百三十一話 選択
「俺の二つ目のスキル?」
星空の言葉に、俺は寝転がっていた姿勢をあげ、座り直す。
三人の顔を改めてみると、彼女達は真面目な顔で俺を見つめ返す。
「そう。翔のスキル、コピーしか聞いてなかったから」
「そう言えばさっきの動画の話の続き、俺の二つ目のスキルは間違ってたな。それについて聞きたいのか」
「うん」
「別にいいけど」
「「「えっ!」」」
俺があっさりと頷くと三人が驚く。
「え、本当にいいの!?」
「あんた結構ステータスとか覚醒度とか隠したがるのに?」
「信じられない……」
「俺はいつだって必要な情報は開示して来たはずなんだが?」
驚かれるのは心外だ。俺は必要だと思ったことはちゃんと伝えているはず。
俺自身のステータスは変更するから伝えても意味ないし、覚醒度なんてもっと意味がない。
必要がないから伝えなかっただけだ。
「それでそれで!ワン君の二つ目のスキルって何なの!?」
星空が身を乗り出し、文月と如月も俺に顔を近づけと来る。
俺は三人の顔を見渡して、星空の輝くような期待の眼差しを受けながら俺の二つ目のオンリーワンスキルを答える。
「俺の二つ目のスキルは『選択』だ」
「「「選択……?」」」
「ああ」
声を揃える三人に、俺はあっけからんと頷く。
コピーはともかく、選択は隠すようなスキルでも何でもない。
「それってどんなスキルなの?」
「コピースキルで手に入れたスキルをストックできるスキル……なんだろうな、たぶん」
他人のスキルをコピーできるのがコピースキル。
コピー単体でも十分強い。最強のステータスをコピーすればそれだけで最強から始めるニューゲームが可能となるのだから。
そしてそれを拡張するためのスキルとして選択がある。
複数のスキルを所有することができ、ステータスとスキルを自由な組み合わせを可能にするスキル。
「以上だ。スキル名を言ってなかっただけで、スキルの内容は教えていたんだよ」
「「「……」」」
俺はそう締めくくる。
スキル名だけで新しい情報や隠していたスキルや力はない。
「三人して意気込んできたようだが、がっかりしたか?」
何か考え込むような表情になった三人にそう聞く。
何か強力なスキルを別に持っていることを期待していたのかもしれない。
残念ながらそんな都合のいい話はない。
そう思って三人をみるが、三人は悩んだ表情のまま、動かない。
暫くして、星空がゆっくりと顔を上げて、横の二人を見る。
そして、恐る恐る何かを確かめるようにこう尋ねた。
「……二人は今の話、どう思う?」
そう聞かれた如月が神妙な顔で頷き、文月も同意する。
「どうって……恵と同じよ」
「……そうね。私も同感」
「何だ?どう言うことだ?」
三人の意図が分からず、眉を顰めて聞くと、三人は一度顔を合わせて頷き、一斉に俺の方を見て声を揃える。
「「「そんなわけないでしょ」じゃん」」
「キュイ!」
「そんなわけないって、なんでそう思う?」
「『コピー』が仮にステータスを一個しかコピー出来ないのなら、オンリーワンスキルとして弱過ぎるからだね」
「弱過ぎる?」
どんなステータスでもコピーし、1レベから最強になれる。たとえ選択がなく、ストックが一つしか手に入らなくとも、十分過ぎるほど強力なスキルだ。
それが弱過ぎるとは一体どういうことなのだろうか。
「正直俺の知っている他のスキルよりもはるかに強力なスキルだと思うが……」
「そりゃ私達一般人が手に出来るスキルと比べるなら十分かもしれないけど、他のオンリーワンスキルと比べると弱いのよ」
「へぇ……。確かリヤンとかいうやつは『兵装召喚』だったか?あの時は聞いてなかったけど、どんなスキルなんだ?」
俺が知っているオンリーワンスキルはリヤン・マークウッドの『兵装召喚』くらいだが、肝心のスキルの内容まで聞いてなかった。
「リヤンの『兵装召喚』の能力は事前に登録した大型兵器を自由に出し入れできるっていう能力だね」
「ちなみにリヤンの『兵装召喚』のレベルは5。レベル毎に登録できる大型兵器が増えていったわ。つまり、リヤンはあの動画にあったような大型兵器を五台までストック出来るってこと」
「それと比べるとステータスを一つしかストックできないなら、オンリーワンスキルとしては弱過ぎるわ。なら、『コピー』単体でストックを増やせるって考える方が自然じゃない?」
三人にそう説得され、俺も唸る。
「……うーん、確かになー。まあ実は俺もコピーのレベル上がってるけど、これレベル上がる意味あるか、とか思ってたしな」
『コピー』で手に入れられるステータスやスキルにレベルの上限はない。
『選択』がレベルによって得られるストック数の役割を果たしていたとしたら、『コピー』のレベルが上がることによって得られる恩恵が何なのかは疑問に思っていた所だ。
思っただけで放置していたんだが、まさかこんな所で核心をつかれるとは。
「そう言えば動画でも『コピー』だけでストックまで出来るって解釈だったな」
「うんうん。そこは私達と同意見!」
「……ちょっとぶっ壊れ過ぎないか?」
「壊れてて当然でしょ!世界で唯一のオンリーワンスキルなんだから!」
「そうそう!それにゲームじゃ無いんだからバランスなんて考えてないわよ」
「それもそうか」
最弱からぶっ壊れまで何でもありだったな。
覚醒度2%で転倒阻止とかいうよく分からないスキルしか持ってない奴もいれば、剣王スキルを持ってぶいぶい言わせる奴もいる。
しかもステータスも成長速度も個々によって違うとなれば、もはや平等などという言葉は探索者には存在しない。
もしもこの世界がゲームだったら掲示板は荒れに荒れまくっていただろうな。
なるほどと納得し、改めて三人を見る。
「それにしてもよくすぐにその結論になったな。俺のスキルなのに」
「私達、ワン君がいない所でも結構ワン君のスキルについて話すんだよね。あっ、もちろん誰もいない所で、だけど」
「翔って自分のスキルに全然興味ないでしょ」
「私達はもっとフェイトの今後とかあんたのスキルの話とかしたいのに」
フェイトの今後の話って、ペットに今後も何もないだろ。
ペットの将来設計なんて考えてるやつ、世界中探しても多分いない。
俺のスキルの話もコピーに関しては話すことなんてないと思うが。
俺はそう思っていたのだが、三人は俺のスキルの考察を三人で話しているらしい。
「だから異様にはっきり断言するわけか」
「えへへ」
「褒めてねぇよ。他人のスキルなんてどうでもいいだろ」
「他人じゃないよ!私達はパーティーメンバーなんだからね!」
「……そうか」
意気込んでくる星空と、それに対して頷いている二人を見て、納得する。
命を預けるパーティーメンバーのスキルは気になるか。
そう結論づけ、改めて最初の話題に戻る。
「それで……二つ目のスキル『選択』はどういうスキルだと思う?」
「うーんそうだなぁ、選択……って言葉だけだと何を選択するのかよく分からないよねー」
「二つ目のオンリーワンスキルは大体一つ目のオンリーワンスキルを補助するようなスキルが多いわ。ウィリアムは自分の星魔法に巻き込まれないように移動する『転移』、エレナは手に入れたスキルのレベルを上げる『レベルアッパー』とか!」
「そうね。なら小鳥遊のコピースキルを補助、もしくは強化するスキルって線から考えた方がいいわね……」
「そうだな」
早口でそこまで言うと、三人は真剣に悩み出した。
俺も考えてみるが、特に思いつかない。
「『選択』の英語、は唱えてみた?」
「いや、唱えてないな。変更の英語はだいたい唱えたけど」
俺が俺のスキルの本来の姿を知った日に、『変更』の英語は軒並み唱えたが、言われてみれば『選択』の英語は唱えていない。
俺がそう言うと、三人は机に乗り出してきて興奮したように言ってくる。
「唱えてみて!」
「ああ」
俺はスマホで『選択 英語』と検索し、辞書を見ながら口に出す。
「セレクション、チョイス、オプション……何もないな」
「うーん何もないかー……」
「諦めるのはまだ早いわよ!魔物にしか使えないとか、触れてないと使えないとか、本来のステータスでしか使えないとか色々可能性あるんだから!」
「そうよ!小鳥遊、もっと色々試すからね!」
「ああ、別にいいけど」
それから昼休みが終わるまで、色々試したり、口に出したりしてみたが、結局何も分からなかった。




