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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第五十三話 訪問者

コンコンコン。


謹慎中の俺の部屋のドアがノックされる。


「誰だよ、全く。休みを楽しんでるというのに」


謹慎期間中、ゲーム三昧の怠惰な日々を過ごしていた。そんな俺の平穏な日々を邪魔する輩を許すことはできない。


コンコンコン。

「……」


俺は居留守を使うことにした。

しかし、来訪者は諦めることなく、ノックの音を強めにしてドアの向こうで大声を上げる。


「ちょっと、ワン君!いるんでしょ!ドア開けて!」


星空かよ。ここ男子寮だけど何で来てるの。


「ワン君!あーけーてー!」


ドアをどんどんしながら更に大きな声を上げる星空に呆れて、俺はドアを開ける。


「よお」

「ワン君、扉開けるの遅いよ!居留守使おうとしたでしょ!?」


どうやら俺の作戦はバレていたようだ。


「何の用だ?ここ男子寮なんだけど」

「いやー、ワン君が一人寂しく謹慎してるんだろうなーと思って来てあげたの!」

「結構だ。楽しく過ごしてるからな。用は終わりか?じゃあな」


そう言って扉をしようとすると、星空がガッと扉を掴んで閉じるのを阻止してくる。


「ちょっと!せっかく来たんだから部屋にあげてよ!」

「嫌だけど?」


何でだよ。俺の聖地に侵入して来るんじゃねぇ。


「えーいいじゃん!こんな可愛い女の子、部屋にあげるチャンスなんて二度と来ないかもよ?」

「二度と来なくて結構だ。分かったのなら手を離してくれないか?」

「もー!相変わらずドライなんだから!ケーキ、買ってきてあげたから!」

「それを早く言え」


星空の言う通り、星空の手には長方形のケーキが入っていそうな白い箱が握られていた。

手土産があるのか。ならば歓迎だ。


「さっさ!こっちに座ってケーキを渡せ」

「ちょっと酷くない?私を歓迎して欲しいんだけど!」

「手土産持ってくる人間は歓迎だ。座ってろ。お茶を淹れる」


俺は袋から紙コップと紙皿を出し、使い捨てのフォークを取り出す。


「生活感ゼロだねー」

「食堂で飯食えるのに食器買う必要ないだろ。洗うのも手間だしな」


この寮にもキッチンはあるが、食堂もある。自炊は面倒くさいので基本的に食堂でご飯を食べている。


紙皿などはたまに部屋でご飯が食べたくなるので学園併設のコンビニでたまに買い食いする時に使っているものだ。


「ほら、星空の分」

「ありがと!」


俺は座った星空の前にも紙皿と使い捨てフォークを置く。


「さてと、ケーキを見るか」


そういうと、俺は閉じてあるケーキの箱を開けて中身を確認する。


「おお、色々あるなー」

「もお、ワン君ったらしょうがないなぁ。好きに選んでいいよ、もう!」


なんか分からないけど呆れた顔をしている星空の言葉に甘えて、俺はケーキを選ぶ。


「チョコレートのやつにしよう」


俺は一番美味しそうなチョコレートのケーキを取る。


「じゃあ私はショートケーキ!」


星空はショートケーキを選んだようだ。

それも美味しそうだ。


「んじゃ、いただきまーす!」

「いただきます」


そう言い、チョコレートケーキを食べる。


「うめー。久々に甘いもの食うと染み渡るー」

「ええ!ワン君甘いもの食べないの!?」

「買って食べることは殆どないなー。甘いもの好きなんだけどね」

「お菓子とか食べないの?」

「あんまり買わないな」


食費は朝食、昼食、夕食と部屋で飲む飲み物くらいだ。


「甘いものは心のガソリンだよ!定期的に食べないとストレス溜まっちゃうよ!」

「そこまでじゃないけど、やっぱり美味しいな」

「うんうん」


そう言いながらチョコレートケーキを食べ終える。

あと二つケーキが残っている。モンブランとフルーツケーキだ。


モンブランを明日にするか、フルーツケーキを明日にするか。

いや、流石にフルーツケーキを一日置くのはやばいか。フルーツケーキを食べよう。


そんなことを思っていると、星空がフォークを置いて真面目な顔をする。


「ワン君」

「ん?」

「ちょっと真面目な話があるんだけど」

「何だ?」

「ワン君ってパーティー組む気はないの?」

「ない」


星空の質問に即答する。


「やっぱり必要ないから?」

「そうだ。一人の方が気楽だし、ステータスやスキルを考えてもパーティーを組むメリットはない」

「でもパーティーの方が連携とかできて楽しいよ?」

「迷宮探索に楽しさを求めたことはないなぁ。迷宮探索は単なる仕事だ」


迷宮探索をするより、家でゲームとかアニメや漫画を見ている方が楽しい。働いて金を稼ぐ職場。迷宮探索とは労働である。


「もう!昨日学年最強を倒したのにそんな夢のないこと言わないでよ!」

「金剛のことか?そういえば、金剛にちゃんと謝罪されたのか?」


そう言うルールだったはずだ。一応金剛は俺の靴を舐めていないので正確には負けてはいないが、内容的には俺の勝利と言っても過言ではないはずだ。


「いやされてないよ。当たり前でしょ」

「そうなのか」


やはり靴を舐めさせないと金剛の負けと認められないのか。仕方ない。フルーツケーキは後でにしよう。


俺はゆっくり腰を上げ、出かける準備をしようとする。


「え、どこ行くの?」

「金剛のところにもう一回決闘挑みにいく。星空に謝ってないんだったらちゃんと謝らせないと」

「いやいいよ!!流石に気が引けるよ!」

「あいつの言葉で傷ついたんだろう。ならちゃんと謝って和解しないと」

「いいって!あそこまでボコボコにしてなお許さないって思うほど鬼畜じゃないから!」


星空が手を前に出して首を横にブンブンと振る。


「鬼畜?ボコボコにするのと許す許さないは別の話だろ。それにボコボコにしたのは金剛が蹂躙するのが楽しいって言ったからされる側の気持ちも教えて理解を深めてもらったんだ」

「そんな純粋な瞳で善意でやりましたみたいな事言わないでよ。本当に大丈夫!ありがとうね!」

「そうか?まあ星空がそれでいいならいいけど」


そう言って俺は再度腰を下ろす。

そんな時だった。


コンコン。


俺の部屋のドアがノックされる。


「それで星空の話は終わったのか?」

「いやその前に部屋のドアがノックされてるよ?」

「無視でいい」

「よくないでしょ」

「いい。ここは俺の部屋だ」

「ワン君の部屋なんだからワン君が出るべきでしょ」

「どうせ大した用事じゃない。帰ってもらう」

「直接言いなよもう!」


頬を膨らませて怒る星空に俺は言った。


「そんなに気になる星空が出て追い返してくれ」

「え、何で?」

「今取り込み中って言って帰ってもらえ」

「ええ、いや一応男子寮なわけだし……取り込み中はその……」


星空は頬を赤くしてもじもじし出す。何言ってんだ。


「別に取り込み中じゃなくても何でもいいから帰ってもらえ」


俺がそう言った時だった。扉がドンドンと強く叩かれ、部屋の外から怒鳴り声が聞こえてくる。


「ちょっと!全部聞こえてんだけど!」

「そうよ!どんだけ待たせるのよ!」


文月と如月だった。どうやら俺と星空の会話を全部聞いていたらしい。


「ほらー、怒ってるー」

「怒ってるな。何でだろうな」

「ワン君が扉をいつまでも開けないからでしょ!」

「普通居留守使ってるの分かってるのに待つ?」

「普通は居留守なんて使わないよ、もおー。せめて開けて応対くらいしてあげたら?」

「フルーツケーキ食べてる。星空応対してくれ」

「もうーしょうがないなー」


行ってくれるんだ。断られると思ったのに。


星空は文句を言いながら立ち上がり、ドアを開ける。


「やっほー、二人ともこんばんはー」

「……恵」

「……一応ありがとうって言っておくわ」


星空が扉を開けた先にはそこには制服を着た二人が立っていた。

如月の手には何か包みを持っている。


「入っていいの?」


文月がそう聞いてくる。


「ダメだけど?」


俺はそう答える。


「あんたのために夕飯持ってきたわよ?」


如月がそう言ってくる。


「入ってくつろいでいってくれ!」


俺は笑顔でそう答えた。


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