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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第五十六話 如月双葉のスキル

俺は感嘆する。


この二人は俺の秘密に対して気を遣ってくれるということか。


「さらに何と何と!まだまだメリットがありまーす!」

「まだあるのか」


凄いな。星空、めちゃめちゃ練ってきてるじゃんか。何でそんなにこの二人に協力するのかはよく分からないが、どうやら俺に本気でこの二人とパーティーを組んで欲しいらしい。


「この二人とワン君がパーティーを組んで狩りをする時の取り分は3:1でいいそうでーす!」

「3:1?どっちが3?」

「もちろんワン君だよ!」

「マジか……いいのか?」


驚いた俺は二人を見るが、二人は見る。


「学外じゃ使い所が決められてるDPは私達にとって使い辛いのよね。日本円なら読モの貯金やグラファーの企業案件PRで貯金はまだあるし、今はお金より経験値が欲しいの」

「そうそう。お金で経験値買うって考えるなら正直かなり得」

「それに狩りじゃ結局あんた頼りだしー?それで同じ分前を貰うってはおかしな話じゃん?」

「だから守銭奴のあんたにDPは上げるって言ってんの!」


誰が守銭奴だ。しかし……3:1か。ということはこの二人は俺との狩りで得られる報酬は一人につき、全体の八分の一という事になる。


確かにDPは学外では使い辛いし、日本円に変換、もとい換金するのは手間がかかるとはいえ、モノやサービスと等価交換可能な立派な通貨である。


迷宮探索という労働を行い、その対価が同じパーティーメンバーの六分の一と言うのは如何なものか。


俺なら嫌だ。意味分からん。ふざけるんじゃない。そう思ってしまうだろう。


それなのに彼女達はそれを受け入れると言う。全くもって理解に苦しむ。


彼女達はお金よりも経験値が欲しいと言っていた。確かに時間をお金で買う、という考え方はある。


しかし、それ以外にも俺に対して非常に有利な条件を組まれている。そこに加えてお金までいらないとは。幾ら早く強くなりたいとはいえ限度があるだろうに。


「理解出来ねぇなー。何故そこまでするんだ?ここまで割に合わない条件を提示してまで俺とパーティーを組む理由って何だ?今からでも他の生徒とでもパーティー組めばまともな探索者としてはやっていけると思うが……」


迷宮への強い想いがあることは分かった。ここまでしてでも早くレベル上げをしたいのだろう。


しかし、迷宮探索者として普通に活動するのであれば、ここまでする必要はない。俺たちの寿命は確かに有限ではあるが、彼女達はまだまだ若いのだ。

覚醒度が低いと言ってもレベルが上がらないわけではない。

今でも毎日迷宮に潜っているようだし、じっくりレベルを上げていけば、彼女達のやりたい迷宮探索とやらも捗るのではないだろうか。


そう思ったのだが、俺の言葉に二人が暗い顔をする。


「このまだと私達には先がないからよ」

「先がない?何だ?死ぬのか?」

「違うわよ!探索者としてやって行くのが難しいって話!」


何だ違うのか。神妙な顔で先がないとか言うから病気で死ぬのかと思ったぞ。


「探索者としてやって行くのが難しい?レベルは上がってるんだよな?スキルもあるしゆっくりやっていけばいいだろ?」

「あんたと違ってレベルは上がるしスキルもあるわよ。でも私達のスキルは何というか……」

「何だ?もしかして戦闘系のスキルじゃないのか?」


いつぞやの薬井先輩のようなヒーラーか、それとも俺が剣を買った先輩のように鍛治師系などのいわゆる生産職のようなスキルに目覚めたか。

それならば、それを公表すればFクラスだとか覚醒度が低いだとかで馬鹿にされる事なく上級生などが手厚く迷宮探索を手伝ってくれるのではないだろうか。


聞いた話によれば生産職のスキルは細かく分かれており、人によって作れるものが変わってくるのだそうだ。

作って欲しい装備やアイテムがあるけど作れる職人がいない、と言うのは探索者あるあるだ。


それ故に覚醒度に関わらず生産職は重宝されるのだそうだ。


しかし、星空は俺の疑問に首を横に振る。


「違うよー、二人のスキルはちゃんと戦闘職用のスキルだよー」

「そうなのか?なら尚更分からないな。早く強くなりたい気持ちは分からなくもないが、覚醒度とステータスが低いんだ。分相応っていう言葉もある。ゆっくり強くなっていけばいいだろう?」

「ワン君は相変わらず辛辣だねー。けど、ちょっとワン君は思い違いをしてるかなー」

「思い違い?」


どうやら俺の予想は違うらしい。


「んー、二人のスキルは探索者として生計を立てられるレベルまで行った人が凄く少ないんだよね」

「へー」


俺の呑気な言葉に如月が返答する。


「私のスキルは……『大型兵器運用適性』よ」

「大型兵器運用適性?」


何だそのスキルは。聞いた事がないぞ。


「大型兵器運用適性っていうのは大型の武器や装備を操作するのに補正が掛かるスキルだね。まあ名前の通りなんだけど」

「いや、分からん」


名前の通り説明されても分からない。大型兵器って何だ、大砲とかか。


「大型兵器っていうのはいわゆる戦車とかだね」

「戦車?迷宮に戦車を持ち込めるのか?」

「あははははは!ワン君の考えている現代戦車じゃないよ。紀元前とかで使われていた馬で引く方!」

「ああ、そっちか」


二頭から四頭の馬で馬車の様な乗り物を引く、何千年も前から存在した戦争兵器。


あれも確かに大型兵器といえば大型兵器かもしれないが、文字から受ける印象ほどのインパクトはない。

現代の戦車ではないにしろ大岩を飛ばす霹靂車とかかと思った。


「あれで大型兵器か」

「うん、一応個人で運用可能なものでも大型に分類されるからね」

「いや、あれは個人で運用できないだろ」

「それが……出来るんだよ。世界でたった一人だけだけどね」

「まじで?あれを?」


迷宮の入り口には入るから理論上可能ではあるんだろうけど、それはあくまで理論上の話だ。

実際には魔物を殺せるほどの大きな戦車を迷宮内に持ち込み、探索が終わる度に迷宮外に持ち出すのは手間と時間がかかるはずだ。


しかし、星空はゆっくりと頷き、神妙な顔でこう言った。


「オーストラリアのリヤン・マークウッド。世界でただ一人、『兵装召喚』のスキルを持つ歩く人間兵器って呼ばれてる男だよ」

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