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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第三十五話 花園千草リターンズ

次の日、俺は昨日と同じ様に屋上の貯水槽がある建物の上で寝っ転がりながら動画を見ていた。


「それでねー!昨日の狩りはー……」


星空も変わらずにここにきている。最近来すぎじゃないか。友達いないの?


「あ、スパチャありがとー!何々?昨日の千草ちゃんの件どうなったんですか、だってー。ワン君、どうなったのー?私も気になるー!」

「どう、とは?」

「何か進展があったのかなーって!」

「知らん。昨日俺が言った筋トレでもやってるんじゃないか」

「本当にやってたらびっくりするけどねー」

「流石にないだろ」


本当にやろうとしたら周りが誰か止めるだろうよ。

実際に、世界中の研究機関でも筋トレをするよりもその時間迷宮に潜って魔物を狩った方が効率が良いことは証明されている。

彼女だってそれは知っているだろう。


「でも本当にやりそうな雰囲気だったよー。うーん、誤解は解いておいた方がいいと思うけど」

「俺はレベルが上がらない人間の迷宮探索の仕方を教えたんだ。覚醒度が高くてスキルも強いやつの鍛え方なんて教えてない」

「それはそうだけど。うーん、気になるなー」


星空がそう言った時、また微かに階段を上がってくる音がする。


「また誰か来たぞ。ここ最近人来すぎ」

「おー、まあ見晴らしいいしねー」

「俺の平穏を返してくれ」

「ここは一応公共の場だけどね」


そんなこと知ってるよ。だから怒ってるんじゃない。嘆いているんだよ。


そうこうしているうちにガチャリと屋上への扉が開く。


「星空さんとワンさん、いらっしゃるでしょうか?」

「え?いるよ!上がってきなよ!」

「では失礼して」


星空は構わず喋っていたが、下からの声に驚きながらも返答する。

そして数秒後、カンカンという音と共にその生徒が梯子を登ってきた。


「昨日ぶりです。ごきげんよう」

「こんにちは、花園さん!今日はどうしたの!?」


『千草ちゃんきた!』

『千草ちゃんこんにちは!』

『千草ちゃんまた北!これは神回確定!』

『千草ちゃんかわいい』


神妙な面持ちで建物に上がってきた花園を星空が迎え入れ、訳を聞こうとする。コメント欄は花園の登場に沸いている。


「昨日のワンさんがおっしゃっていた訓練を実行しようとしたところ、PTメンバーの方に強く止められてしまいまして……」

「あ、そ、そうなんだー」


星空の瞳が揺れ、口調もあやふやになっている。それにしても本当にやろうとしたんだな。


「はい。PTメンバーの方からレベルを上げられるならレベル上げた方がいいってみんな言ってると。動画なども見せられまして……」

「そうだな。そのメンバーの言っていることは正しい」

「え……」


『は?』

『は?』

『は?』

『お前が言ったんだが?』

『自分の言ったことには責任持て』


花園の唖然とした表情を見せる。コメント欄も荒れ始める。


「で、ですが……」

「レベルが上がるならレベル上げした方がいいに決まってるだろ。実戦に勝る訓練なし」

「……」


俺は寝転んだまま、正論をぶつける。


「そうですか……」

「ああ。お前はレベル上がるんだから迷宮で頑張んな」


いまいち納得が言っていないようだが、俺から言える事はそれしかない。しかし、花園は諦められないようで、俺に懇願してくる。


「しかし……私は、もっと強くなりたいんです!もっともっと強くなって、いつか上位の迷宮の最前線で活躍できるようになりたいのです!」


花園は拳を握り熱く語り、探索者としての生きがいを語ってくる。

そんなこと言われても困る。俺が強いのはステータスが高いからで、花園が強い理由と同じだ。

しかし、そう言っても聞きそうにない雰囲気だ。

仕方がない。


俺はゆっくりと起き上がり、建物の縁に座る。そして真剣な眼差しでしっかりと花園を見つめる。


「俺は一レベルから上がらない。迷宮内のことはお前の方がよく知っているだろう。だから、俺がお前に言えることは精神論の話になる。それでもいいか?」

「は、はい!ぜひご教授お願い致します!」


花園が深々と頭を下げるのを確認した俺は、腰を上げて立ち上がり拳を硬く握り熱く語る。


「優れた人間であるためには百の精神力!そして百の腕力!さらに百の知恵!百の経験と百の幸運!これら全てを持ち合わせなければ他人より優れた功績は残せないのだ!」


『誰?』

『誰だ?』

『誰の言葉?』

『ちょっと分からん』

『キン◯ダムの廉頗じゃね?』

『廉頗?』

『廉頗で草』

『ああ、廉頗かw』

『それ大将軍になるためのものだろ』

『そんなことだろうと思ったw』


俺は熱く拳を握る。そして、花園はその言葉に対して胸に手を当て、神妙に息を吐いた。


「ほぉ……」


『え?』

『千草ちゃん……嘘だよね?』

『え、ヤラセ?マジ?どっち?』

『本当に?』


「さ、さすがはワン様。私、ワン様の言葉に大変感銘を受けました……」


『ワ、ワン様?』

『いや、パクリだよ。それそいつが考えた言葉じゃないよ!』

『気付いて!』

『千草ちゃん目を覚まして!』

『頭が悪い千草ちゃんかわいい』


「そうですよね。人より優れた結果を出すには人の百倍の努力が必要ですものね」


いや違う。この言葉は生まれ持った才能が大事だという言葉で努力の話はしていない。


だが、彼女は感銘を受けたらしい。


「ありがとうございます!私、より一層努力して最高の探索者になりたいと思います!」

「ああ、頑張れ!君なら出来る!」

「はい!では、失礼致します!」


そういうと花園は建物から降りて校舎に入ってしまった。


『マジか……』

『千草ちゃんかわいい。配信してくれないかな……』

『おい、ワン。どうすんだ!』

『ワンさぁ……』

『純真な乙女を騙すなんてサイテーです。見損ないました』


俺を非難するコメント欄を無視し、俺は再度寝っ転がる。そんな俺の態度を見て呆れた星空が疑問を投げかけてくる。


「彼女って頭悪かったっけ?」

「前期の中間は学年一位だったはずだ」

「……」


唖然とする星空を放って俺はまた動画の続きを見る。


まあ努力は大事だ。精々頑張ってくれ。




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