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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百二十九話 探索禁止

「キュイキュイ!」


鷲のようで鷲ではない鳴き声を上げながらバサバサと室内を飛び回る音に目を覚ます。


「……うるせぇ」


眠い目を擦り、薄目で狭い室内を飛び回る小さいグリフォン、フェイトを睨みつけながらそう呟く。


何故この生き物はこんな朝っぱらから元気なのか。目覚ましみたいに鳴きながら飛び回るのやめろ。


それでもしばらくフェイトを放って横になっていると、コンコンと部屋のドアがノックされる。


そして扉の外から女の声がした。


「フェイトー!ご飯よ!」

「キュイキュイ!キュイー!」


その声に反応したフェイトが、空を滑るように滑空して扉に飛んでいく。


すぐにガチャっという音がして部屋のドアの鍵が開けられてしまった。


ドアが開けられ、ドアをノックした主が平然と部屋に入ってくる。


「キュイキュイ!」

「おはよう、フェイト。さっ、朝ご飯よ!」

「キュイ!」


声の主、文月奈々美はそれだけ言うと、そのままフェイトを連れて部屋を出ていってしまった。


その様子を薄目で見ていた俺は小さく呟く。


「俺のご飯は?」


最近文月が俺の朝ご飯を作ってくれない。


いや、もちろん文月は何も悪くない。約束していないのだから作らないのは当然だ。今までがおかしかったのだ。


しかし、急に作ってくれなくなるとそれはそれで寂しいものだ。


突然辞められた理由もよく分からない。だからと言って直接理由を聞くのも憚られる。


困った俺は暫く考えるが、特に思い当たる節もないため、そのまま目を瞑る。


「仕方ない。後でシリアルでも食べるか」


布団の中でそうため息を吐き、そのまま二度寝をした。




その30分後、のそのそと起き上がった俺は味気ないシリアルを食べ、準備をして学園に登校する。


席に着くと、すでに文月と如月、それにフェイトが教室にいた。


「キュイー!」


フェイトが俺を見つけるなり、背中の羽根をばたつかせて俺の元まで飛んでくる。


少し立ち止まりフェイトを肩に乗せ、そのまま自分の席まで歩いて行き荷物を置いて座る。


すると、文月と如月が席を立って俺の席まで歩いてきた。


「もう、やっぱりフェイトはあんたの側が一番みたいね。毎日ご飯あげてるの私なのに」

「それについては感謝している。俺がエサをあげると全然食べないんだ。何でだろうな?」

「ふーん、何をあげたの?」

「ネズミとウズラだ。冷凍のな」


せっかくフェイトが食べる用の冷凍マウスを買ったのに全然食べないので冷凍庫に眠ったままだ。


何なら冷凍国産ウズラとかも買ってみたのだが、全然食べない。


ちゃんと手順通りの処理をしてあげたのだが、どちらも匂いを嗅いで顔を背けてしまうのだ。


別にネズミもウズラも肉に変わりはないので捌くのに抵抗はないが、ペット用のエサを俺が食べる気にはならない。


だからフェイトが食べなかったエサは捨ててしまったのだ。他のエサも食べないとなると捨てなくてはならなくなる。せっかく買ったのに、もったいない。


俺がため息混じりにそう言うと、如月と文月が呆れたように言ってくる。


「あんた、そんな気持ち悪い物フェイトに食べさせようとしてたの?」

「栄養偏るからやめなさいよ」

「キュイー!」


俺の肩に乗っているフェイトも二人に同意するように鳴く。


「気持ち悪いって何だ。鷲の幼体が食べる普通のエサだ」


鷲の幼体についてちゃんと調べてから購入したのだ。身体も獅子なのでどちらも肉食に適した身体をしているはずだ。


これで頭は鷲、身体は馬のピポグリフとかになってくると、どちらを与えればいいのか分からなくなっていた所だ。


頭は肉食だから肉をあげればいいのか、身体は草食だから草をあげればいいのか。


ピポグリフを飼っている人間がもしいるなら聞いてみたい所だ。


「フェイトは魔物よ。普通の鷲じゃないわ。っていうかエサっていうのやめなさいよ。ご飯よ」

「いや、エサだろ。ペットなんだから」

「ペットじゃなくてパートナーよ」

「キュイキュイ!」

「そんなこと言われても、俺はフェイトをパートナーにするつもりはないが」

「「……」」


文月と如月は呆れた顔のまま黙り、ため息を吐く。


「とにかく、エサなんて呼ぶものをフェイトにあげないで!ご飯は私が作ってあげるから」

「分かった」

「キュイー!」


俺が頷くとフェイトが肩を飛び出して文月に飛びつく。


文月はそれを抱き止めると、髪をばさっと翻して自分の席に戻っていく。


「あんた、放任主義過ぎるわよ。もっとちゃんと面倒見なさい」

「そうか?親なんてこんなものだろ」

「まったく……」


如月も呆れて自分の席に戻っていった。




ホームルームが始まると、担任の五十嵐が教室に入ってくる。


いつもと違い、雰囲気が少しものものしく感じる。


「みんな、席についてるな。じゃあこの紙配るから一枚取って後ろに回してくれ!」


五十嵐がそう言って、紙が配られる。


順番に紙が回され、手元に来た紙の内容を確認する。


そこには生徒名簿順に探索可能な上限階層が記載されていた。


「せ、先生!何ですかこれは!」


紙を見て自分の上限可能階層を確認した坂田が叫んで立ち上がる。


「ダ、ダンジョンへの探索不許可って……。俺、迷宮探索出来ないってことですか!?」


他の生徒達も口々に不満の声を上げる。


名簿には、九割以上の生徒が上限階層欄に迷宮探索不許可と書かれており、実質的な探索禁止命令を受けていた。


「皆、静かに。今から事情を話す!」


五十嵐はそう言って生徒達を黙らせると、黒板代わりの電子版に映像を映す。


そこに映されたのは、土日の間にあったニュース映像。


そこでは、別の迷宮の十層に現れたイレギュラーモンスターによる被害の模様が中継されていた。


死者12名。3パーティーが全滅したとの報道であった。


これを受け、日本迷宮探索協会は探索者への迷宮探索を規制する動きとなった。


その波は、迷宮探索者を育てる専門学校である東迷日本迷宮攻略育成高等学園も例外ではなかった。


特にこのクラスは東迷学園最弱クラスである一年Fクラス。


未だこのクラスの生徒のほとんどが6レベ以下であり、五層の攻略に停滞している状況であった。


そんな彼らにイレギュラーモンスターの対応は確かに厳しいだろう。


「映像を見て分かる通り、今の日本国内、いや……世界中ほぼ全ての迷宮内は非常に危険な状況にある。十層以上の階層またぎをするイレギュラーモンスターが多発している。不幸中の幸いか、まだこの学園の生徒からは死者は出ていないが、死者出てからでは遅い。故に、安全マージンの大幅な引き上げを行うことが理事会で決定した」

「そりゃ先生達の言いたいことはわかるけどよー……」


そう言うと、Fクラスで生徒達は黙ってしまう。


「この学園の方針として生徒達の迷宮探索への自主性を尊重するし、その結果君達が仮に迷宮内で命を落とすことになってもそれは君達自身の責任だ」

「なら……」

「だが、自殺行為を推奨しているわけではない。この学園は、あくまで一人前の迷宮探索者にすることを目的とした教育機関だ」

「なら何で文月さん達だけ迷宮に入る許可が出ているんですかー?」


女子生徒の一人がそう言うと、教室中の視線が俺達に集まる。


このFクラスで迷宮探索が可能な生徒は、俺、如月、文月の三人だけだった。


如月と文月は五層、俺に至っては階層指定が空欄だ。何処へなりとも好きにいけということか。


「ばっかじゃないの。今更五層に行ったって何のメリットもないわよ。ねぇ、奈々美?」

「んー?何がー?」


どうやら文月はフェイトと遊んでおり、今までの話を全く聞いていなかったようだ。


なんなら紙も見てないんじゃないか。


「先生の話くらい聞きなさいよ!私達の迷宮探索が五層までになるって話!」

「んー、まあいいんじゃない?今はフェイトとの時間を大切にしたいしー、ねーフェイト?」

「キュイ?キュイキュイ!」


文月は笑顔でフェイトに問いかけると、フェイトは意味もわからず頷いている。


「全く。最近はフェイトばっかりなんだから」


そう言って如月がつまらなそうに言うと、文月がニヤニヤしながらそれを茶化す。


「何?フェイトに嫉妬してるの?双葉はかわいいわねー」

「キュイキュイ!」

「うっさい!そんなんじゃないわよ!」


文月が手を伸ばして如月の頭を撫でようとして、如月が嫌そうに手を退ける。


フェイトも文月の真似をして如月を撫でようとしているのか、小さな獅子の後ろ脚で立ち上がりその鷲の両手を精一杯伸ばしている。


そんなフェイトが可愛かったのか、如月はフェイトを抱き抱えてその大きな胸で抱き締める。


「あ、ちょっと!フェイトを取らないでよ!」

「奈々美は散々フェイトと遊んだでしょ!次は私よ!」

「お前らー、まだホームルーム中だぞー」


五十嵐がそう言うが、文月達は気にしない。

このままだとホームルームが終わらないな。


そう思った俺はフェイトを呼ぶ。


「フェイト。こっちに来い」

「キュイ?キュイー!」

「「あっ!」」


すぐさま俺の声に反応したフェイトが如月の腕を抜けて俺の元まで飛んでくる。


「ちょっと、小鳥遊!」

「フェイト取らないでよ!」


二人がそう抗議をしてくるが、取ったんじゃない。呼んだら来たんだ。

俺は二人の抗議を無視して前を向いていると、五十嵐がため息を吐きながら話を進める。


「はぁ、ったく。文月、如月、お前ら二人は大丈夫だと思うが六層より下には行くなよ。破った場合、退学もあるからな。お前らもこっそり迷宮に行こうとするなよー。以上、ホームルームを終わりだ」


そう言って五十嵐が教室を出て行った。


五十嵐が教室を出るのと同時に文月と如月がすぐに立ち上がり、俺の元まで来る。


「俺を睨むな」


二人は黙ったまま何故か俺を睨んでくる。お前らがいつまでも喋ってホームルームを止めるからだろ。


俺に非はない為無視していると、根負けした如月が聞いてくる。


「あんたはどうするの?」

「何が?」

「迷宮探索よ。話の流れでわかるでしょ」

「別に変わらない。禁止されていないなら行けるところに行って金を稼ぐだけだ」

「そう。あんたなら心配ないと思うけど、気を付けなさいよ」

「ああ」


そう言って、またフェイトを連れて自分の席に戻って行った。ちゃっかりしてるね。

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