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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第五十七話 大型兵器運用適正

「リヤン・マークウッド?知らんなぁ」

「はぁ?嘘でしょ?世界的な有名人よ!?」

「ワン君は迷宮に興味ないだろうからねー。それでも迷宮に興味ない人でも知ってるくらいには有名なはずだけど……」

「知らない」


そんなものだ。ゲームとエンタメのワーチューブとかしか興味がない。ニュースとかほぼ見ないので、迷宮探索者など一人も知らない。


「あり得ないわ……今どき小学生だってリヤンの名前は知ってるわよ」

「そんなに有名人なのか?」

「当たり前でしょ!初期覚醒度53%の超人的な才能から始まって、オーストラリア最速の四十層到達レコード保持者にして、世界最速のオーストラリア人初の五十層到達者!ケアンズ迷宮での魔物の準スタンピードにおける……」


如月が頬を赤く染めながら熱く語っている。ごめん興味ない。


俺の無表情に気付いた星空が、笑顔で間に入ってくる。


「まあまあ。言って聞かせるよりも見せた方が早いよ。ほら」


そう言って俺の目の前にワーチューブの再生ボタンだけが浮かんだ真っ暗な画面が出てきた。


「興味ないけどな……」


まあ一瞬だけでも見てみるか、そう思って再生ボタンを押す。


それと同時に真っ暗な画面が一転、動画が始まる。


「ちょっと待て……」


動画が始まった瞬間、俺は停止ボタンを押す。


「んー、どうしたのかなー、ワンくーん?」


星空がニヤニヤ笑いながら俺に問いかけてくる。それをジト目で睨みながら呟く。


「星空、お前……仕込みやがったな?」

「あははははは!せいかーい!あははははは!!」


星空は俺の言葉に大爆笑する。


激しい音と共に画面に映ったのは真っ黒な大きな箱……ではなく、地面を爆走する巨大な乗り物だった。


前面に断頭台の刃の様な歯が付いており、横からは六門もの大砲がのぞき、その上では更に巨大な大砲が載っている。


「何が馬で引く昔の戦車だよ。どう見たって現代戦車の方が近いだろうが……」

「あはははは、最初!最初は馬で引いてたんだよ!最初だけね?」

「今の話をしていたつもりだったんだがな、俺は。しかも何だこの小学生が作った『僕が考えた最強の乗り物』は!?」

「あはははは興味出てきた?」

「出てきた」


そりゃ出てくるだろ。こんな凶悪なブルドーザー見たいなやつ見せられたら流石の俺も続きが気になってもくる。


俺は早速再生開始ボタンを押す。


ボタンを押すのと同時に、激しい音と土煙を上げながらその巨大な乗り物が動き出す。


「……ん?」


数秒して疑問が出てきた俺はまた停止ボタンを押す。


「あれ、どうしたの、ワン君?」

「空が……画面の左にある。何で?」


背景の青空と思わしきものが地面を爆走しているはずの乗り物の上ではなく、画面の左側に見えていた。


おかしい。もしこれが編集された動画でないのだとしたらそんな状況が考えられるのは一つ。


「まさか、崖を走ってるのか?」

「ピンポーン。リヤンは悪路走破スキルによって断崖絶壁の壁すら平地の様に走れるんだよ!凄くない!?」

「凄い」


テンションの高い星空の言葉に素直に頷く。今まで地面だと思っていたそれは断崖絶壁の岩壁であり、そこを黒いブルドーザーみたいな車が爆走していた。


どうやら星空の言う悪路走破なるスキルがそれを可能にするらしい。

壁って悪路って言っていいのか。スキルって何でもありか。


そう思いながら俺は再生ボタンの続きを押す。


爆音を上げながら断崖絶壁を舗装された道路の様に走る車。


すぐに車が出す音とは別の音が聞こえてくる。


鳥の鳴き声をずっと太くした様な声と共に画面に映し出されたのは、全長10メートルは超えそうなドラゴンだった。

しかも、一体や二体ではない。空を埋め尽くさんばかりに現れたそれは色とりどりの体を光らせながら、爆音を上げ続ける車に口を開く。


そして、次の瞬間、空が光り輝いたと思ってしまうほどの輝きと共に様々な魔法が飛んでくる。


「エレメンタルワイバーン。体の色に応じた魔法を使うことが出来て、しかも人間で言うレベル5の魔法まで使うことが出来る。この学園にもしこんなのが現れたら一体も倒せず学院生は皆殺しにされると思うよ。でもね……」


走る車は雨の様な魔法を食らってもびくともせずに壁を走り続け、さらにはお返しとばかりに屋根についた大砲で反撃をして行く。


激しい音と共に発射された光弾はエレメンタルワイバーンの一体に当たると弾け、周りのエレメンタルワイバーンに追尾する様に攻撃をして行く。


「追尾型魔導連装砲。大量の魔石を使う代わりに標的を追尾しながら飛んでいく魔弾を放つ大砲。これも世界で唯一、リヤンだけが持ってる物だね」


星空の解説を聞きながら動画を見る。


弾けた魔弾に当たったエレメンタルワイバーンは、一撃で弾け飛び、黒いモヤとなって魔石やアイテムを残して消えて行く。


それから数十分、鳴り止まぬ大砲の音と共に魔弾が飛んでいき、ワイバーンは一体残らず消えてしまった。


そこで動画は止まる。


「これが世界最高クラスの迷宮探索者か……」

「うん。しかもね、日本人の最高迷宮到達深度は41層。だけど、今目の前でリヤンが軽々と蹂躙しているここは45層だよ」


つまり、日本人の誰もが到達したことがない階層の魔物をリヤンは散歩気分で狩れるわけか。


「それが世界最強の一角。世界で唯一の『兵装召喚』のスキルを持つ歩く人間兵器(オーバーランナー)、リヤン・マークウッドだよ」


ニヤリと笑いながらそう締めた星空は一転、瞳を輝かせながら聞いてくる。


「どう!興味出てきた!?」

「ああ、興味出てきた。あの魔石を拾ったら幾らになるのかな」

「ガクっ!」


星空が机にずっこける。


「何でよ!そんなところどうでもいいでしょ!」

「いいわけあるか。あんな車使ってバカバカ魔道砲放ってたら魔石の消費も馬鹿にならんだろ。あれでエレメンタルワイバーンの魔石が安かったら悲惨だぞ」


面白いスキルだとは思う。しかし、生身の人間で戦うよりも明らかにコストが掛かっている。装備の手入れだけでも数日作業になりそうだし、維持費も相当かかりそうだ。


「もう、あんたって本当に夢がないわね!」

「現実を見ないと飯は食えないぞ」

「もう、ワン君は相変わらずなんだから。この動画五億回も再生されてるバズり動画なのに」


星空が画面を消しながらそう言う。そういえばこれ、何の話だったっけ。


「話を戻すか。つまり、如月は『大型兵器運用適性』で戦車を使うわけか」

「違うわよ。リヤンの『兵装召喚』スキルでもない限り、迷宮内で戦車はあまり現実的じゃないわ」

「そうなのか?あれ、そういえばこの前、700万かけて武器買ったって話してなかったか?」

「おおー、ワン君よく覚えてたね!」

「ふん、ご飯もらったからな」


褒める星空に対して俺はドヤ顔をする。


「うんうん!だけどふーちゃんが700万で買ったのは戦車じゃないよ。リヤンを除く『大型兵器運用適性』のスキルを持つ探索者が使える武器はたった一種」


そう言って星空はドヤ顔で指を立てる。


「バリスタよ」


だが、如月がそれを遮り、答えを言ってしまう。


「あー、もう!私が言いたかったのに!」

「何でよ」


星空がむくれ、如月が呆れている。

全くだ。如月のことなんだから別にいいだろうに。


「なるほど。つまり如月は700万かけてバリスタを買ったのか」

「そうよ。大矢も含めてそれくらい掛かったわ」

「なるほど」


これで通常使いが出来ない理由ややけに装備が高い理由は分かった。


だが、まだ疑問が残る。


「バリスタは個人で運用できないだろ」


バリスタといえば、数人や牛などで押して移動し、大人程の大きさの矢を放ち、城壁や城門に穴を空けるイメージがある。


そんなものを個人では運用出来ないだろう。

だがしかし、如月がドヤ顔で言う。


「それが出来るのよ。大掛かりにはなるけど一人で設置して大矢を放つくらい出来るわよ」

「へー、ならそれで狩りすればいいんじゃないか?」


そう言うと、途端に如月が苦々しげな顔をする。


「……設置にちょっと時間が掛かるのと一発撃って次弾を装填するのにも時間が掛かるのよ」

「ふーん」

「何?あんたも私のスキル、馬鹿にしてるの?」

「いや、馬鹿になんてしない。大変なスキルもあるんだなって思っただけだ」


バリスタに限らず弓系統のスキルは、矢が消費アイテムの為、金稼ぎが目的の俺からすると、正直使い辛いスキルだ。


しかし、収支を度外視するならば、矢尻に使う魔石の種類を変えられるため、魔法よりも多彩な攻撃やどんな魔物でもある程度対応可能な万能力がある。


迷宮の探索や攻略をメインにして収支を度外視する彼女達ならばバリスタも強みになるのではないだろうか。


「なにそれ……。まあこれが私があんたと組みたい理由。レベルをさっさと上げて『高速装填』とか『設置物自動化』とかのバリスタを使い易くするスキルが欲しいの!分かった!?」

「ああ如月の事情は分かった。それで……文月、お前は?」


先程から胸の辺りで腕を組み、黙って聞いていた文月に質問を投げかける。


「私は……」




ーー。




ワーチューブで五億回再生されたこの動画はこれで終わりだが、実はこの映像には続きがある。

魔物を蹂躙し、魔石を拾うために地面まで降りたリヤンは、車のドアを開け、大地に降り立つ。


そして、車に寄っ掛かりタバコを吸いながら散乱する魔石を見てこう呟いたと言う。


「ああ……嫌いな人間をこうやって皆殺しに出来たらどれだけ幸せか。俺が嫌いな奴は全員死ねばいいのに」


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