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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百三十二話 決闘の続き

「では、今日はこれまでとする」


六限目の授業のチャイムが鳴り、教師がそう締めくくり教室を出ていく。


あとは帰りのホームルームを待って帰るだけだ。


「キュイキュイ」


授業中に教室内を散歩するのが最近の趣味であるフェイトが、楽しそうに歌いながら俺の元まで歩いてくる。


そして翼をバサバサと羽ばたかせたかと思うと、俺の机の上に着地した。


「キュイ!」

「ご機嫌だな」

「キュイ!」


フェイトはそう鳴くと、机の上に行儀よく座り始めた。

大したしつけはしていないのだが、文月辺りがちゃんと教えたのだろう。ありがたい事だ。


そう思っていると、とうの文月と如月が俺のところまで歩いてきて、声をかけてくる。


「小鳥遊、今日は迷宮潜るわよね?」

「ああ、迷宮内で魔物に試すんだろ?行くよ」


今日はパワレベはお休みだ。と言うか文月と如月が五層までしか行けないのなら俺は必要ない。


そちらではなく、俺のスキル『選択』の検証がしたいらしい。俺もこれで得られるものがあるのならと賛成し、今日は予定を変えて迷宮に潜る事にしたのだ。


「一層でいいわよね?」

「ああ。スライムならろくに動かない。スキル検証にはちょうどいいだろ」

「そうね。なら、すぐ行くわよ」

「ああ、俺も準備が出来次第すぐ向かう」


そこまで話した時だった。


Fクラスの教室の扉が乱暴に開かれ、激しい音が教室中に響き渡る。

そしてその騒音の主は、その音に負けないほどの声で怒鳴る。


「ザ・ワンはいるか!!」


そう怒鳴り込んできたのは金剛だった。

相変わらず騒がしい男だ。


俺は、特に気にする事なくフェイトに目を戻すと、突然の騒音にフェイトが驚いた表情をしていた。


金剛は俺を見つけると、ずかずかと教室を歩いてきて、俺の前までずかずかとやってきて突然手を伸ばし胸ぐらを掴んでくる。


「ちょっ!?突然何してんの!」

「金剛!離しなさいよ!」

「キュイ!キュイキュイ!」


それを見た文月達が騒ぐが、金剛はなおも怒った顔で俺を睨みつけてくる。


胸ぐらを掴まれた俺は、至って冷静に金剛に話しかける。


「何だ?服伸びるからやめろ」

「てめぇのスキルは何だ?」

「突然なんだ?知ってるだろ。転倒阻止だ。分かったら手を離……」

「キュイキュイ!」


俺が何かいう前にフェイトが飛び立ち、金剛の服に噛みつき、手を離させようとしていた。


「あ?」

「キュイ!キュイ!」


金剛が睨みつけるもフェイトは金剛の腕に噛みつき引き剥がそうとしている。

金剛は暴力的な為何をしでかすか分からない。

しかも、ただでさえ、何故か興奮して鼻息も荒い。


そう考えた俺は、フェイトに命令する。


「フェイト。離れてろ」

「キュイ?キュイ!」


フェイトは俺の命令を聞き、金剛の服に噛み付くのをやめ、そこから離れる。


それを確認した俺は金剛の両腕を握り、力を込めながら告げる。


「金剛」

「あんだ!?」

「毎度毎度俺の服を掴むな。服が伸びるって」

「ぐっ……」


結構力を込めたのだが、前回と違い、金剛は服から手を剥がそうとしない。


金剛の表情は、怒りから苦悶へと変わっているが、それでも鋭い目つきは俺を睨みつけたままだ。


俺もさらに力を込めると、金剛の腕からはミシミシという音がしてくる。離さないのならこのまま両腕を握り潰す事になるのだが、そうなる前に離してくれないだろうか。


そんな願いが通じたのか、ここで乱入者が現れる。


「ちょっと!いつまで翔の胸ぐら掴んでんのよ!離れなさいよ!」

「そうよ!」


そう言って如月と文月が間に入り、俺たちを引き剥がす。


金剛は文月と如月に押し退けられ、タタラを踏んで後ろに下がる。


その表情は怒りの表情から一転、驚きに塗り固められていた。


「て、てめぇら……!」

「ふん!どう?Sクラスのエース様がFクラスの底辺に吹き飛ばされる気分は?」

「ざまぁ過ぎて受けんだけどー」


驚く金剛に対して、そう言って二人が金剛を煽る。どうしたんだ、突然。


俺は状況が飲み込めず、乱れた襟首を正していると、離れていたフェイトが俺の肩に止まってくる。


そして、小さい手を伸ばして金剛に掴まれた胸ぐらをパンパンしてくる。


「キュイキュイ?」

「ああ、大丈夫だ」


心配してそうな顔で鳴いてきたので、フェイトの頭を撫でてそう言う。


しかし、目の前では文月、如月と金剛の睨み合いが続いており、収拾が着かなそうだ。


このまま追い返してまた来られても面倒なので、話を聞いてあげる事にするか。


「如月、文月。ちょっと下がれ。俺が話す」

「分かったわ」

「ふん!」


二人は俺の指示に素直に聞いて俺の後ろに立つ。状況を一旦落ち着かせた俺は、改めて金剛に話しかける。


「それで……金剛、お前も一旦帰れ。邪魔だ」

「あ!?こっちの話は終わってねぇよ!」

「分かってるよ。ちゃんと聞いてやる。部室分かるか?そっちに……」

「ざけんじゃねぇ!」


金剛が叫ぶ。


「何故?」

「てめぇ、人をおちょくるのもいい加減にしろって言ってんだ!」

「おちょくってないだろ。話を聞いてやるって言ってる。何が不満なんだ?」

「上から目線がきにくわねぇって言ってんだ!」

「何処が?」

「……っ」


よく分からない言い掛かりをつけてくる金剛に困り、俺は頭をポリポリとかく。


金剛は相変わらず何言っているのか分からない。

ここまでいくとこちら側に話を理解させる気がないのではないかとすら感じてくる。


会話をする気がないのなら俺のところにわざわざ来ないでくれればいいのに。


残念ながら俺には会話をする気のない人間と会話する技術はないのでね。


呆れた顔で金剛を見ていると、怒りの表情のまま俯いていた金剛からゴリっという小さな音がした。


なんだ、と思っていると金剛から何か小さな声がした。


「……しろ」

「なんだ?」

「また勝負しろって言ってんだ!」

「は?勝負なら……ああ、そうか……。分かったよ」

「断んじゃ……何つった、今?」

「勝負を受けるって言ったんだ」


また勝負を仕掛けてくる金剛に呆れ、俺は即座に断ろうとした。しかし、俺は以前勝負した時のとこを思い出し、引き受ける事にした。


金剛は信じられないのか、驚いた表情で俺のことを見てくる。


後ろの二人も信じられないのか、俺の肩を掴みながら前に出てくる。


「あんた正気!?こんな勝負受ける必要ないじゃない!」

「そうよ!」

「キュイキュイ!」


そう言って二人が止めてくれるが、こればっかりは断ることが出来ない。


何せこの勝負は、俺から挑んだ事だからな。


「う、受けるってんならいい。後で迷宮の前に来い!逃げんなよ!」

「分かった」


俺が承諾すると、金剛は何故か動揺しながらも気勢が削がれたのか、それだけ言って教室を出て行った。


入れ替わるようにFクラスの担当教師である橋本が、金剛が出て行ったドアに怪訝な顔を向けながら入ってきた。


「翔!何であんなもの受けるのよ!」

「仕方ないだろ」

「何が仕方ないのよ!」

「まあ後で説明してやるから今は席につけ」


橋本が入ってきたのにも関わらず俺に詰め寄ってくる二人をいなし、席に戻らせたのだった。




ーー。


「やっと来やがったか。ザ・ワン!」


俺が迷宮の前に到着すると、金剛が剣を地面に突き刺し仁王立ちで待っていた。


周りには何故かギャラリーがそこそこいて、俺が来た事により歓声を上げている。


それをぐるっと見渡した俺は、視線を金剛に戻して聞く。


「これ、お前が集めたのか?」

「んなわけねぇだろ。勝手に湧いてきたんだよ」

「そうなのか」


それを聞いて邪魔だなぁと思っていると、後ろで呆れた顔をしていた文月が口を挟む。


「あんたが教室であんな叫ぶからじゃない」

「そうよ。全く、ほんっと迷惑男なんだから」

「あはは……」


二人とは別に、話を聞いた星空も困った表情でついて来た。


二人が金剛を嫌う理由は、殴られたことを根に持っているからだそうだ。


最初聞いた時はいつの事だ、と思ったが、星空から六層で殴られていたという話を聞いて思い出した。


あれ、もう半年前の話だけど、まだ根に持ってたのか。てっきり解決したものだと思ってた。


それそれとしてこっちの話を進めさせてもらおう。


「金剛、今回の件は確かに俺にも落ち度があると思う」

「あ?」

「だが、お前だって曖昧なままにしていただろ?俺はてっきりお前もそれでいいのかと思っていたんだ」

「いいわけねぇだろうが!ふざけてんじゃねぇぞ!」

「ならもっと早く言ってくれ。半年もたった今頃言われても困る」

「分かるわけねぇだろうが!俺だって知ったのは今朝だったんだからな!」


金剛の怒鳴り声に、俺は目を丸くする。金剛の俺に対する態度は合宿の時も悪かった。てっきり半年間不満を溜め続けていたのかと思っていたが、どうやら今朝俺との決闘に思い至ったらしい。


「え、今朝……?」

「あぁ!?」

「今朝……なのか。てっきり、お前はこの半年間不満を持ち続けていたのかと思っていたが違うのか」

「テメェに対してムカついてんのは半年前からずっとに決まってんだろ!」

「ずっと……?何故?」


金剛は俺にずっとムカついていたらしい。理由がわからずそう尋ねると、金剛は額に青筋を立てて怒鳴る。


「テメェが俺をボコして負かしたからに決まってんだろーが!忘れたとは言わせねぇぞ!?」

「ボコして……負かした?」


どういう事だ?

金剛は半年前のあの決闘で負けてたのか。しかし、俺は靴を舐めてもらってない。


「金剛、俺はてっきりお前が半年前の決闘の続きがしたいのかと思っていたんだが、違うのか?」

「続き?」

「そうだ。俺はてっきりお前が怒っている理由は、半年前の決闘の勝敗が有耶無耶のまま放置されたからだと思ったんだが……違うのか?」

「決闘の勝敗?何言ってんだ?むかつくがあの時は完敗だった……。だがな、あれから俺も」


怒りの表情から一転、疑問符を浮かべる金剛の言葉を俺は遮る。


「完敗……お前はあの時負けてたのか?」

「は?お前、何言って……」

「なら何故星空に謝ってないんだ?そういう約束だっただろ」

「あいつに謝る……?ああ、そういやーそういう話だったな。てめぇ、まさか本気で言ってんのか?」

「本気に決まっているだろ。俺はそのために戦ったんだ」


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