卵だよ!」
「へー、何の魔物だ?やっぱりその階層の魔物か?」
「違うわ。出てくる魔物はランダムでどんな魔物でも産まれる可能性があるの」
「ふーん。ということは外見じゃ判断出来ないってことか」
「そういうことよ。外見は……見せたほうが早いわね。これよ」
文月はそう言って俺の方に魔物の卵のスクショを見せてきた。
それを一目見た感想は、恐竜の卵みたいだと思った。
卵の大きさはワーチューブで見たダチョウの卵程で、色は淡い緑色っぽい色と黒の縞々で表面は光沢があるのか若干光っていた。
これを見落とすのはちょっとないだろうな、という目立つ外見だった。
「へー、売ると高いのか?」
「高いなんて物じゃないわよ……」
「ほお!そんなにか!なら狙ってみるのもありだな」
「はっ!そんな簡単に見つかるなら苦労しないわよ」
鼻で笑う文月を見る限り相当なレアアイテムらしい。それでも一攫千金を目指す身としては狙ってみるのもありだろう。
これからは魔物を狩りながら地面を見るとかの周囲の観察もしてみるか。
そこで話を終わりこれからの予定を立てようとすると、文月が机を叩いて声を荒げる。
「ちょっと!私が迷宮で先がない理由聞いてないでしょうが!」
「え?いや、卵が手に入りにくいからだろ」「そ、そうだけど……」
「なら迷宮に毎日潜って探索繰り返して卵を見つければ解決だろ?」
「……」
そういうと、文月は黙ってしまう。それを見た星空が横から口を挟んでくる。
「ワン君、過去に販売された魔物の卵の最低落札価格、幾らだと思う?」
「……」
そう言われ、考える。
わざわざ聞いてくるということは相当高いということだろう。
如月は高一で700万のバリスタを購入した。それならば文月もそれ位のお金があると考えるべきだ。
しかし、それ位では何とかならないのだろう。
一千万、二千万というレベルでないとするならば。
「一億……いや、二、三億とかか?」
俺がそう聞くと、星空はゆっくりと首を横に振る。
「四十五億だよ」
「よ……!はぁ!?」
驚いて大きな声が出てしまった。
「正確には約三千万ドル。日本円に換算すると、まあそんな所ね」
「三千万……ドル?おいおい……円の間違いじゃねぇのか?」
「ドルで間違いないよ」
「私も最初に金額を見た時、円だと思ったわよ。でも、魔物の卵の希少さと需要を考えたら妥当ね」
「そんなに希少なのか……」
「そうだよ。去年世界中で発見された魔物の卵はたったの四個。そのうち競売に出された卵は二個。世界中で、たったの二個だよ」
「それは……少な過ぎるな。でも孵卵師なんてスキルがあるってことは卵は孵卵師でしか孵せない……とか?」
「鶏じゃなくても卵からひよこを孵せるのと同じように、孵卵師じゃなくても魔物の卵は孵せるよ」
「そうなのか?なら孵卵師って何に使えるんだ?」
如月の『大型兵器運用適性』は、大型の兵器を使うときに補正が入るというスキル。大型兵器を持ち運びしやすいとか、大型兵器での攻撃時に攻撃力や貫通力にプラス補正が入る。
金剛の剣王スキルなどの大型兵器版と考えれば分かりやすい。
それならば、孵卵師は何が出来るのだろうか。
俺の質問に文月は視線を逸らし、長い髪を指で弄りながら答える。
「卵が早く孵……」
「は?よく聞こえなかった。もう一回言ってくれ」
「だから!魔物の卵が早く孵るって言ってんの!」
「え、それだけ?」
「……」
無言になってしまった文月を見て俺は呆気に取られてしまう。ただ孵化時間を短縮出来るだけなのか。
それは……どうなんだ。
「あ、もしかして孵化師以外が育てるとめちゃくちゃ時間が掛かるとか?」
「いや、人によるらしいけど遅くとも半年で孵るね」
「人によるのか」
「一流の探索者が育てたほうが早く卵が孵るらしいよ。最短で一ヶ月半位で産まれるんだって!」
一般人と一流の探索者の違いは何か。それはおそらく魔力の違いだろう。
探索者はレベルが上がれば魔法の使えない剣士職であっても魔力が上がっていく。
つまり、魔物の卵は主人の魔力を糧に孵るのだろう。
「へー、じゃあ孵卵師スキルがある人間が孵すとどうなるんだ?」
「……分からない」
「分からない?」
「そうよ。恵の言う通り、孵卵師が最初から最後まで魔物の卵を孵した実例はないの」
「そりゃ四十五億もするものをポンと貸し出せないか」
「そうよ。世の中の好事家とかお金持ちとかが魔物を飼いたいからって大金叩いて魔物の卵を買い漁るから私達の元まで卵が来なくって……それで……」
なるほど。珍しいペットが欲しい資産家は世界中に非常に多い。魔物なんてその最たる例だろう。
「孵卵師が早く卵を孵せるっていうのも不確定情報の眉唾物だからねー。ちゃんと数打って試したわけじゃないし」
「それは何も分かってないのと変わらないだろ」
「そ、そういうことよ!可能性の塊なんだから!」
「ポジティブだな」
「そう考えないとやってられないでしょ!」
「それもそうか」
コストがかかり過ぎて確かめようがないスキルなのか。
「二人のスキルを聞いてると、星空のスキルは使いやすくて良いな」
「大体のスキルは極めればどれも有用か強力になっていくけどね。やっぱり魔法系は使い易いよー!」
「そうだな。使い易くて分かり易い。しかも強いしな」
「うんうん!やっぱり雷魔法は最高だよね!」
「いや、雷魔法はもう興味ない」
「酷い!こんなに強くてかっこいいのに!」
星空が膨れて俺を睨む。確かに雷魔法は強いけどソロ向けではない。派手でうるさく、周りの魔物をひきつけてしまうと言う欠点もある。
「そういえば魔法を使える人間の割合ってどのくらいなんだろうな?」
俺は強い魔法を持っている人間を狙い撃ちにして覚えているので多く感じるが、Fクラスだけで見てみると、俺の知る限り火魔法を覚えたとか言う名前も知らないクラスメイトだけだ。
「魔法を使える人の割合?大体十人に一人だよ!」
「そうなのか。ガチャのSRくらいのレアリティだったんだな。ちなみにこの二人のスキルは?」
「SURだね」
「SUR?」
「スーパーウルトラレア!孵卵師なんてスキル、日本で持ってるの十人しかいないし、ふーちゃんの大型兵器運用適性に至っては四人だからね」
「激レアじゃねぇか」
日本に四人しかいないとは少な過ぎるな。
驚く俺を見て、文月達は改めて居住まいを正し、俺をしっかりと見つめてくる。
「話を戻すけど、これが私のスキルよ」
「んー、如月はともかく、文月は運次第じゃないか?」
しかも極めて可能性の低い。世界でたったの四個って。それを見つけるのは至難の業だ。
さらには、スキルが未知数すぎて、実際に見つけられたからといって強くなれるとは限らないわけだ。
「分かってるけど、諦めきれないのよ。こんなスキルだけど、覚醒度も低いけど、それで夢を諦められないのよ」
「夢?」
そう言えば二人が探索者になりたい理由とか聞いてなかった。
俺が二人にそう質問すると、二人は声を合わせてこう言った。
「「迷宮の50層に辿り着いて、エルフに会いたいの!」」




