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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第五十五話 十日目

それから十日が経った。何故かあれから毎日の様に如月と文月は俺の部屋に来ては弁当を置いて行ってくれる。


弁当の中身は毎日バリエーションが変わっており、味もとても美味しかったので、謹慎中の俺はそれを毎日の楽しみにしていた。


結局迷宮探索は二人で行くことにしたらしく、7層でコボルトソルジャー相手に悪戦苦闘しているらしい。


9レベルとはいえ低ステータスでしかも二人で行くと、7層でもそこそこ大変らしい。


しかも、どうやらこの二人、戦闘スキルを持っていないらしい。

それでどうやって迷宮探索者になるのか不明だ。


コンコンという音がしたので扉を開ける。


「やっほー!ワン君、元気ー!?」


扉を開けると星空が元気よく挨拶をしてくる。星空は数日に一回のペースで俺の部屋に来てはケーキやらお菓子やらを持ってきてくれていた。


その後ろにはいつもの様にお弁当の包みを持った文月と如月が立っていた。


「おおー、元気元気。入ってくれ」


俺は彼女達を気さくに招き入れる。


「お邪魔しまーす」

「失礼するわ」

「ふん!」


最初の時とは違い、文月と如月も遠慮なく俺の部屋に入ってくる。


「さあ早速……」

「分かってるわよ。はい!」


俺が催促をすると、如月は持ってきた弁当箱を乱暴に差し出してくる。


俺はそれを受け取りながら中身を聞く。


「中身は何だ?」

「今日は卵そぼろごはんと、揚げ物よ」


文月が俺の問いに答える。


「おおー、それは楽しみだ」


俺は弁当を台所に置き、三人分の紙コップを出し、お茶を注ぐ。


「いつも通り、好きに飲んでくれ。んじゃ、ゲームの続きをっと……」

「ねえワン君」

「うん?」

「今日は話したい事があるんだけどいいかな?」

「いいぞ」


ゲームの続きをしようとしたが、星空に話があると言われ、自分のコップにお茶を注いで机の前に座る。


「それで……話って?」

「うん、話っていうのはワン君の今後の事なんだけど」

「俺の今後?俺の今後は俺が考える事だからいらないけど?」

「それはそうなんだけど、ワン君、あんまりこの学校のしくみとかわかってなさそうだから……」

「仕組み?」

「うん。ワン君、パーティーを組む気はないって十日前に言ってたよね?」

「ああ言ったよ」

「つまり今後も一人で迷宮に行くつもりなんだよね?」

「そうだ。たまに星空と行くつもりだが、基本一人で行くつもりだ」

「それはちょっと無理だと思う」

「え?」


なんだと。

星空は机に肘をつき、両手の上に顎を乗せてつまらなそうに話す。


「まあワン君も小中学校に通ってたのならわかってると思うけど、日本の学校って今でも変わらず集団行動の場なんだよね」

「……」


俺は、星空の言わんとしていることを察してしまい押し黙る。学園の校則は調べてあるが迷宮探索をソロで行うことは禁止、などとは書かれていない。しかし、ルール以外の強制的なしがらみの様なものがあるのだろう。俺も当然経験済みだ。


「日本は未だに生存最優先の非効率な迷宮探索を推進してるんだよ。まあそのおかげで日本の迷宮内死傷率は世界でもトップクラスに低くはあるんだけど……」

「つまり?」

「これからどんどんパーティーを組まないと出来ないような課題とかが出てくるって事!」

「なん……だと?」


俺は星空の言葉に愕然とする。そんな話聞いたことないんだけど。


「先輩から聞いた話だし、日本の風潮的にもほぼ間違い無いと思うよ。そもそもソロで迷宮攻略とか普通に考えてあり得ないから」

「ぐっ……」


コピー能力の選択のスキルにより複数のスキル、ステータスを持つ俺ならばともかく、基本的にどのような状況でも対応できる万能なスキルなどない。それを補うためにパーティーがあるのだ。

迷宮への日本の国策としてもパーティーを強く推奨しているし、学園としても死傷者を出さないためにパーティーを推奨しているという事だろう。


「本当にこの国はボッチに厳しいな」


俺はそう言って項垂れる。


「ワン君、確か学園長からSクラスへの編入の打診受けてたよね?」

「ああ」

「SクラスじゃなくてAクラスに来てくれるなら、そういう時だけ私のパーティーで助けてあげられるけど?」

「えー……うーん……」


まあ確かにFクラスに固執する必要は正直ない。

正直星空の提案は大変有り難い。

学園長の話は、Sクラスへの編入の打診であったが、パーティーメンバーがAクラスなのでAクラスに行きたい、といえば一考してくれるのではないだろうか。


普段はソロで活動し、必要な時にちょっとパーティーに入れてもらう。俺にとって損のない話だ。


そう思っていたのだが、今まで黙っていた二人が口を挟んでくる。


「Aクラスって超陽キャの集まりって聞いたけどあんた、大丈夫なわけ?」

「そうそう。「クラスで一致団結して頑張ろう!おー!」っていうクラスだけど馴染めんの?」

「え……なにそれ?」

「うーん、二人の言う通り、Aクラスってみんなの迷宮へのモチベーションが凄く高いんだよね。だからFクラスで1レベなのにSクラスの金剛をボコボコにしたワン君のこと、みんな気になってるんだよー!」

「は?」


手を顎の上に乗せていた星空が今度は瞳を輝かせ、拳を硬く握りながら意気込んでくる。


俺は口をぽかんと開けて三人を見る。それはちょっと話が変わってくるんだが。


「因みにワン君がうちのクラスに来てくれたらみんな超大歓迎してくれると思うよ!毎日のようにパーティーのお誘いが来るだろうし、休み時間になる毎に誰かがワン君に話しかけに来るだろうし、休みの日でも毎日誰かがワン君の寮の部屋の扉を叩いて迷宮に誘ってくれるよ!」

「何その地獄。無理なんだけど」


平日どころか休日に人の部屋にまでくるのかよ。そんなの毎週されたら温厚な俺でも流石に怒るよ?


「地獄じゃないよ!天国だよ!みんなで毎日のように迷宮について語りながらご飯食べたり出来るんだよ!」

「いや俺、迷宮一切興味ない。ご飯も一人で食べたい」

「でもでも、もしかしたら迷宮に興味を持ったりー……」

「持たない」


俺が即答すると、星空はまたつまらなそうに顎の両手の上に乗せ、ため息を吐く。


「はぁ、だよねー……。私としては大歓迎なんだけど……」

「お前は俺をそんなやばいところに誘おうとしたのか」

「いやー、ワン君が迷宮に興味を持ってくれるかなって」

「持たない」


やはり星空の感性はおかしい。彼女の誘いは一旦保留にしたほうがいいな。


「じゃあどうするの?Sクラスならやる気のない人は放っておいてくれるけど?」

「いや、金剛と同じクラスは流石に嫌だなぁ……」


学園長の前ではああ言ったが、本音としてはこちらが大きい。

俺がそう呟くと、星空は怪しい笑みを浮かべる。


「ならFクラスでパーティーメンバー探すしかないよねー」

「ん?まあそうなるなー……」


そういえば前クラスの女子にパーティーに誘われていたな。あそこにでも混ぜてもらおうか。


「そこでー!ワン君のパーティーメンバーとしてこの二人を推薦しまーす!」


星空はそう言って文月と如月の二人を手のひらで指す。


「は?」

「だから!この二人をワン君のFクラスのパーティーとして推薦してるの!」

「ああ……」


そういえばこの二人からもパーティーの誘いきてたな。


「ああって何よ!不満なの!?」

「ほんっとあんたって失礼」


俺の言葉に二人が憤慨する。何に怒ってるの。


「ほら、こんなふうに突然怒り出すだろ?」

「はぁ?」

「あんたが……」

「まあまあ。二人とも落ち着いて。ワン君、この二人のこと嫌いじゃないんだよね?」


何か言い返そうとしていた二人を星空が宥める。俺は星空の質問に答える。


「ああ、別に嫌いじゃないぞ」

「それにご飯、おいしかったよね?」

「ああ、うまかった」

「それ、毎日食べたいと思わない?」

「思う」


この弁当は本当に美味しかった。お昼はパンかおにぎりを食べてきたが二ヶ月も似たようなもの食べていると流石に飽きてくる。


だからと言って部屋の外まで並ぶほど長い列を作る食堂でご飯を食べる気にはなれない。


このお弁当が毎日食べられると言うのは非常に嬉しい。


「あんたがもし私達とパーティーを組んでくれるなら、学校がある日のお昼は毎日お弁当作ってきてあげるわ」

「え!?まじ!?」


俺は思わず机に前のめりになって聞き返す。それはテンションが上がる話だ。


「小鳥遊、テンション上がりすぎてキモいんだけど」

「如月、そりゃテンションも上がるだろ。このお弁当まじ美味いんだから」

「そ、そう。なら感謝しなさいよね」

「ありがとう!」


如月は満更でもなさそうな顔でそっぽを向く。それをみた文月が微笑みながら俺に問いかけてくる。


「ってことは小鳥遊、私達とパーティーを組むのは賛成って事でいいのね?」

「え、ああ……うーん……」


俺は悩む。昼ご飯が毎日この手作り弁当になるのは本当に有難い。この二人とパーティーを組む事もメリットは出てきた。


しかし、ここで言うパーティーを組むと言うのは俺にとって必要な時だけパーティーを組む、と言うことではないだろう。


レベル上げ、金稼ぎのための狩りの効率や分配を含めて、この二人と常時のパーティーを組むのはデメリットの方が大きい。


低いステータスはともかく、覚醒度があまりに低すぎる。

俺と一緒にレベル上げをしてもその度に離れていき、その差が縮まることは永久に無い。


俺が狩りに行きたい階層に二人を連れて行くには、パワレベもしないといけなくなる。


さらには俺のスキルも開示しないといけないし、見せればこれは何かと言う説明もしないといけなくなる。話す気は毛頭ないのだが、詰め寄られることを今から考えると憂鬱になる。


それの対価が昼ご飯と授業で必要になる時の安定したパーティーだけというのは少々割りに合わない。


俺が思い悩んでいると、星空が間に入ってくる。


「二人と組むメリットはこれだけじゃないよ!」

「まだ他にあるのか?」

「うん!この二人はワン君のステータス、スキルについて聞かない」

「へぇ……」

「ワン君が迷宮内で使うあれやこれやについても問い詰めない。そういう約束をしたから」

「そうなのか?」


星空の言葉に俺は眉を顰めながら二人を見る。

文月は長い金髪をくるくると指でいじりながら頷く。


「そうよ。私達に必要なのはあんたが強いという事実。それはミノや金剛倒した事見て十分わかったから……私達はそれでいい」

「私は正直不満だけど……あんたが聞かれたくないっていうなら……聞かない」

「ほぉ……」

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陽キャ地獄を使ってドアインザフェイスやりおったw
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